益者三傑


[2017.6.11 22:52 Sun]
ヴァン+シオン+レン春(妖精シリーズ02)

「今日のカップルさんはこの2人やな」

月の蜜をいっぱいに詰めたポットを持って、ヴァンが人間界に降り立つ。いっぱいに詰めた…といっても、ヴァンたちはニンゲンでいう手乗りサイズなので、そのポットも小さい。その微量な月の蜜でも、恋人たちの甘い想い出に華を添えることが十二分に可能だ。

今日のヴァンの現場は、ショッピングモールのフードコート。周りでもたくさんのニンゲンが、似たような机を楽しげに囲っていた。



episode2 ショッピングモール



「レディ、飲み物を買ってくるから、先に食べておいて。せっかくのアイスが溶けちゃうといけない」
「わかりました。荷物番、がんばりますっ!」

男の方が席を立ち、見送る女性。視えないとはいえ、2人きりを邪魔するのは悪い…手早く済ませようとヴァンは見送る女性の背中を見て、アイスに月の『恋』の蜜をかけた。

「あの…」

突如、女性の口から言葉が出る。周りの喧騒はそのままだ。流れゆくニンゲンが立ち止まった気配はない。ヴァンが、そろそろと顔を上げると、ばっちり女性と目が合った。

「!」
「…妖精…?…はっ、またハルちゃんはロマンティックねとか林檎先生たちに言われてしまいます…!でも…こんな小さい人間なんていませんよね…やっぱり…」
「レディ!待たせてゴメンね」

蛇に睨まれた蛙のように固まっていたヴァンは、女性の目が逸れた隙を見て、楽園へと帰った。

「神宮寺さん!今ここに、妖精さんが…」
「妖精?」
「あれ?い、いません…!!」
「ふふ、ホントにレディは可愛いね」

アイス、食べてないじゃない。溶けちゃうよ?そう言われて、女性は首を傾げながらもスプーンで控えめにアイスを口に運ぶ。

「あまい…」
「そりゃよかった」

いつもより、あまいです。と、はにかむ姿は、華のように可憐で…男性は再び恋に落ちる感覚を覚えたのだった。






「焦った…」

視えるニンゲンがいる…そんな迷信のような話が本当にあったことに、夜の楽園にてヴァンは驚いていた。

「何か特別な子なんやろか…」

ヴァンの『記憶の中』には視えるニンゲンは存在せず、色々な仮説を立ててみる。

「にしても…健気で…カワイイ子やったな…また会えるやろか…」

また『恋』の蜜をかけに行くことが出来れば、今度は話せるかもしれない。それがあまり良くないことと分かってはいても、ヴァンの気持ちは先走っていた。
使った蜜を補充しに、泉へと向かうと先客の同僚がいた。

「シオン!聴いてや、今日視える子に会ったんやで!」
「そうか…それは珍しきこと」
「ワイと目が合ってからも、1人で表情がくるくる変わってな。めっちゃ可愛らしい子やったで」
「ヴァンは…その子を好いているのか?」
「へっ?」

当然、ニンゲンとなど結ばれることがないことはヴァンにも理解していた。しかし、シオンの真っ直ぐな目と神妙な声のトーンに、へらりとした笑顔が固まった。

「ヴァンがその子に会えたのは何故か?『恋』の蜜をかけにいったのだから…勿論その子が既に恋をしているゆえ…。その恋の相手は、もちろんヴァンではない。そして、その子の恋が破滅しようが、成就して愛に変わろうが、ヴァンはその子に会うことは叶わなくなる…」
「シオン…?」

いつになく真剣な同僚に、気圧される。

「ゆめゆめ、ニンゲンを、好きになってはならぬ」

シオンが、ヴァンにこれ以上の罪を背負わせないために、ヴァンを想って、絞り出すように言ったこの言葉。その真意を、記憶のないヴァンには計り兼ねたのだった。




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↓参考↓
#のろいをかけられた
shindanmaker.com/628920


170611






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