続きです。裏ですので閲覧にはご注意下さい!若干フレンが暴走気味です。追記あり








「…だいぶ効果出てるみたいだな。ああ、酒のほうには何も入ってないぜ。酒とも言えねえくらい弱いやつだしな」


あれぐらいで酔ったりしないだろ?と笑うユーリを睨めつけながら、ふとフレンは身体の気怠さが少し軽くなっているのに気付いた。ユーリの肩を掴む両手にも充分な握力が戻っている。身体を押し戻されたユーリが、面白くなさそうに眉を寄せた。

薬の効果がもう切れかけているのか、それなら短かすぎはしないか。こんな短時間で効果を失うならユーリもこれ程悠長に構えてはいないだろうし、何より全身の火照りも、重たい腰の疼きも消えていない。むしろこちらは今もじわじわと熱を上げ続けているような気さえする。

どういう事かと見上げたユーリの顔からは笑みが消えていた。
その表情に息を呑み、妖しく、しかしどこか切なげな瞳にフレンは射竦められたかのように動くことが出来なかった。


「……足りないんだ」


そう言ってユーリがフレンの首に腕を回す。ゆっくりと迫る身体を押し戻すこともせず、フレンは自分の胸に顔を埋めたユーリの温もりにただ感じ入っていた。

「は………ぁ」

漏れ聞こえたユーリの吐息も熱を帯びているのがわかる。
煩いほどに響く鼓動は一向に収まる気配もなく、苦しくて堪らなくなってフレンはユーリを思い切り強く抱き締めていた。
ユーリが小さく呻いたが、それにすら劣情をそそられて喉を鳴らしてしまう。しかしそんな自分を恥じる気持ちもどこかへ行ってしまっていた。
ぎりぎりと音がしそうなほど力を込めていけばさすがにユーリが腕の中でもがくように身を捩るが、顔だけを上向けて何かを訴えるような視線をフレンに投げ掛け、言った。


「おまえも、足りてないんだろ…?」


強く締め付けられ、眉を歪めながら見上げてくる瞳が挑発するように光り、とうとうフレンの中の理性は焼き切れてしまった。いい加減、我慢も限界に来ていたのだ。
ユーリの態度にも、熱を上げ続ける自分の身体にも。

ユーリを抱いたまま立ち上がり、半ば引きずるようにして寝室への扉を乱暴に開け、腕の中にユーリを閉じ込めたままベッドへと倒れ込み、両手を纏め上げてその身体を真っ白なシーツに縫い付ける。
今までにこんな振る舞いをした事はなかった筈だが、ユーリはフレンにされるがままで抵抗をしようともしなかった。
どうして、とかろうじて小さく呟くと、答える代わりにユーリは両脚をフレンの腰に絡ませて太股で挟み込み、ペろりと自らの唇を舐めて笑った。

『は や く』

朱い舌が覗く口元の動きを読み取りながらも、声はフレンには届かない。頭の中には自分の心音だけがやかましく谺して、気付けばまさに『剥ぎ取る』といった表現が相応しい勢いでユーリの衣服を取り去り、曝け出された素肌に無我夢中で吸い付いていた。





「―っあ、ンあぁあッ!!」

見開いた瞳に涙を溜めて、ユーリの肢体が大きく仰け反った。
両の指先はシーツに食い込んで不規則な皺を生み、乱れた黒髪が散って汗に濡れた肌に張り付いてうねる様がこの上なく淫靡な色を醸し出している。
絶頂を迎えてびくびくと痙攣する腰を抱え、フレンはユーリを穿つ自らの楔を抜く事もせずに、その白い身体を陶然と見下ろしていた。

薄暗がりに浮かび上がる裸身を、美しいと思う。

激しく上下する胸元には無数の紅い跡が散りばめられ、隠しきれないであろう徴を付けたのが自分であるという事実に、フレンは思わず笑みを浮かべた。
いつもなら場所を考慮する行為も、今は何の遠慮もなかった。…見られたら困る筈だとわかっていながらわざと目立つ場所にばかり跡を残し、いくつもの鬱血痕をフレンが一つ一つ指先でなぞる度、ユーリの乱れた呼吸に小さな喘ぎが不規則に加えられていった。


薬のせいで限界以上にまで性欲を煽られた身体は、まだ満足するには程遠い状態だ。抱えていた腰から手を離して再び組み敷いたユーリの首筋に顔を埋め、顎から鎖骨までの薄い筋に沿って執拗に口付けるフレンにさすがにユーリが抵抗する。
しかし、両手をしっかりと握られたまま動かすことも出来ず、まるで幼子が駄々をこねるかのように首を振る姿はフレンの征服欲を煽るだけで全くの逆効果だった。

そもそも、フレンに怪しげな薬を飲ませて行為に及ぶ事を望んだのはユーリなのだから仕方ないとしか言いようがない。
最初のうちは霞みがかっていたような思考や視界が今では嘘のようにすっきりとしていたが、身体の熱はそれに反比例するかのよう燻り続けて、疼きを訴える部分は今も限界まで張り詰めたまま、痛いほどだ。愛撫に反応してひくひくと収縮するユーリの内側の感触に、フレンは背筋を震わせた。
上気した肌へ散々に口付けて顔を上げると、先程までのユーリの恥態を思い返して無意識に薄く笑う。そんなフレンを、乱れた髪の間から薄紫の瞳が見上げていた。


はやく、と誘われるままろくに慣らしもせずに突き入れたそこは、始めのうちこそ侵入を拒むように固く締まってユーリの表情が苦悶に歪んだ。痛みと異物感に耐え兼ねて悲鳴を上げたユーリだったが、こうなることは予想の範囲内だったのだろう。聞き慣れた悪態を吐くこともなく、黙って見上げてくる潤んだ瞳を前にして、フレンは一切の遠慮も気遣いもなく腰を打ち付けた。自らを包み込む肉が次第に柔らかさとぬめり気を増すのと同時に、ユーリの声に甘い響きが混じるようになる。

律動に合わせて低く、高く。

途切れることなく繰り返される嬌声を聞きながら、そんなにも自分に抱かれる事を望んでいたのか、と思う。しかし、それを素直に喜ぶ気にはならなかった。
妙な薬を飲まされたということは勿論だったが、何より今までの『我慢』が馬鹿らしくなったのだ。

ユーリの身体の負担を考え、あまり無理をさせないようにしてきた。もっと激しく、一晩中でも求めていたい。そんな夜もあった。
お互い忙しい身となって、いつの頃からかフレンは自分の欲望を押さえ込み、出来るだけユーリを優しく抱くようになっていた。ユーリが不満そうな様子を見せれば心が揺れたが、自分はともかくユーリが辛そうな姿というのは見たくないし、どうしても申し訳なく思ってしまう。

だから、我慢していたのだ。
本当は、もっとユーリが欲しかった。

ユーリが薬を使った理由を改めて考える。
単に物足りなくなったか、それともまさか自分の気遣いを何か勘違いでもされたか。…例えば、愛情が薄れた、とか。
勝手な想像にやり場のない憤りさえ覚えた自分を情けなく思いつつ、そんなにもユーリが望むのなら、もう遠慮などするものかという気分だった。それが薬の作用であるかどうかなどということは、どうでもよくなっていた。

最も敏感な場所を責め立て、一際高い喘ぎ声と共に腹を自らの吐き出した白濁で汚すユーリを見下ろしながら、フレンも熱い蟠りをユーリの中に注ぎ込んだ。
それでも全く治まらない疼きを抱えたまま、今に至るという訳だ。


「…もう、終わりか…?」


漸く呼吸の落ち着いたユーリに名を呼ばれ、フレンは殊更ゆっくりと身体を起こした。

「そんなわけ、ないよな?」

明らかな挑発に、フレンは瞳を細めて笑い返した。
答える代わりにユーリの脚を抱え上げ、浮いた腰を掴んで指先に力を込めれば、薄明かりの中にも白い肌がその部分だけ更に色を失くして浮かび上がり、ユーリの唇から微かな呻きが漏れる。
力を抜いて細腰を掌で包み込むようにすると、強張っていた下半身がほんの少し弛緩するのをフレンは見逃さなかった。


「っ!?ッふあぁあァ…ッッ!!」


油断…という訳ではないが、気を緩めた瞬間に再開された容赦のない抽挿にユーリの肢体は弓なりに仰け反り、振り乱された黒髪が顔に掛かるのをフレンが手で払う。その手つきは優しく愛しげにユーリの頬を撫でながらも、じっと見つめる瞳に宿る情欲の色にユーリが息を呑む。

それはいつもの、もどかしくなるほど丁寧に、慈しむようにユーリを抱くフレンには見たことのない激しさを宿していた。

そうなるように仕向けたのはユーリ自身だ。
だというのに、本当に薬のせいだけなのかと思わず疑ってしまう。余裕のない息遣いや動きと裏腹に、熱いながらもどこか寒々しい視線。それがこの薬の効果だとわかっているのに、信じられなかった。

「……どうしたんだい、ユーリ」

頬の手は項へと回され、頭を持ち上げられてフレンとの距離が近くなる。混ざり合う吐息の熱さが息苦しくてつい顔を背ければ、すぐさま向きを変えられて唇を塞がれた。

「ンっ、んぅ!!っふ…う!!」

「………は……、っ………」

口づけの間も、唇が離れてからも、フレンの責めは片時も止む事はない。
肉のぶつかり合う音も汗のせいで湿り気を帯び、繋がるその場所は一層濡れて水音は濁りを増してゆく。淫らな気分を高めるそれは、薬など使わずとも正常な思考の邪魔をしてユーリの身体を狂わす、まさに媚薬のようなものだった。

「ユーリ、気持ちいい?」

フレンに問われ、その肩にしがみついてユーリが頷く。口から零れるのは意味を成さない喘ぎばかりで、まともに会話する余裕などない。

「どうして薬なんか使った?」

やや低くなった声に意識を引き戻されるも、答える前に身体を抱き起こされ、ぶれた視界に軽く目眩を感じる。が、閉じかけた瞳は続く痛みによって限界まで開かれて、寸刻、何もない空間を彷徨い、歪んで、声からは甘さが消えた。

「い……ッ、あ…!!」

ユーリの肩に顔を埋めたフレンは、鎖骨の窪みに歯を立てている。
獲物を捕らえた獰猛な獣のように首筋を啣えて離さないまま、張り詰めたユーリの身体を掻き抱いて突き上げを繰り返す。
内側を抉るように深く、奥まった部分を執拗に擦ると、下腹に触れるユーリの熱い部分がびくりと跳ねた。
先端からとろとろと溢れて流れる先走りが自身とフレンの腹を汚し、ぬるつく肌に挟まれる感触と肩に受ける痛み、そして何よりも直接内側を侵される強烈な刺激と快感。それらが一つになって襲い、ユーリは声を上げ続けることしかできない。

「ユーリ」

フレンが首筋から口を離し、薄らと血の滲む噛み痕を舐め上げて耳朶を甘噛みしながらユーリの名を呼ぶ。

「どうして、薬を」

大袈裟とも思えるほどに身体を震わせたユーリの全身が粟立ち、その背に掌を滑らせてもう一度問えば、途切れ途切れに吐き出される言葉にフレンも身体の芯が熱く震えるのを感じた。


足りないから

もっと欲しいから

余裕のない姿が、見たいから――――


ああやっぱり、と思いユーリの背中に爪を立てれば、高く短い悲鳴を上げて逸らされた白い喉が目の前に晒されて、フレンはその喉元に喰らいついていた。



断続的に聴こえるのは、力を無くしたか細い吐息。

俯せた身体は力なくシーツに投げ出され、されるがままに幾度も、幾度も。もう、自分が何度果てたのか、フレンに何度注ぎ込まれてどれだけ肌や髪を汚されたのか、ユーリにはわからない。

薬の効果はとうに切れている筈ではなかったか。
おかしいと思って尋ねれば、逆に『何故そんな事がわかるんだ』と聞き返されて口篭るユーリの身体をフレンは責め立てる。そうして聞き出した答えに笑みを形作る唇を白くぼやける視界に映しながら、ユーリは後悔と羞恥で奥歯を噛み締めていた。

効果を知っているのは何故か。答えは非常に簡単で、ユーリ自身がそれを飲んで試したからだ。
怪しげな薬をいきなりフレンに飲ませるつもりは毛頭ない。かと言ってまるっきりの偽薬でもつまらない。確かめるには自分で飲むしかなかった。
危険を感じなかったわけではないが、それよりも己の欲望と好奇心が勝ったのだ。
勿論、効果はあった。だが、疼きを鎮めてくれる相手はいない。だから、一人で『処理』をした。

そう答えて歯噛みするユーリを見るフレンが笑みを浮かべ、瞳には昏い光が揺らめいた。
今までに見た事のない表情に、ユーリは背筋に冷たい何かが這うのを感じて戸惑う。これがフレンの隠された一面であるなら、もしや自分は開けてはならない扉を開いてしまったのではないか―――

「ユーリ」

耳元で名を呼ばれ、びくりと肩が跳ねた。

「ユーリ…ごめん」

そう言って髪を撫でる手つきは優しく愛しげだが、耳に掛かる吐息は変わらずに熱い。言葉を返せずにいるユーリにフレンが続けた。

「随分、寂しい思いをさせたみたいだ」

ユーリは何も言えない。

「僕も我慢してたんだ…君に無理をさせてしまうから」

『無理』の意味は、今や嫌というほど理解できた。今日明日、恐らく自分は使いものにならないだろう。

「でも、まさかそれで妙な薬まで使われるなんて思いもしなかったよ」

喉の奥に何かが詰まったように、息苦しい。

「……もう、そんな必要はないから」

「ッ、ひ!?うぁ、あッ!!」

フレンが対面で抱えたユーリの腰を引き上げ、一気に落としてまた中を満たす。繋がる部分からは耳を塞ぎたくなるほど卑猥な響きが溢れて、不意打ちに声を上げたユーリに更なる羞恥を与え続けた。


「……足りないんだ」

忙しない息遣いと共に耳元で囁かれる。


「君も、そうなんだろう?」


聞いた覚えのある言い回しに、ユーリは半ば諦めの境地でフレンに身体を委ねるしかなかった。
そうさせたのは、自分なのだから。


終わりの見えない媾合に僅かな恐怖を感じながら、いつの間にかユーリの意識は闇の底へと沈んで行った。