このドラマ、感情で見るタイプの人か、頭で考えて理解しようとする人かで、かなり違うものが見えるんじゃないかと思います。後者のタイプの人って、ドラマの内容に首傾げる部分ありませんか?矛盾を多用した作りだから混乱するんですよね。そう感じるとしたら、推理物として作られているものを解かずにそのまま見ているからだと理由ははっきりしてます。

私がこのドラマの結末に感じていた違和感の正体がやっとちゃんと分かりました。1つ前の記事で『視聴者からの目線』『牧君からの目線』『春田さんからの目線』全て見えるものが違うのだと書きましたが、正確には『牧君だけが望みが叶わない』結末なんですねこれ…。
私達視聴者が何を望んだかというのは、春田さんと牧君が結ばれるハッピーエンドが見たかったことではないですか?実際、視聴者の目にはいい所で終わるから、だからこのドラマ愛されているのでしょう?
ドラマから読み取れる春田さんが牧君に対して望んでいることって、『家にいてほしい』『武川さんの所に行ってほしくない』『ずっと一緒にいたい』であると思います。家から出ていこうとするといつも引き留めようとする、なのに最後に自分は牧君から離れていくのは、『一緒にいてほしい』よりも『家にいてほしい』が強いように感じます。留守番任せて単身赴任に行くっていう普通のことしかしてないんですよ。家にいてもらって、結婚すれば武川さんとは縁を切らせることができる。望みが叶いますよね?

武川さんが「自分の幸せより相手の幸せか」「相手の幸せのために自分が引いてもいいとか」とか言うのに、結局のところ牧君にとって幸せとは何か語られてはいません。武川さんの幸せのために牧君が引いたんだってことは想像できますよね。同じことを望んでいるなら引く必要は無いんですから。
最終話で冷蔵庫から落ちてくる『春田さん用晩ごはんカレー』のメモ。これが大きなヒントです。牧君から話がしたいとメッセージが送られてきた時スマホを持つ手が震えているのですが、このメモには何の反応も示していません。最終話なのに意味の無いものを映すはずが無いんですよ。ではこのメモが何かというと、このメモが登場したのは第2話ですから、第2話を見返してみると最終話と第2話が『結婚』というワードで繋がって武川さんが結婚について自身の考えを話すということが起こります。これだけのことが起きれば充分なんですよ、このドラマが推理物になっていると断定するには。

武川さんが話すことをまとめると「結婚には興味無い。育った環境が違う人間が一緒に暮らすなんて無理がある」。武川さんの考えを真逆にすればいいんですよ。何故武川さんが他人と暮らしたくないと思ってるかって、武川さんが潔癖症だってこと、視聴者は知ってますよね?武川さんが話すことを真逆にすると、牧君が望んでいることとは『結婚して一緒に暮らすこと』でいいと思います。牧家は家族で暮らしてる家庭でもありますからね。だから4話の武川さんとの話の「あっち側の人間を好きになっても幸せになることは絶対無い」って話も、あっち側の人間=異性愛者を好きになっても、男の牧君は結婚相手に選んでもらえることは絶対無い、そんなことは自分が1番よく分かっている、という話。武川さんが「生活のすれ違いが原因」って言ってるんだから、牧君にとっては一緒にいられない人ダメなんでしょ?牧家での「お父さんいる時に連れてくるの初めてじゃない?」って話から、春田さんの前に連れていった人は2人以上いることが読み取れる。25歳で親に紹介する恋人の人数が3人以上って、1人の人と長続きしてないですよね。結婚相手に選んでもらえることは絶対無いと分かっていても、一緒に暮らすという望む形のあった春田さんのことはすごく好きになってしまったんだと思うんですが、最後は「結婚してください」って言われても、一緒に暮らすっていう望む形の無くなってしまう結末なんです。あの家無人になるのに家の中の物はそのままって、おそらく留守番って形で無人の家だけ預けられて。上海から帰ってきたらまた一緒に暮らすことになると思うんですが、上海勤務がどのくらいの期間なのかは語られていません。帰ってくるまでの間、誰もいない暗い家に帰って1人で待たなければならない日々が始まる。

…と、ここまで理解できてしまうと、これが何故ハッピーエンドなのか理解ができなかったんですよ…。皆が幸せだと誰か1人そうじゃない人がいても分からない、そう作られた結末と私の目には見えていましたから。怖いドラマよ。別れの理由まで辿り着くことができれば、実のところポジティブな別れですから、見た目通りのハッピーエンドでいいんですよ。でもそれは『語られていない情報』ですから、普通に見ているこの物語の結末は
『「ずっと一緒にいたい」と言った本人がいなくなる』
『我慢しないなら一緒に行けばいいのに行かない』
『生活のすれ違いで別れたって言われてるのに、生活のすれ違いが始まる終わり方』
という矛盾だらけで終わるのですが、こういう『すっきりしないモヤモヤ感』が気持ちが悪いのですが、本当に気にならないの…?言っておきますけど、私、本放送から見ているファンですから、アンチじゃないですよ。武川さんと牧君は本社勤務と営業所勤務の生活のすれ違いで別れたって、それ都内同士なんですよ。2話の本社屋上から見える赤い塔が東京タワーだという私の認識が合ってれば(違ってたらどこの何か教えてほしい)。なのに海越えて離れるって、明らかに武川さんと別れた時の状況を悪化させるんですけど…。それもうアウトじゃないの?元彼の忠告を聞いてないの?2回目のプロポーズもそうなんだけど、感情で見るか頭で考えて理解しようとするかで違うものが見えるっていうのはこういう所。

つまり、武川さんと牧君の別れた原因が生活のすれ違いという情報で見ているから、生活のすれ違いが始まる結末で大丈夫なの?って思うわけです。よく聞いてれば武川さんがほぼ答え言ってるんですけど、別れた根本的な原因って違うんですよね。武川さんはそれに気付かなかったから、生活のすれ違いが原因と思ってたって話でしょ?そもそもあんな原因恋敵相手に正直に言うわけないし、言えば牧君にも問題があったこと暴露することになるから、全面的に自分が悪いように言って牧君のこと庇ってるような感じもするな。この原因が分かると、「あいつ本当俺がいないとダメなんだよ」の意味も分かる。その様子見たいのでぜひ詳しく!公式には一切明かされてない話なんですけど、語られていない過去のエピソードを断片化してこの脚本に混ぜ込んである。武川さんがすごく重要な一言を言ってるので、そのセリフと意味を拾い上げることができなければ何も始まらない。視聴者の読解力・思考力が試されるセリフ。まあ、牧君昔は今とは全然違う子だったことは明かされてますし、はっきりしない態度を武川さんは好きじゃなかったわけです。牧君本人も「俺なんて欠陥だらけです」って言ってるので、他にも悪い所あったんですよね。それがどうしてここまでいい男に変わることができたかって話ですよね。こんなすごい脚本書くなんて徳尾さん本当にすごい人です。語られていない武川さんと牧君の関係の真相を突き止めて、別れた原因が生活のすれ違いじゃないってことが分かれば、生活のすれ違いが原因で別れたのに上海と東京の生活のすれ違いで大丈夫なの?って疑問が解消される。それが仕掛けの1つ。春田さん側も、「ずっと一緒にいたい」って言ったのに何故上海行きをやめないのか。これって何が根本にあるのか、それすでに描かれてるんですよね。この春田さん側と牧君側の両方が揃うと、実のところポジティブな別れで、この別れの理由が分かるとすごく納得できました。…だからね、それを先に分かるように作ってくれてれば、私だってこの結末に疑問を持たずに素直にハッピーエンドと喜べたでしょうね。私は仕掛けを解く鍵を個人的に公式に送ってるけど、私にとっては『仕掛けを解かなければバッドエンド』だったこの結末。まあ続編は始めからハッピーエンドであるようにやればいいんじゃないの?
別れの理由が分かると、じゃあこうなって帰ってくるよねってことまで読み取れるので、これ以上詳しいことは書かないでおきます。今ある全7話から読み取れる話なので、ネタバレと言われるのも心外ですが。牧君の過去の話が分かると(あと武川さんのある変化にも気付かないとダメ)物語全体が一直線に繋がりますから、それがこの物語のもう1つのテーマだったんだなっていうのが出てきます。推理物としても本当に見事な作りです。私みたいに結末に疑問を持ってる方がいたら、そこまで辿り着ければだいたい納得できると思います。

でもね、それで『生活のすれ違い』については解決できるんだけど、別のさらに重大な問題が浮上しちゃうんですよね。それを解決する方法が見付からない。破壊神の話で未婚のはずの牧君が「夫婦の問題」なんて分かるはずもないことをさらっと口にするのは、武川さんとは別居してただけで結婚してたからでしょ?結婚してる相手がいても惚れた相手から誘われたら家に上がり込んじゃうような子を放っておいて大丈夫なの?波乱が起きる気しかしない(笑)一目惚れ体質っぽい所あるのは見てれば分かるし、寂しい思いさせてたらね…。
担当してるお客さんから口説かれてくらっと行っちゃいそうで…ってなって、俺の牧に手を出そうとする奴は誰だって怒って一時帰国。春田さんの学生時代の同級生で、
「牧君の旦那って春田なの!?え、お前純粋なノンケじゃなかったのかよ!?」
「うっせーな。いろいろあったんだよ。つーか、俺の牧口説いてんじゃねえよ」
みたいな展開ちょっと期待してる。

ちょっと話戻るんですけど、最終話の晩ごはんカレーのメモから、牧君が望んでいることは『結婚して一緒に暮らすこと』というのは最終話後すぐに気付いてたんですよ。あのメモは『公式から視聴者へのヒント』と思ってたんですが、それと同時に第2話から導き出される『結婚して一緒に暮らす』という牧君の望みがメモを通じて牧→春へのメッセージになっているって、何で気付かなかったんだろうな…。だいぶ後になって気付いたんですけど、それ気付いた時には泣きましたよね。呼び出して伝えたかったことってこれじゃないですか?こういう繊細な表現とても素敵ですし、私も小説書く人間ですけどこんなすごい表現真似できるアイディアなんて無い。おっさんずラブってこういう大掛かりだけどとても細やかな仕掛けがたくさんあるんで、そういう所も好きなんですよ。文字数無制限でいいならいくらでも詳しく書くことって可能なんですよ。それを推理物にする形で全7話という短い中にものすごく圧縮して詰め込まれている。限られた文字数でまとめるということの難しさは、文章を書く人にしか分からないかもしれないのですが…。圧縮されてるわけだから、片っ端から解凍していけば元の全景に戻るのです。連ドラとしては短めの全7話という中に、信じられないほどの情報量を詰め込んでいるのですが、その技術のすごさにも惚れ込んでいるので。服ダサいの一連が1番複雑ですね。1話でダサくない普通の服を持っていることとか、5話で「これ合ってんの?」「絶対違う」と『似合っていないことを自分で把握してわざと選んでいる』こととか、私服に関わる全てのシーンを辻褄が合うように繋げなければならない。「なるほどそういうことか!」ととてもよくできた理由が出てきます。これが分かるとこのドラマ本当にすごくおもしろいんですが、今のところ同様の考察見たこと無いんですよね…。メチャクチャ複雑なんですけど、公式は解説しないつもりか…?その後の話よりもさ、今ある全7話の真相を頼むよ…。

先日おっさんずラブ展2回目行ってきました。来場特典の名刺風ステッカー牧君引いてホクホク。なんかグッズ結構売れ残ってるな…って思ったら、買う予定の無かったものとかもカゴに入れて、特典クリアファイル3セット分貰ってしまった…。

14日に拍手1件ありがとうございました!