8/31 22:23拍手コメントよりリクエスト、ユーリにフレンが嫉妬して…
フレユリで裏ですので閲覧にはご注意下さい。








いつでも自分だけを見ていて欲しい、というのは我が儘だ。そんなことは分かっている。

それでも、その相手が恋人で、漸く傍にいることを許されて、しかも共に過ごすこと自体がもう随分と久しぶりのこととなれば、もっと自分に構ってくれてもいいんじゃないか、と思わずにはいられない。
いつもいつも、自分ばかりが焦がれているように思えて仕方ないのだ。

楽しげな様子のユーリが、ふとこちらを見て首を傾げた。
どうした?と言われて、何でもないとしか答えられなかったのは、そこには自分だけではなくて大切な仲間達もいたということと、やり遂げなければならない事があったから。
かつての記憶に胸が苦しくなる。


じゃあ、今はどうなんだろうか。


誰もいない室内に戻って溜め息を吐く。灯りなど点いていない筈の部屋の様子がぼんやりとわかるのは、窓から差し込む月明かりのせいだ。僅かに開いた窓からの風ではたはたと揺れるカーテンに、更に深い溜め息を零した。


「…もう少し、待っていてくれてもいいのに」


部屋には誰もいない。

窓の鍵は掛けずに出たが、開け放って来た訳ではない。名残を求めて窓枠に触れてみたが当然何も感じる事は出来ず、瞳を閉じれば瞼の裏にはっきりと浮かべることのできる姿に微かな苛立ちすら覚えた。

この機会を逃したら、また彼はすぐに何処かへ行ってしまうのだろう。
常日頃、咎めている筈の行動を自ら取るほどには余裕をなくしていた。






「……どうしたんだよ、おまえ……」

静寂の中で視線の集中砲火を浴びてぜいぜいと肩で息をするフレンの姿に、ユーリが声を掛けた。

「戻っ……来て、なら、どっ……!!」

「…とりあえずそこ閉めて中、入れ」

「……………」

ユーリの周りにいた客が席を空け、フレンのために椅子を用意してくれた。
憮然とした表情でそこに座ったフレンに隣から飲み物の入ったカップが押し出され、中身を確認もせずに一息で呷った時には周囲にも賑やかさが戻っていた。


ギルドの一員として世界中を跳び回るユーリだったが、帝都に帰って来れば必ずフレンの元を訪れていた。だが、事前に連絡があるわけではない。ふらりとやって来て、フレンが不在なら帰ってしまう事もある。今日のように仕事が長引いて遅くなった時は特にそうだった。ユーリも忙しければ翌日には帝都を発ってしまう。何も、言わずに。
今までにも何度かあったそんな擦れ違いが、今夜に限ってやけに気分を苛立たせる。
堪らなくなって下町までやって来れば、ユーリは『箒星』の一階で馴染みの住人達と盛り上がっていた。

フレンの眉がぴくりと吊り上がった事に、果たして気付いた者がいたのかどうか。


「おまえな…びっくりするだろ。どうしたんだよ、明日休みか?こんな時間にわざわざこっち来るなんて」

「…休みじゃない。でもどうしても君に…」

会いたかった。

人目を憚らずそんな事を言えば、ユーリが渋い顔をするのは分かりきったことだ。だが言わずにいられない。
自分のことを待たずにさっさと帰っておいて、こうして他の者と酒を飲んでいるとはどういうことなか。
もう日付けも跨いだこの時間まで起きているなら、恐らく明日も仕事ではないのだろう。
だったら尚更、待っていてくれても良さそうなものだ。

そう思いながらテーブルに身を乗り出した時だった。


「まーまーフレン!!せっかく久しぶりの再会なのに、いきなり説教とかやめようぜ!」

隣の青年がフレンの背中をバシバシと叩きながら陽気に語り掛ける。
だいぶ酒が入っているようだ。一体、どれだけの時間ユーリと飲んでいたのか。

「ちょっ…痛いな。別に説教なんか」

「そうそう、ユーリもこれでなかなか頑張ってるんだぜ!なあ?」

「そうだ、さっきの話、フレンにもしてやれよ!きっと見直すぞーユーリの事!」

口々に言っては笑い合う馴染み連中に囲まれたユーリは、どこか居心地悪そうな様子で曖昧な笑みを浮かべて、時折正面に座るフレンの顔を窺っている。
フレンはそんなユーリをただ黙って見据えていた。


まずい、と思った。

別にフレンを蔑ろにしている訳ではない。
かなり遅くなっても部屋に戻って来ないなら、仕事が忙しいか何かトラブルがあったのか。もし城を離れているのならさすがに窓に鍵が掛かっている。

フレンだって疲れている筈だ。だがフレンは自分と会えば『無理』をする。
それが嫌だったのでさっさと退散してきたのだが、まさかフレンのほうからこちらにやって来るとは全くの予想外だった。

明日は休みではない、と言っていた。…まさか、抜け出して来たのか。
ユーリは一気に酔いの醒める思いでいたが、友人達は殊更に陽気さを増してはしゃいでいる。

フレンが下町に足を運ぶのは珍しい事ではなかったが、こうして酒席を共にするのは久しぶりのことなので気持ちはわからないでもない。皆もフレンを慕っているのだ。
先程までの会話をあれこれと持ち出して友人達が大声で笑い合う。酒が入るとどうしてこう、声が大きくなるものなのか。

普段なら好ましいその喧騒に、ユーリはひやひやしっぱなしだ。場が賑やかになればなる程、フレンの周りだけ温度が下がって行く。
そんな気すらしていた。



ユーリの隣に座っていた青年が、ユーリの肩に腕を回した。なあユーリ、あの時の話も聞かせてやれよ、と言ってぐっとユーリを引き寄せる彼に、他意はない筈だ。そんなことはフレンにもわかっている。

が、限界だった。

フレンが手にしていたカップをテーブルに乱暴に叩き付ける。やって来た時と同様、一瞬でしん、と静まり返る店内にフレンの足音が響き、すぐに止んだ。


「……ユーリ」

「…っ、何だよ…」

「ちょっと、話がある。…色々と」

「………………」

「みんな、ユーリを借りるよ。…朝まで邪魔しないでくれ。絶対だ」

ユーリが顔色を変えた。

「おい!?何言って……」

「いいから」

低い声で言い放ち、ユーリの腕を取って立たせるフレンの姿に、周囲の誰もが驚きの表情を隠せない。

小さく舌打ちしながらも立ち上がったユーリがフレンの腕を払い、連れ立って店を出ていく後ろ姿を見送りながら、『何だか知らないが殴り合いになりそうだ』とその場に居合わせた客は思っていた。






「…何を話してたんだい?随分と楽しそうだったけど」

「いっ……て、痛えって!!ッちょっ…!!まだ、ムリ……ッッ!?」

「なに、を…っく、話してたのかって、聞いてるんだ」

「ッぐ、あ、あぁあ!!」


『箒星』の二階、間借りしている自室のベッドでフレンに組み敷かれて、ユーリが苦悶の表情を浮かべていた。
かろうじて腕に引っ掛かった上着は、しかし完全にはだけられて白い身体が晒けだされている。下穿きはとうに取り去られ、下着と共に床へと放り投げられていた。

あちこちに小さな紅い点を散らした両脚を高く掲げられ、中心にフレンの熱く滾る欲望を捩じ込まれて声を抑えることが出来ない。

ただしそれは艶っぽい喘ぎ声などではなく、苦しげな呻きでしかなかった。

フレンに抱かれるのも久しぶりなのにろくに慣らしてもらえなかったおかげで、未だ快楽を得るには程遠い。
痛みと強烈な違和感に耐えながら荒い呼吸を繰り返すユーリを見下ろすフレンもまた、辛そうに浅く短い吐息を降らせていた。

一階にいる客の誰が、殴り合いどころかこのような光景を想像することが出来るだろうか。





「いッぁ、は……ッ、おまっ、何、なんだ、よ…ッッ!!」

フレンの肩に指を食い込ませ、涙の滲む瞳でユーリが睨み上げる。フレンの『目的』はなんとなく理解出来るので抵抗するつもりはないが、この荒れ様がわからない。
フレンの顔が近づいた、と思ったら鎖骨に歯を立てられてユーリは小さく悲鳴を上げた。


「あッ…つ!!てめえ、いい加減にしろよ!?」

「ユーリこそ…!他のやつと飲み明かすぐらいなら、もっと僕の帰りを待ってくれてもいいだろう!!」

「や、飲み明かすとか…ッんンッッ!っは…!!」

ぐっ、と奥を突かれて言葉が途切れた。
いつもなら行為の最中に何度も唇を求めて来るのに、今日はそれがない。唇を塞げば望むものが得られないからか。


「ユーリ、答えて」

喉元を甘噛みしながら更に問われて、ああやっぱり、とユーリは思う。
一階の酒場で話していた内容など、取るに足らない事ばかりだ。特に隠す必要もないが、何がフレンの怒りのポイントを刺激するかと思うと一瞬だけ躊躇する。だがフレンはそのほんの僅かな逡巡すら許してくれなかった。


「ユーリ!!」

「わ、わかっ……ッ!あ、あぅア!!う、動く、な…ッッ、あぁ!!」

激しい突き上げと揺さ振りで、息を継ぐのすら難しい。途切れ途切れに話すユーリから、フレンは片時も視線を外さなかった。


かつて旅をしていた時も、そして今も。
離れている間に、自分ですら知らないユーリを他の誰かが知っていて、それを聞かされるのが堪らなく嫌だった。

ユーリが料理上手だとか、とても仲間想いだとか、そんな事は誰よりも自分がよく知っているとフレンは思っていた。

ギルドのメンバーとして頼られている事も、拠点のあるダングレストでそれなりに上手くやっている事だって知っている。
ユーリがフレンの部屋を訪ねた時には、それまでにあった出来事を語ってくれるからだ。

では何故、今これ程に心が乱れるのか。

自らの身体の下で、ユーリが長い髪をシーツに散らして喘ぎながら懸命に話している内容など、実はそこまで気にしてはいない。
では、何故。


答えはとっくに出ている。
自分が知るより先に、ユーリがそれを他の誰かに話してしまうのが嫌なだけなのだ。

一番は自分でありたい。常にそう思っていた。
それが我が儘だとわかっている。会う事が出来ないなら仕方のない事だということも。

それでも、会えない期間が長くなれば時々こうして我慢が効かなくなる。
よりによって、自分を放って他の誰かと楽しげにしているところを見てしまっては尚更だった。



「はッ…ァ、ンあ、も、いい、だろ……ッッ!!」

「…ユー、リ」

「なんっ、だよ……!!」


最初の苦痛は何処かへ行ったように、ユーリの表情は蕩けて艶めかしいものとなっていた。
苦しげだった呼吸は色を含んだ吐息となり、攻撃的な視線も濡れて妖しく誘うばかりだ。
長い脚を絡ませてフレンを受け入れ、快楽の波に翻弄されて腰を揺らすユーリの様子はひどくいやらしくて、自分以外の誰かはとても普段のユーリからこんな姿は想像できないだろう、と思う。



耳元に顔を寄せて鼻先で黒髪を退かし、すっかり露になった耳朶を喰んで舌を侵入させると、すぐ横から可愛らしい声が聞こえた。


「…ユーリ」

「んンッッ!んあ、やッあ、舐めん、な!!」

「ユーリ……」


繰り返し名前を呼び、抱き合いながら自分にしか見せないユーリの姿を得ても尚、なくなることなどないこの感情の名は『嫉妬』だ。
自分を優先してもらいたいという子供じみた欲求を抑えることが出来ないぐらい、己を持て余しているのが情けない。



「…もっと、僕のことを…欲しがってくれ」



ユーリの瞳が大きく見開かれる。


馬鹿だ、と思いながら溜め息を吐いたのはフレンだけではなかった。





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終わり