話題:短文


本誌遊軍記者のMが、かねてより街の噂となっていた「現在より400年後の日本からやって来た未来人」との接触に成功した。

世界を揺るがすに足る、否、世界をひっくり返すビッグニュース。本来ならば巻頭から大幅に頁を割いてスペシャル大特集を組むべきところが、このように控えめで小さな囲み記事になったのには勿論理由がある。つまり、インタビューには辛うじて応じて貰えたものの、肝心の質問に関してほぼノーコメントを貫かれてしまった、というのがそれである。

質問M「400年後の未来からやって来たそうですが、移動手段はやはりタイムマシンなのでしょうか?」

未来人『……我々の時代のテクノロジー関しては話せない決まりになっていますので、すみませんがノーコメントで』

質問M「貴方が来たのは未来の日本から、という事ですが、400年後の世界の枠組みや情勢についてお聞かせ下さい」

未来人『……残念ですが、未来に影響を及ぼす可能性のあるご質問にはお答え出来ないのです』

質問M「地球外生命体の存在は確認されているのでしょうか?」

未来人『……申し訳ありませんが、それもノーコメントで』

万事そんな具合である。流石にこれでは特集記事として成立させるのは困難だろう。それでも、1つだけ奇跡的に回答を得られた質問があり、そのお陰で辛うじて記事にする事が出来たという訳だ。

400年後の日本からやって来た未来人が、たった1つだけ教えてくれた未来の事、その質問とはこうである。

質問M「400年後の日本で一番人気のあるテレビ番組って何すか?」

何という投げやりな質問だろう。そもそも、そんな未来に今のようなテレビ放送があるという保証は何処にもない。更には口調もそれまでの「でしょうか?」から「すか?」とぞんざいなものに変わってしまっている。まるで部活の先輩―それも、ちょっとナメている先輩―に対する口調である。しかし、まあ、それもやむを得ない側面もある。何故なら、これまでM記者の放った936個の質問は全てノーコメントで返されていたからだ。これでは質問にイマイチ気持ちが入らないのも無理はない。

この質問も当然無回答だろう。M記者は確信していた。ところが、違っていた。未来人は一瞬、天を仰いだ後、キッパリとこう断言したのである。


未来人『ああ、それなら【クイズ脳ベルSHOW】で間違いありません』


ワーオッ!(←司会のますだ氏ふうに)なんと【クイズ脳ベルSHOW】は400年後の未来でも放送されていた!


長寿番組にも程がある。しかし、冷静に考えれば決してそこに不思議はない。役者や歌手、芸人などこの世にタレントが存在する限り、あの番組は続けてゆく事が可能であるからだ。400年後だろうと1万年後だろうとそれは変わらない。

それにしても、まさかの即答。未来の事を教えてしまって大丈夫なのだろうか。これによって歴史が変わったりはしないのだろうか。危惧するM記者。が、どうやらそれは杞憂に過ぎないようであった。

未来人『あ、それなら大丈夫です。知ったところで未来への影響は0だと思います。あの番組は時空の外側のゆる〜い世界に存在している事が証明されていますので』

さすが【クイズ脳ベルSHOW】!ただの番組ではないと薄々感じてはいたが、まさかそこまで凄い(と言うか、“どうでもいい”)番組だったとは。

未来人さんは続けてこう語った。

『優勝した時の賞品が[お米]という時代錯誤感や、「げげっ、この方まだ存命だったのか!」という不老不死感が妙に心地好いんですよね』

どうやら番組の中身もまったく変わっていなさそうだ。願わくばどうか、地球が滅亡するその日まで、そのままの緩さで続けていって欲しいものである。


〜おしまひ〜。