2011/01/31 00:03
狼×赤頭巾






俺は美形が大嫌いだ。
あのキラキラしたオーラに気圧される。そして美形はなんだかそれだけで凡人を見下していそうで嫌だ。
まずなんで美形ってだけで特になるんだ。世の男は女の子だって性格が同じくらい良いなら美人の方がいいらしい。女の子だって、友達に彼氏を自慢するならぶさいくより美形のが絶対に良いだろう。
故に世の中不条理である。
美形ってやつは、俺の傍に山ほどいて、山ほど俺の獲物をよこどっていきやがった。嫌いだ嫌い、大嫌いだ。
でも、一番嫌いなのは、


なんだかんだ言って、美形を直視出来ない俺自身である。


美形を直視するだけで赤面、どもり、痙攣などみるひとによっては、"危ないひと"に見えかねない症状を引き起こす。何度街中で美形に遭遇し、ポリスを呼ばれかけたか、俺の正体がばれたら仕事がしにくいじゃねぇか。

紹介遅れたが、俺の名前は狼。決まった名前はない。そんなもんは基本存在しない。群れのトップを最近の若い狼に譲ったいわば老いぼれの隠居野郎だ。(老いぼれっつっても歳は若いんだがな)
まぁ若い奴のやり方に口出しすんのも野暮ってことで、暇な俺は下っ端に聞いた"旨そうな人間"がいると噂に名高いこのあたりまで散歩に来たのだ。
にしても、

「人、いねぇ…」

騙されたのか?もしかして俺は騙されたのかよ?鬱蒼とした森の中をひたすら進むが、ひとの気配どころか民家のひとつも見当たらない。
(んなところに、本当に旨い人間がいんのかねぇ)
がしがしとぼさぼさの髪を掻き混ぜながら頭を傾げる。
旨そうな人間、と狼が例えるくらいだ。旨そうな人間、つまり肉の柔らかい未発達の人間。年端の少し経った子供なんかは血すら甘美だ。そして筋っぽい男より、女だろう。
ほどよく脂肪のついたそこに歯を食い込ませた感覚を想像して、唾液がうっかり垂れる。おっと、いけねぇ。
最近運ばれてきたものばかりを食べていて、新鮮なものを狩ってないせいか血が沸き立つ。刹那、茂みが揺れ、反射的に俺は木の上に息を潜めた。(狼の中でも登れるのは俺くらいなんだ)
そこにいたのは目深に頭巾を被った不自然な恰好の少女、否、少年か。手には果物や酒やパンなどが入った籠を持っており、中身からすると誰かの見舞いにでも行くのだろう。少年の足取りは鼻歌でも歌い出しそうなくらい軽やかだった。
(…あれか?)
確かに見た目は顔の造形こそ伺えないが、プロポーションの取れた体つき、薄い色をしたきめ細やかな肌。これで顔さえ整っていれば完璧だろう容姿だ。
しかし、旨そうかどうかと聞かれたらそうではない。骨張っていて肉も薄いし、硬そうだ。食べる部分が少ない。
しかし、どうしてだろう。目が離せないのは。

「…お母さんは言ったのだ、」

少年がボーイソプラノで歩むリズムにそって歌い出す。

「暗い森には気をつけなさいと、」


足元を照らすランプをひとつ
そうそう風邪を引かないように上着を持って
バスケットはもった? あらあら大変パンもいれましょう
気をつけなさい
顔を隠す赤いずきん 忘れてはだめよ
暗くなるまえにお家へおはいり
暗くなるまえにお家へはいるの

どうしてって?決まってるわ

暗い夜には狼が出るから


「聞かない悪い子は」

「はらわた裂いて食べられちゃうぞ、と」
…こえぇ。
童謡というものはなかなかどうしてグロテスクなものが多い。どうしてなんだ、俺でさえどきっとしてしまった。そんな歌を楽しそうに口ずさむ彼はどういう神経をしているのだろうか。
それにしても、ばれたのかと心配したが、そうでなかったようだ、安心した。
(性格は最悪、っと)

「…」

ぴたり、先程まで軽やかに進んでいた少年の足が止まる。どうかしたのかとこっそり伺えば、少年はゆっくり上を見上げる。
まるでスローモーションのようだった。刹那バキッと不振な音と共に足元の空白。あぁ、最近出てきた腹のせいだな、なんて冷静に考えながら俺は現実を悟ったのだ。






続きはまた今度書いてウプる。

ばちこーん!


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