続きです。
裏ですので閲覧にはご注意下さい。








「…まだ、余裕ありそうだな」

肩で息をするユーリの上から意地悪く言うと、恨めしげな視線だけがフレンに向けられた。顔を動かす『余裕』はないようだ。涙と、半開きの口元から零れた涎で色を濃くしたマットが僅かに覗いた。

掌に受けたユーリの精液を後ろに塗り込むと、びくりとユーリの身体が揺れ、瞳が見開かれる。
口を開いて何か言いかけたのが見えたが、フレンは身体を起こしてズボンの前を寛げるとユーリの尻を両手でしっかりと掴み、白濁で濡れるその場所へと一息に自分自身を突き入れた。




「あ、うンああァあ!!!」

イったばかりなのにすぐさま強烈な刺激を与えられて、堪らずに声を上げた。まだもう少し待ってくれ、と言うつもりだったのにフレンはわざとそれを無視したようにしか思えない。

自分の出している筈の声を、ユーリはいつも誰か別の人間のものなんじゃないか、と思いながら聞いていた。
フレンに抱かれるようになって初めて自分がこんな声を出す事を知ったが、今でも慣れない。

だからあまり声を出したくないのだ。もちろん、場所が場所だから聞かれては困る、という場合も(不本意ながら)多い。それでも最近は、抵抗なく声を上げる事もあった。ぐっと我慢して堪えるより、肉体的にも精神的にも楽だと気付いたからだ。
声を抑える必要のない場合、自分で耳を塞ぎたくなるような甘ったるい喘ぎは比較的少ないような気がしていた。全くない、とは言わないが。

無理をして抑えようとするから、不意に強い刺激を受けるととんでもない声が出る。
だがフレンはユーリが必死で堪えている姿や、普段とまるで違う高い響きの嬌声を好きだと言って憚らない。ユーリが堪えようとすればするほど、フレンの責めは執拗で予測のつかないものになり、結局は陥落させられてあとはもうされるがまま、というのが常だった。
悔しいと思うが、どうしようもない。冷静に考える事の出来ないこの状況で、ずっと我慢し続けるのはもう、無理と言うものだ。

「ッあ、はぅ、ん、くァ…あ、あッッ!!」

「ユーリ…っ、なんか、それ…いやらしい、な……」

「んンう!な、に…言って、ッッはああぁ!」

ガツガツと叩きつけるような激しい責めに、声も途切れがちになる。いやらしい、とはどういう事なのか。

少し不安定な跳び箱にしがみつくような格好で、後ろからフレンが腰を打ち付ける度に身体が前に押し上げられるような感じだ。その度に自分の性器が跳び箱の本体に擦れて、正直なところ気になっている。
別に気持ちがいいわけではない。時折先端が当たると痛いので、無意識のうちにそれを遠ざけようと腰が引け、尻を高く掲げてフレンに押し付けるような姿になっていた。

…もしかすると、いやらしいというのはこの格好のことか。
自分の姿を想像して、一気に顔に熱が集まるのを感じた。

「……………ッッ!!」

「…どう…したの?」

「う…ッ、あ、く…」

何でもない、と言ってやりたくてもうまく言葉が出ない。フレンの動きは全く容赦がなくて、しかも一点を的確に抉って来るから堪らない。もう、声は抑えられなくなっている。こうなれば、後は早く解放して欲しいだけだった。
膝がガクガクと震える。
腰はフレンによってしっかりと固定されているが、もう自力で上半身を支えるのが辛い。


「は……ッ、あ…ふ、フレ…ン…!」


名前を呼んだら、何故か頭の芯が、じん、と痺れた気がした。


(あー―――もう、どっちでも、いいや――)


埃っぽい空気を忙しなく吸い込んでは吐き出し、だんだんと考えるのが面倒になってくる。
そう、どちらでもいい。
自分はフレンの事が好きで、フレンになら抱かれてもよくて、フレンとだったら、どちらでも―――


だから今は、もっとフレンを感じたいと思った。


「あ、も、…い、…ッく…」

「…ッ、ユー、リ、っちょ、キツ……っっ!!」

くぅ、と切なげな声を漏らしたのはフレンだった。締め付けが急に強くなって、ユーリの腰を掴む手に力が入る。指の食い込んだ肌が白く、痛々しい。


「もう、イき、そ……ッ!っ、だか、らぁ………!!」

「ゆ、ユー、リ……?」

舌足らずな声にフレンは困惑気味のようだ。行為に夢中になって甘い声をさんざんに上げることはあっても、ユーリが積極的に話し掛けて来ることは少ない。
以前、ユーリの家でした時は少々特殊な状況だったので、随分とユーリも饒舌であったが。


肩越しにフレンを見るユーリの瞳は、しっかりとフレンを捉えているのにどこかぼうっと蕩けて潤みきっている。息を呑んで喉を鳴らしたフレンには、隠れて見えない筈のユーリの口元が笑みを浮かべたように思えた。

「は…ッ、やく……ぅ、イか、せろッッ、て!!」

「う………、っくぁ、……っの…!!」

「あ………!?」

意図的に込められた力で一層強く締め付けられて一瞬動きを止めたフレンだったが、それならばと強くユーリの腰を引き付け、また抉るように突き上げた。

射精感を何度もやり過ごし、幾度めかの突きでユーリが身体を大きく震わせて背を反らした時、フレンもユーリの中に全てを注ぎ込んで荒い呼吸を繰り返すばかりだった。







「あー…シャツがシワだらけだ」

「………………」

「こりゃあもう、戻っても客の前になんか出られねえな。…ってか、今何時だ?」

「…もう、午後を過ぎてる」

「ふうん。…ところでおまえ、なんでそんな不機嫌そうなツラしてんだよ」

「別に、不機嫌なわけじゃ」

「んじゃあなんなんだよ」

「…いや、……」

見上げたフレンは微妙な表情のまま、ユーリをじっと見つめてその頬を撫でた。

行為の後は暫くユーリが動けない。フレンは積み上げられたマットレスに寄り掛かって座り、投げ出された脚をユーリが枕にしている。妙にすっきりした様子のユーリとは対照的に、フレンはどこか思案顔だ。

「…なんだか、途中から様子が変わったな、と思って」

「そうか?どのへんから?」

にやにやしながら聞くユーリに、フレンは眉間の皺を深くする。
…何か、面白くなかった。

答える代わりにユーリの頬を軽く摘んでやったら、ユーリは大袈裟に顔を顰めてその手を払い除けた。

「何すんだよ!」

「どうして君のほうが余裕ありそうなんだ。いつもはもっとこう、切羽詰まったような感じなのに…」

「………なんだそりゃ。オレに余裕があったらダメなのかよ。おまえ、どんだけSなんだ」

「そんなことないと思うけど。…もしかして、外でするのに慣れた?」

「……」

呆れたように溜め息を吐いて睨みつけるユーリの頬にもう一度手を伸ばし、今度は優しく撫でて言った。

「困ったな…お仕置きのつもりだったのに。反省してもらえないんじゃ、意味ないじゃないか」

「…どこまで本気だ?つか、丸っきり変態だな。お仕置きとか言ってんじゃねえ!おまえこそ、アシェットにまでつまらねえ嫉妬してんなよ!!」

む、と頬を膨らますフレンを見ていると、早くも先程の考えを改めたくなる。


フレンになら、抱かれてもいい、と思った。
その事自体は別に、今になって急に思い付いた訳ではない。むしろ、最初からそうだった。
今日の事は、確かに自分が悪かったと思う。だが、そもそもどうして素直にフレンを待つ気にならなかったかと言えば、それはやはりフレンのせいだからと言いたくなる。




「…やっぱ、オレばっかって不公平じゃね?」

「いつも僕からばかりって、不公平だよな…」


同時に呟いて、顔を見合わせる。


「何が不公平なんだよ」

「…君のほうこそ」


今度は同時に黙り込んだ。


「…とりあえず、アシェットに謝っとけ、オレもついてってやるから」

「ついてって何……なんで僕まで?むしろ一発殴ってやりたいぐらいなんだけど」

「あーもう!!まだ時間あんだろ!今から付き合ってやるからなんか食いに行こうぜ!!」

「そうだね……」

勢いよく立ち上がったユーリだったが、やはりまだダメージが残っているのかふらついている。

「う、お………っ」

「ユーリ!!」

歩き出そうとしたところで膝から崩れ落ちそうになったユーリを、後ろからフレンが支えた。今度は、しっかりと。

「危ないな、やっぱりもう少し休んだほうがいいよ」

「…………」

「ユーリ?」


振り向いて仰ぎ見たフレンは、本当に気遣わしげな表情をしている。

(裏の顔、なあ)



何が裏で、表なのか。

自分にだけ見せる表情が果たしてどちらになるのか、気にしているのは二人とも同じだと言えるのかもしれない。




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終わり