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タイトルなし

タイトルなし



昔から、職業柄女の人に言い寄られることがやたらと多かった。
大抵がTVのイメージや見てくれだけで好いてくるやつばかりで、本気で俺のことが好きなわけじゃない。
それでも何となく気が合えば付き合ってみたりして、その内面倒になって別れを切り出すのが常だった。
若しくは俺の気持ちが無いことに気づいて向こうから別れを切り出してくる。
何故気づくか、と言われれば、それは至極簡単な理由だった。
俺が全く手を出さないから。

元から大して性欲が強い方でも無い。
キスも、ただ相手が綺麗な顔をしているからといってしたくなる訳でもないから、それすらしないまま終わることも多かった。
早い話が、そんなに好きじゃないから、何かしたいという気持ちにならないのだ。
付き合っても当たり前に仕事が最優先だし、プライベートも趣味の優先順位の方が高い。
会う頻度も低く、会っても大して何もしない。

一応それは最初に明言しているけれど、相手もまさか本当にここまで何もないとは思わないのだろう。
それでもいいから付き合って、なんて言っといて、ツマラナイと分かると平気で振ってくるのだ。
そして、そんな時は決まって、「せめて最後にキスして」なんて言ってくる。
申し訳なさと面倒なのもあり、言われればその通りに義務的な口付けを交わしていた。


そんな生活が続いたある日、相方である堂本剛から告白を受けた。
正気とは思えない突然の行動だったにも関わらず、どうしてかそれをあっさり受け入れる自分がいた。
返事を期待している訳ではなく、抱えきれなくなったからただ伝えたかった、と泣きそうな表情で語る彼が可愛らしく思えて、自然と口が動いた。

「そんなら、付き合おうか」
「え…っ、」
予想外であろう返答に瞠目した彼は、ややあって頷き、健気にも礼を述べた。


それから数ヶ月。
仕事場ではいつも通りの距離感を保ちつつ、プライベートでは互いの家に行くことが増えた。
どちらかが食事を作って談笑しながらそれを食べ、一緒にTVを見たり、好きなように寛ぐ。
今まで付き合ってきたどの人よりも自然体でいられて、居心地が良かった。

それでも、例に漏れずやっぱり手は出さないままだった。
ただ、いつもとその理由が違う。
以前はその気にならなかったから何もしなかっただけだけれど、剛の場合はしたくなってもなかなか出来ないのだ。
単純に、タイミングが掴めない。
長年共に過ごし過ぎた結果、二人の関係は恋人と言うよりもはや熟年夫婦に近く、艶っぽい雰囲気に持って行きづらかった。

TVを可笑しそうに眺める横顔を見て、口付けたい衝動に駆られても、振り向いた彼が不思議そうに首を傾げるので、なんでもない、なんて誤魔化してしまう。
泊まりたいとか、泊まっていって欲しい、なんて言葉も言えなくて、未だに夜を共にしたこともなかった。

「光一、今日家に行っていい?」
「えぇよ。俺車やから、終わったら乗せてくで」
番組収録の合間、誰もいない二人だけの控え室でそんな会話を交わす。
あと数時間したら仕事から解放されて、彼との時間を過ごせると思うと気持ちが軽くなった。
今までの相手には申し訳ないけれど、正直これが初めてなんじゃないかと思えるくらいまともに恋愛感情を抱いている自分がいる。
恋人の為に仕事を頑張る、とかそんな発想はこれまで全くなかった。
むしろ、連絡せなアカンな、面倒やな、でも放置したら怒るんやろな、なんて考えてばかりで、今思うとお互いマイナスな関係だったことの方が多い。

彼を想う気持ちが日増しに大きくなるのを自覚しながら、待ち遠しい時間へと思いを寄せた。


収録が終わり、衣装を着替えて楽屋を出た。
あっちでスタッフさんが呼んでますよ、なんて言われたから、一人で廊下を歩く。

なんで俺だけなんやろ。
てかあっちってどこやねん。
こっちはトイレとか喫煙所とか、そんなんしかないやん。

なんかおかしいなと思いながらも言われた通りの道を行くと、突き当たりを曲がってすぐの、自動販売機の前に一人の女性が立っていた。
見覚えは全くない。
小綺麗にしているところを見ると、スタイリストか何かか、どちらにしろ自分たちの担当ではないはずだ。
嫌な予感が胸を過ぎる。

すると恥ずかしそうに口を開いたその人が、大方予想通りの言葉を口にした。
「いきなり呼び出してすみません。私ずっと光一さんのファンで…、本気で好きなんです。光一さんて、今彼女とかいるんですか…?あの、もし居ないなら私…っ、」
言いかけた台詞を遮り、恋人がいるという旨の言葉を伝える。
すると彼女は顔を強張らせ、泣きそうになりながら再び口を開いた。
あぁ、また嫌な予感がする。
「彼女が居ても、2番目でもいいから、私と付き合ってくれませんか…っ」
「…いや、何言うてんの。そんなん言うもんやないよ」
「でも…っ、どうしても諦めきれないんです…!」
必死にそう訴えてくる彼女を宥め、諦めるよう促す。
申し訳ないほどに、少しも心は揺らがない。
早く帰りたいとしか思えなくて、必死に説得を続けた。

「ほんまにごめん。そういうことやから、悪いけど諦めてや」
「…分かり、ました。諦めます…。その代わり、思い出に一度だけ、キス…してもらえませんか」
またこの台詞。
女の人はどうしてそんなことをして欲しがるのだろう。
キスをしたからといって、俺の記憶に彼女達が刻まれる訳でもないのに。
気持ちのない行為はなんの意味もなさない。
ただの自己満足なんだろうけれど、。全く理解できなかった。
「…したら、ほんまに諦めてくれるん?そんで、俺に恋人がいるって話も、もちろん誰にも言うたらアカンで」
とにかく早く切り上げたくて辟易しながらそう告げれば、期待に満ちた目で頷かれる。
手っ取り早く終わらせるには、相手の要求を一つ受け入れるのが一番。
仕方なく近づき、唇を掠める程度のキスをくれてやった。

熱を帯びた目で礼を言われたけれどそれもどうでもよくて、それよりも早く剛に会いたくなった。
口直しをしたい。
彼にすらまだしたことがないのに、なんで知らん奴なんかに。
そう思いながら踵を返して廊下を進むと、慌てた様子のスタッフが駆け寄ってきた。
「光一さん、なんかあったんですか?」
「なにが?なんもあらへんよ。…なんで?」
「いや、今剛さんがすごい気分悪そうな顔して走っていったから、なにかあったのかと…。呼び止めたんですけど行っちゃって…」
ドキリと心臓が高鳴り、眉間に皺を寄せる。
まずい。
見られたのかもしれない。

適当に誤魔化してその会話を打ち切ると、すぐに楽屋へ引き返した。
そこにいるのは自分のマネージャーだけで、剛とそのマネージャーの姿が見えない。
「え?剛さんなら今帰りましたよ。マネージャーの車で。なんか用あったんですか?」
その言葉を聞き、疑惑が確信に変わる。
絶対見られた。

急いで携帯にかけるけれど応答はなく、愛車に飛び乗って彼の家を目指した。
さすがにまずい展開だ。
絶対に怒らせた。
会ったとしても、話も聞いてくれないかもしれない。


ドキドキと嫌に早まる鼓動に急かされながらマンションに到着し、もらっていた合鍵を使って彼の部屋を訪れた。
玄関で声をかけても返事はない。

恐る恐る室内に入り込み、リビングでソファに腰掛ける彼の姿を見つけた。
名前を呼ぶと、彼が振り返る。
その顔に怒りの色はなくて、むしろ何事もなかったかのように声をかけてきた。
「ごめん、忘れとった。僕が家行くはずやったやんな」
そんな台詞は嘘だとすぐに分かる。
謝りたくて近づくと、彼は気まずそうに目をそらした。
「剛…、ごめん。見とったんやろ…?」
何を、とは言わずとも、示すのは一つしかない。
彼は目を伏せ、小さく口を開いた。
「ごめん…。覗き見るつもりはなかったんやけど…、光一探してたら声聞こえてきて…、つい見てしもた」
「剛が謝る必要ないやん。ほんまにごめん…。でも、あの女の子のことは何とも思ってへんし、告白も断ってん。それだけはホンマやから、」
「うん…そこも聞いた。諦めさせるためにしたってことも…、ちゃんとわかってる。やから…大丈夫やで」
へらりと笑った彼の表情が強張っていて、胸がズキンと痛んだ。
全然大丈夫なんかじゃない。
無理して笑う彼の姿が酷く悲しくて、心が苦しくなった。

こんなときに、どうして彼は物分かりのいいフリなんてするんだろう。
傷ついていないはずがないのに、健気にも仕方ないと思い込もうとしている。

「なんで…、怒らへんの?なぁ、…剛、ほんまにごめんなぁ…。俺、最低なことしたやんな…」
怒りをぶつけて、殴ってくれたらどんなに楽だろう。
彼はそれをせず、怒りよりも悲哀を滲ませながら沈黙を貫く。

そんな彼に対してどうやって償ったらいいのか分からず、彼の頬を両手で包み込んだ。
背けようとする顔を無理やり上向かせ、じっと目を見つめる。
「我慢せんで…?ちゃんと怒って、俺のこと、ちゃんと責めてやぁ…」
懇願するようにそう呟くと、彼は顔を歪め、みるみるうちに涙を浮かび上がらせた。
堪えていたものが限界を迎えたというように、それはポロポロと零れ出し、柔らかな頬を濡らしていく。
「剛…」
「…なんで…、僕もされてへんこと、知らん子がされてるん…?なんで、僕より先にっ…、」
「ごめん、ほんまにごめんっ…」
素直に泣き出した彼が愛しくて、それ以上に申し訳なくて、謝りながらきつく抱きしめた。
本当は口付けてしまいたいけれど、今それをしたら宥める手段としてご機嫌取りにしているみたいで、今更出来なくなってしまった。
おろおろと取り乱しながら頭を撫で付け、何度もごめんを繰り返す。
「気持ち、なくても…っ、どんな理由でも…っ、他の子とされんの、僕、いややぁ…っ」
ふえぇんと駄々をこねる子どものように泣きながらそう訴える彼はひたすらに愛らしくて、どうしようもないほどに庇護欲を駆り立てられる。
胸がきゅっと締め付けられるのを感じながら、真っ直ぐ目を見つめて懸命に言葉を紡いだ。
「ごめん…、剛くん。もう絶対せぇへんから。…それに、言い訳やけど…、剛くんには、…好きすぎて…手ぇ出せへんかった。嫌がられたらどうしよ、とか、やらしいことばっか考えてると思われるかも、とか…そんなんばっか気になって、なにも出来へんかってん」
かっこ悪くて言いたくない本心を、仕方なく口に出す。
それくらいしないと見合わないことをしてしまった。
いや、こんなんじゃ全然足りない。

「けどほんまは…、ずっとしたかった。飯食うてるときも剛くんの唇ばっか見てたし…、仕事中ですら目で追ってた。やけど、したら止まらなくなりそうで…、俺…、」
言葉を紡ぐごとに彼の頬が桃色に染まっていくのを見て、こちらもつられて熱くなっていく。
それが恥ずかしくて、顔が見えなくなるように再び抱き締めた。
そして耳元で囁く。
「今…キスしてもいい?」
小さく頷いたのを確認し、彼の唇を探した。
涙で濡れた頬を包み込み、そっと重ね合せる。
ちゅっと音を立ててすぐに離れ、視線を交わらせた。

熱のこもった視線。
絡み合うそれに煽られ、再び唇を寄せた。
「剛…、好きや…」
合間に囁きながら、そっと啄んだり、下唇を食む。
舌を突っ込んでしまいたい衝動に駆られながらも少しだけ躊躇った。
多分それをしてしまったら、抑えが効かなくなる。
「こぉ、ちゃん…」
顔を離して彼の表情を垣間見ると、彼は薄く口唇を開き、赤い舌を覗かせて、潤んだ瞳で俺を見ていた。
もっと、というように服の裾をぎゅっと捕まれ、堪らずに舌を差し込む。
「ん、…っ、ふぁ、…ぁ、ん、」
口蓋を貪っては舌を吸い上げ、時折歯列をなぞった。
うなじの辺りを押さえて交わる角度を深くすれば、彼は苦しそうに小さく喘ぐ。
それが扇情的で、腰が疼いてしまいそうだった。
「アカン…、好きや…、止められへん」
「光ちゃん…っ、やめんで…、もっとして…?」

可愛いおねだりに煽られて、本能のままに互いを喰らいあった。

「もぉ、ほんまにアカンて!そろそろ呼びに来るから…っ」
本番前の楽屋。
座った状態で後退さる愛しい人を壁際に追い詰める。
懸命に顔を逸らして回避しようとしているけれど、そんな可愛らしい抵抗はなんの意味もなさない。
両手を壁についてれば閉じ込めれば、彼はため息をついて目を伏せた。

「そんな目で見たってダメやで…?本番前はしないって言うたやろ」
「えぇやん別に。この間はもっとしてぇ〜って強請ってたくせに」
「…っ、言うなやそーゆーこと!ここどこやと思ってんねん。急に誰か来るかもしれへんやろ。もぉ…光一がこんなキス魔やと思わんかったわ」
はぁ、と再びため息をついた彼に拗ねたような視線を送ると、ぐい、と肩を押し返された。
彼も彼で拗ねているようで、小さい口を子どものように尖らせている。
「甘えてもダメ。…仕事前に変な気分になったらどうするん」
呟かれた言葉が可愛くて、堪えきれずに両頬をがし、と掴んだ。
びくりと身体を震わせた彼が逃げるより前に、有無を言わさぬ勢いで口付ける。
さっきまで拒んでいた彼も、してしまえば陥落するのは簡単だった。
弱々しく肩を掴んできて、舌を差し込むと大人しく口を開けてくれる。
口の中の粘膜を舐め回し、熱い舌を絡ませあった後、ぺろりと唇を舐め上げた。
「……光ちゃんのえっち」
頬を上気させ、くったりと壁にもたれかかった彼がそう呟く。
ほんのりと汗ばんだ肌が酷く艶かしくて、もっと欲しくなった。
「つよし…っ」
名前を呼びながら再度唇を合わせ、激しく貪り合う。
もういっその事ここで抱いてしまおうかと邪な考えが生まれたその瞬間、ドアをノックする音が室内に響いた。

さっと体を離し、返事をしながら出来るだけ距離を取る。
部屋の隅で胡座をかき、まるでずっとそうしていたかのように涼しい顔で雑誌に目を落とした。

「そろそろ始まりますので準備お願いしまーす」
「おー」
「…あれ?剛さん、なんか顔赤いですよ。熱とかないですか?」
気心知れた馴染みのスタッフがそんなことを言うもんだからチラリと見てみると、剛は顔を紅潮させたままさっきの場所にへたり込んでいた。
あぁ、まずい。
後で絶対に怒られる。

「大丈夫やで…。今行くから、待っといてぇ…」
「そうですか…?体調悪くなったらすぐ言ってくださいね。じゃあ、よろしくお願いします」
特に勘ぐることなく部屋を出て行ったスタッフを見送り、立ち上がる。
すると案の定剛が不服そうな面持ちで歩み寄ってきた。
絶対文句を言われる。
そう覚悟して向き直ると、彼は少し背伸びをしてぐっと顔を近づけてきた。
え、と思う間も無く唇を重ね合わされ、身体が固まる。
首の後ろに両手を回されてより深く口付けられ、全身の力が抜けた。
「なに、してんの…っ」
パッと離れた彼にそう問いかける。

大抵キスをしたがるのは自分の方で、流れのないときに彼からしてくることはほとんどない。
というか、初めてかも知れない。
だからなんだか恥ずかしくて、顔に血液が集中するのを感じながら、思わず数歩後退った。
「仕返し」
悪戯っぽく呟いた彼は自分の唇をペロッとひと舐めし、そこを指差す。
「これは家に帰るまでおあずけやで。いい子にしてたら…ちゃんとご褒美あげるから」
ニコ、と微笑んでそれだけ告げると、彼は軽い足取りで楽屋を出て行ってしまった。
取り残され、呆然とその場に立ち尽くす。
彼がしたことと、彼に言われたことを反芻し、全身が熱くなった。
思わずその場にしゃがみ込み、顔を両手で覆う。
誰に見られてる訳でもないけれど、きっと自分は今相当に情けない顔をしている。
恥ずかして、照れ臭くて、部屋を出るに出れなくなってしまった。
「…なんちゅー小悪魔やねん」
そう呟いてから深々とため息をつく。
あんなことを言われてしまっては頑張るしかない。
彼の掌で転がされている感が否めなかったけれど、それでもいいと思えた。

彼の言葉に期待を持ちつつ、どうにか楽屋を後にした。


FIN.

タイトルなし

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