あれから何度春を迎えたかな。たくさんの出逢いと別れを経験した。それでも愛しい人とは、ずっと一緒だった。

出会ってからもう何年経つだろう。初めて会ったのは12歳の春だったかな。俺は最初謙也のことを忍足くんと呼んでいて、明るい謙也は太陽みたいに笑いながら名前で呼べばええやんか!なんて言ってくれた。その笑顔、すごく可愛いと思った。

多分その瞬間に一目惚れしたんだと思う。

あれから…そう、もう9年がすぎた。誕生日の遅い謙也はつい先月20歳になった。その逆で誕生日の早い俺は今日で21になる。
中学でのテニス漬けの毎日を終えた俺たちは付き合うことになり、それから大きな喧嘩もなく今までずっと続いている。
あの頃と違って最近は二人でお酒を飲んだり遠くまで出掛けるようになったりして、やっぱり変わっていくんだなあと思う。でも、俺が謙也を好きなことはこの先ずっと変わらないだろうなあとも思う。






「なあ蔵、昔のアルバム持っとる?」

「ん、あるで。ちょっと待ってな。」



二人でアルバムを見たい。恋人からの突然のなんとも可愛らしい申し出。すっかり慣れてしまったマンションの一室ではっきりと覚えているアルバムの収納場所へと歩み寄る。あぁ、背中から視線を感じる。謙也は座っているからきっと上目づかいなんだろうな。
アルバムにほんの少しついていた埃をはらう。そしてまた、大人しく待ちながらも早く見たいと期待に満ちた表情で俺を見る謙也の隣に座る。

ゆっくりとアルバムの最初のページを開いた。



「集合写真や。皆若いなー。」

「謙也はあんまり変わってへんなぁ。」

「んー、そうかも。」




写真の中の俺たちは輝いている。確かこれは最後の全国大会の前に撮ったもの。この頃は皆同じゴールを目指してた。優勝というゴールに、皆で全力疾走していた頃。

でも、今は違う。

みんなバラバラだ。

中三になってやって来た千歳は、九州に帰って大学に通いながらテニスクラブのコーチをしているらしい。プロにならないのかと尋ねた記憶がある。確か、この目じゃこれ以上上は目指せないと言っていたっけ。
小春は外国の大学へ行ってしまった。頭の良さを存分に発揮できる場所を見つけたようだ。電話をかけたら思い切りネイティブな英語で対応されて少し困ったことがある。
ユウジは地元の大学で、家も実家のままだから時々会う。本当はお笑い芸人になりたい!とかで、この春からは大学に通いながらも色んなところでオーディションを受けるらしい。
銀は東京の実家に帰った。有名な私立の大学に通いながら、テニスを続けているらしい。銀にもプロになるのかと聞いたが、自分のテニスには力技しかないから相手を傷つけてしまう、プロになればそれはまずいとかで身を引くと言った。
小石川は相変わらず地味に地元の短大を出て、地味に就職して俺らより少し早く社会人になった。スーツをしっかり着こなしている姿は、どこかいつもよりも頼もしく見えた。
光は東京の専門学校。いつか自分の店を持ちたいと言って専門学校で音楽について学びつつ、独学で経営学もやっているらしい。正月に大阪に里帰りした財前の目の下には、薄くクマができていた。
金ちゃんはもちろんテニス。自分にはテニスしかないと断言して、スポーツの名門校に入ってプロになった。時々夜中にテレビを付けたときにその姿を見る。俺よりは少し低いが大分身長も伸びて男らしくなっていた。
そんで、オサムちゃん。一昨年元教え子と結婚した。結婚式で久しぶりに会ったオサムちゃんはあの頃よりも歳を感じさせた。でも中身は同じ、明るくてうるさくて面白いままだった。

一人一人みんな違う道。もう同じユニフォームを着ることはない。



少し、寂しく感じた。






「……蔵?」

「えっ、ああごめんな、昔にトリップしてもうてた。」




なるべく平常心で謙也に応対する。感傷に浸るなんてキャラでもないのに何をやってるんだと言い聞かせ笑顔を作った。







「俺は、ずっとそばにおるよ。」

「…?」



「蔵が寂しくないようにずっとそばにおるから、そんな顔せんとって…」







謙也は狡い。俺の心の中を読んでるんじゃないだろうか。もしかしたら俺が口に出していたのか。そのくらい、的確に欲しい言葉をくれるんだ。
何年経ったって気遣い上手なところは変わらなかった。出来ることならこれからもずっと変わらないでいて。俺の誕生日だし、その約束を貰おうかな。








「誕生日おめでとう。」










20080413


ちゅーとはんぱ!ごめん謙蔵夫婦。←←←←
新学期始まったら意外に時間が見つからなくて困る。でもなんとか書き上げられてよかった…!次は企画ですね。
拍手ありがとうございました!