空には鳥達の歌うようなさえずりが明るく響き渡り、ふわりとした風が木々を揺らす。
川は太陽の光が反射してキラキラと輝き、時たま、ヒラヒラと落ちてきた葉をさらさらさらさら運んでいた。
そんな爽やかで穏やかな、
とある朝の出来事。
「……ん〜…、よく寝ただぁ。」
いつも通り、日の出とともに起床したチチは、まだ完全には覚醒しきっていない頭のままのっそりとベットから出る。そこで大きな欠伸を一つ。
窓のカーテンを大きく開け、朝日をしっかりと浴びたチチは朝食の用意をしにキッチンに向かおうと、ベットの横を通りすぎようとした。その時、彼女はあることに気づき立ち止まった。いつもなら自分より早く起きて修行に行っているはずの悟空がまだベットに横になっているのである。
───今まで一度だって、自分より遅く起きたことなどない夫が。
(……?)
その異変に、チチは疑念を抱き、首をかしげる。こんなこと、夫が風邪を引いた時でさえ一度もなかったことだ。
彼女は静かに悟空の傍らへと近づいた。
「……悟空さ、寝てるだか?」
顔を覗きこみ、問いかけるように声をかける。
だが、悟空は全く返事を返さない。
それどころかいびきもかかず、寝返りも打たず、まるで薬で眠らされているかのように身動きひとつしない。
こんなに静かに眠る夫は見たことがない。そう言いたげにチチは悟空を見つめる。
言い知れぬ不安が彼女を襲い、心を侵食し始めていた。
みるみる表情が固くなっていく。
チチは、異常なまでに静かな悟空を目覚めさせるべく、強く体を揺さぶった。
「なぁ、起きるだよ。悟空さ…!悟空さ!!なぁ、悟空さ!!!」
ユサユサとどんなに強く何度も揺さぶっても、どんなに大声で声をかけてみても、返事はまるでなく、悟空は一向に起きようとしない。
そんな悟空に、チチの不安は益々増していく。
その時、チチの脳裏に考えたくもない嫌な仮説がよぎった。
(………まさか。)
チチは脳裏をよぎったモノを振り払うように必死に頭を振る。そんなこと、あるはずない。あってほしくない。
そんな願いを託して、チチは恐る恐る悟空の頬に触れた。
「……あったかい。」
想像した結果とは違い、チチは心の底から安堵した。勘違いで良かった。そう思い、涙がにじむ。
けれど、悟空は一向に起きる気配がない。
──何故夫は目覚めないのだろう。
原因は全くの不明。
呼吸に乱れがあるわけでもなく、何処かに傷を負っているわけではない。
見た目はいたって健康そのもの。
考えれば考えるほど困惑し、どうしたらいいのかわからなくなる。
チチは、ブルマに助けを求めることにした。
───この異変こそ、これから始まる悲劇のプロローグとなるものであった。
(此処は、いってぇ何処だ──……)
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言い訳→