孔明、孔明、孔明。
甘ったるい声で名前を呼ばれる。切羽詰ったような声音が、いとおしい事この上ない。
乱れる声、忙しない息、は、は、と上下する胸。
名前を呼ばれる以外に、劉備は何もしない。何も出来ない。
溢れてくる快感の波に呑み込まれないよう、必死になって耐えている。
別に耐えなくても良いのに。幾らでも乱れてくれて良いのに。
その様子を見ているのは自分だけなのだから、幾らだって飲み込まれてしまえば良いのだ。
孔明しか見れない姿だと思うだけで、それだけで、達してしまいそうになるなんて、言える訳も無いけれど。
「殿……との」
「ん、んん…」
耳元で囁けば、また甘い声が名前を呼んでくれる。
特に深い意味は無い。呼びかけているけれど返事を欲している訳ではないのは孔明も分かっている。
自分の名を呼ぶ者は幾らでもいるが、劉備に呼ばれると何か特別な響きがあるような気になる。
名前は、個人を表す記号のようなもの。
与えられた文字にこそ意味は宿るが、けれども。
「殿」
そう呼ぶ名にも、意味は宿るだろうか。
「こうめい」
呼ばれる名前にも、意味は宿るだろうか。
縋る指先に。重なる肌に。繋がる熱に。
腕の中の劉備を、いとおしいと思う気持ちに意味は宿ってくれるだろうか。
自分の溢れる思いは、伝わってくれるだろうか。
貴方が、世界にたった一人のいとおしい人だと、分かってくれるだろうか。
end
「殿、殿、孔明のココは、あなたの為に空けてありますよ〓」
「それならば劉備のココは、お前の為に空けておかなくてもいいな?」
「嫌ですそんなのは! 私のココも、殿のココも、ちゃんと空けておいてください!!」
「……それは、涙目になってまで主張することか?」
孔明にとっては、大いに主張しておくことです殿。
………こんなのをツンデレとは……言わんよなぁ。
あ、このせりふ、思いきり性的な意味合いにもなるのね、あらあらうふふ〓
な、訳で、空いてますよから空いてませんよ編(笑)。
続きは以下に!
「確かにまだ子どもかもしれませんけど、本気ですから」
ちゅ、と柔らかい唇が劉備のそれに重なった。
同じ男の唇の筈なのに、少しかさつく自分のとは随分と違う。まさか若いと言うだけで、彼と自分では全てが違うとでも言うのだろうか。
「ん、んぅ」
彼の舌先が劉備の下唇をなぞり、つついてくる。
たどたどしい動きだが明確な目的が感じられ、ただ唇を重ねるだけでは駄目なのかと劉備は思うが、まぁ嫌いではないし、と唇を開けば、するりと忍び入ってくる幼い舌。
彼がキスに慣れていないのは、その動きで分かる。舌を入れてはみたが、先をどうしたものか、迷う動きが歳相応らしくて安心する。
「く、ふ、」
だから劉備から少しだけ舌先を差し出し、絡め、吸い上げる。
そして飲み込みが早い彼は、すぐさま劉備の動きを学んで我が物にする。
その聡さは学業にだけでなく、色事にまで反映されるとは思わなんだ。
まだまだ、劉備の可愛い生徒でだけ、いてくれれば良かったのに。
「…ん、ふ」
まだ節よりも柔らかさばかりの指が、劉備の頬を包みこむ。
子どもの指、なのに。
ようやく中学になったばかりの、背も低ければ声変わりも未だの、男と言うよりも少年だ。
着始めたばかりの学生服は、未だ彼に馴染んでいなくて、汗臭さもなく、可愛い印象ばかりだったのに。
なのに。
「ふ、ん…く」
劉備に触れる手は熱く。
求める舌も、眼差しも、どこにも幼さなどない。
子どもの筈の彼に吸われ、甘噛みされる舌。
彼から与えられる感覚が、劉備のうちに沸き上がる衝動は、まるで、それは。
「私は、確かにまだ子どもかもしれませんけど」
やっと唇が離れた。
彼の唇も、劉備の唇も、唾液に濡れている。
何とも言えず、劉備は、はふ、と息を吐く。
こんな子どもと半ば本気なキスをして、気持ちが良かった、なんて。
「先生が好きなのは、本気ですから」
「……孔明」
「子どもでもなんでも、好きなんです」
前に思いついた、家庭教師の劉備×教え子の中学生孔明。
やばい、これ楽しい(笑)
周りがどんな目で見ようと、私の気持ちは変わりません
殊の外不機嫌な劉備に、孔明はさてどうしたものかと思案する。
むっつり黙り込んで、手元の竹簡を見るともなしに開いたまま。
「殿、あまり気になさらないのが一番と思いますが」
「だからと言って、お前は腹が立たんのか? 寄りにも寄って龍陽の寵など、私だけでなくお前に対しても侮辱も良い処だ!」
ぎ、と怒りに震える表情で顔を上げた劉備は、心底不愉快だと言いたげに眉を寄せる。
「全く腹立たしくないと言えば嘘ですが、龍陽の寵とは、また巧い事を言いますね」
孔明は楽しげにくつくつと笑ったが、逆に劉備には更に腹ただしいことだったらしい。
「お前を重用するのがそんな理由でなどある訳がなかろうに、全く何処を見ていればそんな考えが思い付くと言うのだ、馬鹿馬鹿しい!」
「それは皆、殿に惚れ込んでいるからですね」
尚も憤懣やるかたないと言い募ろうとする劉備に、さらりと孔明は返す。
予想外な答えにきょとんとする劉備に、孔明は爽やかな笑みを向ける。
「皆、殿の志と人徳に惹かれて仕えている者ばかりですから、ぽっと出の新参者が寵を独り占めしては良い気はしないでしょう」
「それは…皆が好いてくれるのは有難いし嬉しい事だが…しかし…」
「皆が殿を慕っても殿は一人きり。そこへ新参者が四六時中独占しては、悋気も増すというものです」
だからと言って大人しく、その場を譲る気など孔明は更々ない。
嫉妬の眼差しなど何程のものだ。そんなもので怯んでなどいたら、劉備を手に入れることなど出来る訳がないのだから。
「周りに何と思われても、私の気持ちは変わりませんから」
「しかしなぁ、閨房で、女役にされてるのはお前のほうだぞ?」
「それは見過ごせません!!」
さっきは、変わらないだの気にしないだの言ったくせに、そこはやっぱり気になるのか……