粗方の指示を終え、一息ついた昆奈門は傍らで高坂と話をしている山本へ声を掛けた。


「陣内、提案があるんだが」


直ぐ様話を中断し、山本は主へと向き直った。


「水路整備に必要な人手、この土地の者達を雇うのはどうだ?」

「宜しいと思いますが、それだけの働き手が集まるでしょうか‥」


昆奈門の案に対し、山本は不安げに眉を寄せる。


「今この土地に必要なのはその日の食糧だ。
ならば昼飯と日当が出るなら、皆歓迎のはず。
それに老若男女問わずとすれば更に人手は集まるだろう」


そこまで聞き、納得した山本が頷くと同時に、偶然話を聞いてしまったのか飛蔵が部屋の外から身を乗り出した。


「ざ、雑渡様、その話は本当でごぜぇますかっ?」

「嘘を言う必要があるまい。
ここでの収入が無い以上、こういった方法が一番だと思ってな」


「でも、銭を稼げてもこの土地にゃ商人が‥」


確かに、食い物にありつけるとしても、買い物をする為には少なくとも山を越えて町まで行かねばならない。


馬がいるなら話は別だろうが、食うに困る住人達に足となるものは無く、この貧しい土地に来る行商人も当てには出来ないだろう。


「それも問題無い」


暗い表情の飛蔵が何を言わんとしているのか察し、昆奈門が口を開く。


「我々が町の商人達の仲買役となって品物を運ぼうと考えていた。欲しい品をウチの部下に言えば、数日後には此処へ届けれる様にし、品物と代金を引き換えれば必要な物も手に入る。
更に町へ行った際に、商人達へこの土地の話を流せば商いをしに足を運ぶ者も出てこよう。
町からの流通も生まれれば、物資に困ることも無くなる」


昆奈門の話を最後まで聞くと、最早飛蔵の口から言葉は出てこなかった。


安易に疑問を口にしたが、更に先の先まで見通した対策を講じようとする昆奈門の姿が仏の様に見え


飛蔵は心からの感謝を伝えようと両手を合わせて深く深く頭を下げた。




それしか昆奈門へ伝える術を思い付かなかったのだ。