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[花弁散る彼の下で…]雑乱パロ第13話









暗い山林から降りて、飛蔵の家へ着いた一行。




すぐにでも考えをまとめる為に話し合いたいという昆奈門に、飛蔵は自宅の提供を申し出てくれた。


「本当に何から何まで申し訳ない」


深々と頭を下げる昆奈門に、飛蔵からは「とんでもねぇ」と声が返ってくる。


「俺らは俺らで出来る事をしているだけでさ。
何でも言って下せぇ、どんな事でも協力させてもらいやすよ」


どこまでも気さくに人の良い彼の言葉に、昆奈門は再度「かたじけない」と頭を下げる。


再び頭を上げた時には、既に領主としての表情に切り替わっており


それを目にした山本達に緊張が走る。


特に尊奈門はどの様な指示が下されるのか想像もつかず、余計に強張った顔になっていた。


「まずは人妖の件だが、今の所被害が無いようなので様子見とする」

「宜しいのですか?」

「先程も言ったが、お乱殿は信用に足る方と私は考えている。
お前達が信用出来んと言うのであれば、お乱殿の様子を窺っても良いが‥」


言葉を濁す昆奈門に、部下達からは苦笑が漏れる。


「何を言っておられるのですか。
昆奈門様が信用すると申されるのならば、我々はそれに従うまでです」


山本がキッパリと言葉にし、高坂と尊奈門もそれに続いて頷いてみせた。


それ程に部下から厚く信頼されているのだと実感出来、昆奈門からは満足げな笑みが零れる。


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[花弁散る彼の下で…]雑乱パロ第12話



嬉しそうに笑うお乱に見送られ、昆奈門達は鬱蒼と茂る山道を下っていた。
「…昆奈門様、誠にあの人妖の話を信じられるのですか?」


黙々と歩いていた尊奈門が、訝しげに声を上げる。


誰だって初めて会った者、それも人間ではない者を直ぐに信じるなど易々と出来るものではない。


“妖の類いは人を騙し、たぶらかすもの”


そういう話が多い為に、尊奈門はお乱の話を信用することが出来ずにいた。


「お乱殿の言葉に嘘はなかろう、お前に信じられなくともな」

「…っ」


まだ感情で突っ走る傾向にある若者なのだ。


仕方が無いものと、昆奈門は無理に諭そうなどとは考えない。


「お前も、お乱殿と付き合えば分かってくるだろう」


それだけ言い、昆奈門はからかう様な笑みを浮かべた。









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[花弁散る彼の下で…]雑乱パロ第11話



嬉しそうに笑うお乱に見送られ、昆奈門達は鬱蒼と茂る山道を下っていた。
「…昆奈門様、誠にあの人妖の話を信じられるのですか?」


黙々と歩いていた尊奈門が、訝しげに声を上げる。


誰だって初めて会った者、それも人間ではない者を直ぐに信じるなど易々と出来るものではない。


“妖の類いは人を騙し、たぶらかすもの”


そういう話が多い為に、尊奈門はお乱の話を信用することが出来ずにいた。


「お乱殿の言葉に嘘はなかろう、お前に信じられなくともな」

「…っ」


まだ感情で突っ走る傾向にある若者なのだ。


仕方が無いものと、昆奈門は無理に諭そうなどとは考えない。


「お前も、お乱殿と付き合えば分かってくるだろう」


それだけ言い、昆奈門はからかう様な笑みを浮かべた。









.

[花弁散る彼の下で…]雑乱パロ第11 話





まるで、魔の森に囚われた姫君のようだ




幼い頃に読んだ御伽話を思い出し、昆奈門はそっとお乱の肩に手を添える。


「それ以上自分を責めないで欲しい。
ここから先は、私が手をお貸ししましょう」


慰めるような優しい声に、お乱が目を丸くして昆奈門を見上げれば


彼は柔らかな眼差しでニコリと笑った。


「…なぜ?」

「元々この土地へは、その目的で参ったのです。
たがら、もう泣かないで欲しい」

昆奈門の言葉が彼女の中で浸透し、広がっていく。






ずっと、ずっと




自らは何も施すことが許されず、嘆くことしか出来なかった




何度、山を下りてこの身ひとつでも役に立てればと夢を見ただろうか






「……っ」

「ここへ来るのが遅くなってしまった、誠に申し訳ない」


お乱の瞳から、嘆いていた時とは違う涙がポロポロと溢れる。


頬は紅く上気して、彼女の表情は歓喜に満ちていた。


「雑渡様っ、私は何とお礼を言ったら良いのかっっ」

「私のことは昆奈門で構わない、お乱殿」

「昆奈門様っ」


その言葉を最後に、お乱の言葉が続くことはなく


堰を切った彼女の涙が溢れ、言葉を紡ぐことが出来なかった。


まるで少女のように泣きじゃくるお乱を、昆奈門はただ黙って優しく抱き締めていた。






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[花弁散る彼の下で…]雑乱パロ第10 話



踏み込んではいけなかったか、と昆奈門が考えていると、彼女の視線が再び虚空へと向けられた。


「‥また、消える」


呟き、お乱の顔が悲痛に歪む。


胸元に当てる手に力が込もり、堪えられずにまた彼女の頬を涙が伝う。


どうにか込み上げる苦しみと悲しみを抑え込んだお乱は眉を歪めたまま昆奈門へと向き直った。


「皆様の察しの通り、私は人ではありません。
この桜が私自身‥本体と言った方が解り易いでしょうか」


桜の幹に手を添え、話すお乱の表情は依然悲しげなまま。


「人の言う妖と呼ばれる類だと思いますが、人を襲うことは致しませんので、ご安心下さい」


僅かに微笑んでみせるお乱が、無理に笑っている様に見え


昆奈門が遮るように声を掛けた。


「また消える、とは‥何です?」


ビクッ、とお乱の肩が震える。


出来るならば問われたくなかったのだろう。


視線を泳がせ、話して良いものかどうか迷いを見せた。


少し間を置いて、意を決したらしいお乱がひとつ深呼吸をして昆奈門を正面に見据える。


「私はこの土地に生きる命を感じ取ることが出来るのです。
そしてこの土地を潤し、少しでも多くの命を育むことが私の能力なのです」


強い意志を感じさせる眼差しは、彼女が嘘をついていないと確信するに足るものだ。


警戒を解いた昆奈門に従い、高坂達も刀に当てていた手から力を抜き、下げる。


「以前までは緑豊かな土地に出来たのですが、八年前から続く流行り病を抑え込むのに力を使い果たしてしまい
今ではこの山に薬草を生やす位しか出来ず‥」


段々と彼女の声が震えだした。


この地のあまりの荒れ様に心の底から悲しんでいるのだろう。


袖で口元を隠しているが、きっと押さえていなければ嗚咽まで漏らしそうな程にお乱の表情は歪んでいく。


「なぜ、山を下りて行動を起こさないのです?」


言葉を続ける様子の見えないお乱に昆奈門が促せば


気持ちを幾分か落ち着かせた彼女がゆっくりと口を開いた。


「私はこの山、この桜から離れることが出来ません。
田畑を耕すことも、雨を降らすことも出来ません‥。
ただただ、飢餓に苦しんで消えてしまう命を感じ取るだけ……
今の私にはそれだけしか出来ないんですっ」


悲痛な叫び声を上げてお乱は自らを抱き竦める。


そうでもしなければ立っていられないのだ。


手を差し延べれば助けられるかもしれない命に、それすら許されない自身の体が


どこまでも怨めしく、呪わしいに違いない。


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