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Sledge Resolution・4(※)

最終話です。裏ですので閲覧にはご注意下さい。






「んんッ、あ、っは……あァ…ッッ!」

「は…っ、う、く……!!」

とにかく解放したい。
その一心だった。


(信じ、らんねえ……)


いきなりフレンがこのような事をしてきた理由は、まだ完全には理解出来ていない。
何故こんな状況になっているのか。そして自分はどうしてこんな事を受け入れているのか。諸々全てが信じられなかった。

だが、今はこの欲望の処理をするほうが先だった。
まさか同じ男であるフレンにキスされてあちこち好きに舐め回された挙げ句にしっかり勃たせてしまうなんて、と思うが、もうどうしようもない。

ズボンの前を寛げて向かい合わせに座り、脚を絡ませて互いの性器を握る姿が端から見てどうなのかなど、考えたくもなかった。
ただ吐き出す為に刺激を与え続けている。自分で処理するのと決定的に違うのは、勿論フレンが自分のものに触れている、という事だ。


「ああッッ、あ、やべ…っ、あ、っは!!」

「ん…、ユーリ、ちゃんと僕のも」

「っせ……!!」

自分でやるのとは、当然だが感覚が違う。気持ち良いところなんて自分自身が一番よく分かっている筈なのに、どういう訳かフレンにされているほうが自分でするより何倍もいいのだ。

自然、フレンのものを刺激するユーリの手の動きは鈍りがちになり、殆ど添えるだけとなっている。
フレンが責めを止めないので、一方的にユーリが喘がされている格好になっていた。


「あ、あ、っん、も、イ…っく、う…!!」

「…ユーリ…!」

「うア…ッッ、は、あァッ、んうああァァ!!!」


ユーリが前屈みになってぶるりと身体を震わせた。
次の瞬間、堪えられずに吐き出された精が主にユーリの腹に叩き付けられ、とろりと垂れてゆくさまを間近に見てフレンが喉を鳴らす。

脚を大きく広げ、後ろ手に手をついて何とかといった様子で身体を支えて浅く荒い呼吸を繰り返すユーリの姿はあまりに淫靡で煽情的すぎて言葉も出ない。

代わりに渇いた吐息が漏れたのが聞こえたのか、ユーリがのろのろと顔を上げてフレンを見た。
上気した頬や汗の粒が浮かぶ額に張り付く髪がはらりと落ち、フレンは堪らずユーリを押し倒していた。





「う……く、っぐ……!!」

フレンの指を受け入れながら、ユーリが苦しげに呻く。まさかここまでされると思っていなかったが、抵抗する気が起きなかった。
だが、痛みで身体は引き攣り、先程までとは違う脂汗が額に滲む。


「ッッ……う、んっつ…う!」

「っ…!ユーリ、ち…力、抜いて」

「っあ、あ、あ、っはあッッ!!」


少しずつ押し進められる指に、有り得ないほどの異物感を感じてユーリは太股を戦慄かせた。
自分の放った精液を潤滑剤代わりに塗られたせいで、フレンが指を動かす度にそこはぐちぐちと粘っこい音を立てる。
人差し指を根本まで埋め込まれた後は早かった。





「あああッッ、も、そこ、やめ、あ、あアッ、ッああ!!」

「また、イきそう…?」

「ひィあ、あッ!!」

一度見付けてから、フレンは執拗に同じ箇所を責め続けていた。ユーリの中に指を埋めた直後はあまりのキツさにそれ以上の抜き差しを躊躇うほどで、ユーリも辛そうなので指先だけを恐る恐る内側で動かした。
根本はちぎれそうなぐらいの締め付けのせいで痛みすら覚える。ユーリが腰を揺らした拍子に思わず内側で指先を曲げた、その時だった。


「ひあああァッッ!!!?」

「っ、ゆ、ユーリ?」

「ぃあ、ッッ、や、やめッ、そこ、や、あぁあ!!!」

「……そこ、……?」

注意深く内側を指先で確かめるようにすると、先程指先を曲げた場所に他とは違う感触があった。そこは丁度ユーリの性器の根本のあたりだろうか。少し強く指先で擦るとユーリの口から一際大きな声が上がった。

間違いない。『ここ』が、ユーリのイイ場所だ。
そう思ってぐりぐりと弄ると呆気ないほど簡単にユーリが達してしまったので、更に吐き出されたばかりの精液を塗り込んで前後に指を動かしてみる。
ぐちゅ、と濁った音を立て、抵抗なく出し入れ出来るのを確認して、フレンはどこか優越感のようなものを感じていた。

大きく広げた脚の間に身体を割り入れ、少し速度を上げて指を動かす。前後だけでなく時折そこを拡げるようにぐるりとなぞり、また一点を刺激して跳ね上がる腰を自分の身体で押さえ付けては指でユーリを犯し続けた。

加減などわからない。
だが、フレンもとっくに我慢の限界を越えていた。まだ一度も吐き出していない熱が蟠ってどうにかなりそうだった。


もう、繋がりたい。


ユーリの中に自分自身を埋め込んで一つになりたい。
どんな声で、仕種で応えるのか考えたら背中に甘い痺れが走った。
それが妄想の持たらした感覚的なものだけでないことを知り、フレンの背に腕を回してしがみつくようにしながら愛撫に喘ぐユーリにキスを繰り返す。
とろんと濡れる薄紫色の瞳を見つめながら、指を引き抜いた場所に自分自身を宛がうと、またしても背中にぴりぴりと痺れが走る。

ユーリの爪が突き立てられるの感じながら、ぐっ、と力を込めてその場所へと侵入した。


「うあ、っぐぅッッ!!?」

「う………く!!」

「ふッう、んんっ、あ、あああァああ!!」

「うッあ、なん……、き、つ……!」

想像以上のキツさだった。
そして、それ以上に熱い。段階的に腰を進めて奥まで埋め込むその動きが強烈な刺激となってフレンに襲い掛かり、全てを押し込んだと同時に達してしまった。

「は、ああ!っな、あ、あァッッんんん!!?」

「っちょ、そんなに締めるな………!!」

「な…に、言っ……ッあ!?」

どくどくと中に流し込まれる感覚に、思わず固く閉じていた瞳を開けたユーリの目には、歯を食い縛って快楽に耐えるフレンの表情が映し出された。
今まで見た事もないフレンの悩ましげな表情に感じ入るユーリだったが、フレンに腰を掴み直されて顔色を変えた。
フレンはまだ、ユーリの中に自分自身を埋め込んだまま動かない。
まさか、と思った瞬間に勢い良く突き上げられて、ユーリは思い切り上体を仰け反らせていた。



「うああァッッ!!んァッ、ああッッ!」

痛みと快感がごちゃ混ぜで、何がなんだかよく分からなくなっている。
穿たれ突き上げられる度にまるで女のような声を上げて髪を振り乱しているのが自分だなんて、と頭の片隅に僅かに残る理性で感じていた。


熱くて朦朧とする。


ねっとりと纏わり付く湿り気を帯びた外気も、腰を掴むフレンの掌も、何よりも熱の塊を捩込まれて繋がっている場所が、全てが熱くて堪らない。

その熱の塊が、大きく脈を打って一瞬動きを止めた。


「ユーリ、ゆ……ぅ、り……!!」

「はっ…、アッッん、あ、やッ、ああァ、っ――――!!」


同時に熱を放って、フレンがユーリの上にぐったりと身体を投げ出した。
ぜいぜいと整わない呼吸を二人で繰り返しながら、暫くの間折り重なって抱き締め合っていたのだった。








「……気持ち悪ぃ」

「うん……」

「ベタベタする」

「…そうだね」

「あちこち痛え」

「………ごめん」


落ち着いた頃には既に日も暮れていた。
まだ起き上がる事の出来ないユーリの頭を太股に乗せて髪を撫で、今さらながらにとんでもない事をしたな、とフレンは考えていた。ユーリが怠そうに口を開いて、フレンがユーリへと視線を落とす。


「……なあ」

「ん?何だい」

「何でこういうこと、オレにしようと思ったんだ?」

「何でって……」


頭の中で様々な光景と言葉がぐるぐると駆け巡る。
言いたい事は山のようにあったが、大前提としてこれだけは言っておかなければ、ということが一つだけあった。



「君のこと、好きだから…」



ふん、と小さく鼻を鳴らすのが聞こえた。表情は見えない。

ユーリは?と聞いても答えは返って来なかったが、ユーリが身じろぎした拍子に覗いた耳は真っ赤になっていた。




ユーリの気持ちは、これからゆっくり確認しよう。

そう思って頬を撫でたらすぐにその手を払われてしまい、フレンは苦笑するしかなかった。

Sledge Resolution・3(※)

続きです。裏表現があるので閲覧にはご注意ください。






「――――――!!!?」


状況が、理解できない。
正確に言えば、理解したくなかった。


フレンに腕を掴まれ、寄り掛かっていた固いコンクリートの壁に身体を押し付けられてキスされている。
そんな状況を、理解できる筈もなかった。



昼間、他校の生徒に絡まれていた下級生を助けた。

面識などないが、たまたま通りがかったところでカツアゲの現場を目撃してしまったのだから仕方ない。
相手は二人だったが、誰かを呼ぼうなどと思わない辺りがユーリらしかったと言える。

本当に、大した事はなかったのだ。
少し強めに脅してやったらすぐに逃げ出した。どちらが悪者か分かったものではないが、喧嘩にすらなっていなかった。

ところが、二人のうち一人が逃げ出すと見せ掛けて殴り掛かって来たのだ。しかも、ユーリではなく隣で怯え竦む下級生に。
咄嗟に彼を突き飛ばし、顔を逸らしたが避けきれなかった。直撃はしなかったが拳が顎を掠め、それでもすぐさま反撃の構えを取ったユーリを見て今度こそ相手は逃げ出していた。

自分の事は誰にも言うな、とあれ程口止めしたというのに、よりによってフレンに言うとは何て余計な真似をしてくれたんだ、と思う。

初め、ユーリはフレンがその事で自分を探してやって来たのだとは思っていなかった。結局あの後のクラス出店や片付けをサボってこの場所で時間を潰していたので、てっきりそれを咎められるのだと思っていた。


それが、今の状況は一体何だ。

喧嘩未遂がバレてフレンが腹を立てているとして、何故自分はフレンにキスをされているのか。


「んんンッッ、んぅ――――っ!!!」

離せ、離れろと頭の中で繰り返しても意味がないのは分かっている。しかしフレンはまるでユーリの思考を読んで、その上でわざとその反対の行動を取るかのような動きしかしない。
そういえば、さっきからそうだった。

「ッう、ふぅ……んむ――――ッッ!!?」

精一杯の抵抗を試みて両腕を押し返そうとしても、フレンがユーリを壁に押し付ける力のほうが強い。
…いつの間に両腕を掴まれていたのか。一瞬考えたが、容赦なくコンクリに擦り付けられる背中と後頭部の痛みに思考が拡散する。


「ン…っふ、ふァ……ッア…」


執拗に唇を嬲られるうちに、意識が朦朧としてくる。鼻に掛かった甘ったるいこの声が自分から出ているなんて、信じたくない。信じられないことの連続で、混乱を極めていた。
フレンもどこか苦しげな呼吸だったが、それでも視線はユーリをしっかりと捉えて揺るがない。フレンを押し返そうとする力も徐々に失われ、ユーリの腕が下がったぶんだけフレンの全身が伸し掛かった。

避けようと身体を横向ければずるずると壁をずり落ちるばかりで、両手首と唇をフレンに捕らえられたまま、ユーリは今や完全にフレンの身体の下で身じろぎすら出来ない状況になっている。

このままでは、まずい。
今はっきり分かるのはそれだけだった。


「ふッ……ぇ、フレ……ッんッッ!!」


ほんの一瞬唇が離れた隙に名前を呼べば、漸く顔を少しだけ上げたフレンの吐息が鼻先を擽ってユーリは思わず目を閉じていた。




(僕は………何をしてるんだ………?)


唇を重ねて、ユーリの苦しげな様子を見ながら頭の片隅でぼんやりと考えていた。



熱い。

どこが?

…全てが。



こんな事をするつもりなどなかった。その筈だったが、痛みに歪むユーリの表情、僅かに開いた口から覗いた赤い色に誘われるままにその場所へ顔を寄せて奪っていた。


男同士なのに。

…ユーリなのに。


だが重ねた唇はとても柔らかく温かで、ぴったりと合わせた感触が堪らなく気持ちが良かった。


(ユーリだから、か…?)

自分は初めてだ。
ユーリはどうなんだろうか。
もっと味わいたくて執拗に何度も何度も繰り返すうちにどんどん身体は熱くなり、ユーリを押さえ付ける力も比例して増していく。
痛いだろうと思うが、がちがちに固まった指は自分の思う通りになってくれない。徐々に力を失って壁から床へとずり落ちるユーリの身体を支えながらも、フレン自身も下肢に力が入らなくなって来ていた。


興奮している。
どくどくと激しく胸を打つ鼓動は、同時に下半身の一点にも血液を集めているのだ。


「は……っ、あ」


唇を離して息をつく。
見下ろした先にはユーリがいる。自分によって両手首を床に縫い付けられ、ぐったりと身体を投げ出し、忙しなく呼吸を繰り返しているユーリが。

その部分の熱をユーリに悟られないように懸命になって膝に力を入れ、『それ』が触れてしまわないように必死だった。


「てめ……ッ、なに、しやがる……!!」


鋭い視線だけを投げつけて悪態をつくユーリを見ると、白い首筋と薄い顎の境界に走る朱の線がやけに目についた。

自分以外の誰かに付けられた傷が、今日ほど疎ましく思った事もない。
やはり、今日の自分は何かおかしいのだ。

昔のことばかり思い出し、今の自分達の関係と比較している。
悪化などしていない。
だが疎遠になったのかもしれない。
ユーリは気にしていないようだったが、フレンはずっとそれが嫌だった。

「おい……!?」

上半身を支えるのが辛い。
ユーリの手首を掴む力はそのまま、肘を折り胸を合わせてじわじわと伝わる体温を感じていると、それだけで再び呼吸が苦しくなってくる。

「お、重……ッ、ちょ、どけって……!!」

「…ユーリ」


自分ばかりが心を浮き立たせていたあの日、まだ未熟だった想いの正体に気付くこともなかった。
同じ高校に進学すれば楽しい、と言ったのはユーリだったのに、奔放な彼には次々と新たな友人が増え、いつしかフレンは言いようのない寂しさを覚えるようになっていた。

ユーリは楽しいのだろう。
でも自分はそうではなかったのだ。元々希望していた高校だから、その事自体は後悔していない。
ユーリに友人が出来る事を素直に喜んでやれない自分が情けないばかりだったが、今ならその理由もはっきりと分かる。

何の事はない、嫉妬だ。
あの女性教諭に抱いたものと、何ら変わらない。
ただ、嫉妬そのものの中身が違っていた。『友人』を案じて、または『友人』を奪われまいとして、その度に感じていたのは『友情』だと思っていた。


「違う………」

「は!?何が違うってんだよ!どけっつってんだろこの野郎!!」

「…嫌だ」

「何だと!?」

「ユーリ」

「何だよ!!!」

「…ユーリ」

「……………ッッ!!?」

ぴったりと上半身を密着させたままで顔だけを上げているのはそろそろ限界だった。
さっきから視界に入る朱が鬱陶しくて仕方ない。
引力に逆らわず顔を落とし、フレンは目の前にある薄い傷痕を自らの唇で覆った。


「っひ………!!」

「……………ん」

「うあ!?っちょ、やめ…ッ、舐め……っな、あ!!!」

唇を付けたまま、舌で傷のあたりを舐めて吸う。
鼻先に感じるユーリの汗の匂いと口の中に広がる味が、段々と甘く感じられるから不思議だ。

舌を動かす度にユーリが上げる声がフレンの耳を擽る。ユーリがこんなに高い声を上げるとは知らなかった。
知ってしまえばもっと聞きたくなる。なら、どうするか。


「ひっ…ィ!!あ、うぁ!!」

ユーリの手首を掴んでいた右手を離してシャツの上から脇腹のラインを撫で上げ、そのまま裾を引き抜いて内側に手を滑り込ませてみた。
思った通り、ユーリが身を捩って声を上げる。


「ふ……」

「て…め、何、笑ってやがる!?」

「…笑ってた?」

「なっ!?いい加減にし」

「ごめんユーリ、ちょっともう…無理」

「え、う、うわああぁ!!?」


一気にシャツを捲り上げると、ユーリが慌ててそれを戻そうと自由になった左手を振り下ろす。ところがフレンがまたしてもその手を掴んで乱暴にユーリの頭上に固定した。

露になった胸板の白さに目眩がするようだ。そういえば、水泳の授業等ではよくクラスメイトに揶揄われていた。本人は不服そうに膨れっ面をしていて、そういうところだけは昔から変わらないと思ったものだったが。


「ちょ……マジやめろっ…!!無理って…おま、どうしたんだよ!?これ以上何する気だ!!?」

「…それは…これ、以上…?」

「ああ!?」

こちらを睨みつけるユーリの瞳は相変わらず涙で潤んでいるようだった。視線は鋭さを欠き、むしろ可愛らしいとすら感じられるからもうどうしようもないのだろう。
自分のしている事も大概だが、ユーリも本気で抵抗しているのかどうかわからなかった。
突然の出来事に身体が上手く動かないのかもしれないが、それなら好都合だとすら思う。

何せこれから自分がしようとしている事と言ったら、およそ一般的な感覚からはズレていると言わざるを得ないのだ。
ユーリに『そっちの』趣味がある、とは聞いた事がない。自分もその筈だったと思うものの、今それを聞かれたら答えに詰まりそうだった。

ただ一つだけはっきりしているのは、ユーリでなければこのように触れたいとは思わない、と言う事だ。
そして、キスをして触れてしまったら『それ以上』に進みたい。
いきなり、とユーリは言うが、きっと自分はずっとこうなる事を望んでいたんだろうとフレンは思っていた。

何の躊躇いもなくユーリの胸元に顔を寄せ、薄紅色の乳首を唇で挟むと強く吸った。


「イ…ッッつ、ひァ、っあ!!」

頭上から上がった悲鳴じみた声に、刺激が強すぎたか、と今度は口に含んで優しく舌で突起の周辺をぐるりと舐め、時折中心を押し潰すようにしてみる。


「んんあアッ、や、やめ……!!っあ、も、マジで……ッッ!!」

「…気持ち良く、ない?」

「あ、っっひゃ、くすぐっ……喋んな、ア!!」

「…分からない反応だな…」

もう一度乳首を口に含んで執拗に吸う。わざと音を立ててみたり、軽く歯を立ててみたりと様々な方法で愛撫を続けると、次第にユーリの声に甘い響きが混じるようになった気がしてフレンは顔を上げ再びユーリに問い掛けた。


「…どう?気持ちいい?」

「く……わ、かんね…っ、よ……!」

「こっちも固くなってる」

「ッあ、ぃああアッッ!!」

左手でもう片方の乳首を摘み、指で押し潰すようにしながらくにくにと捏ねる。両方からの刺激にユーリの背中が浮き、フレンの両肩を掴んで爪を立てた。痛みに一瞬フレンの表情が歪むが、縋り付くようなその仕種で全て許せてしまう。

フレンの指先と舌の動きに合わせて断続的に上がり続ける声が、一層フレンの下腹部を刺激する。
とうとう腰を上げていられなくなってその部分をユーリに押し当てたら、ユーリが息を呑んで腰を跳ね上げた。


「うァ……!!」
「ん……っ、く…!」


ぐり、と擦れた互いへの刺激で同時に声を上げるが、ユーリは慌てて腕で口元を覆った。


感じてくれている。


反応を示しているユーリ自身を自分の同じ場所に押し当てて腰を揺らせば、ユーリが固く瞳を閉じて懸命に声を抑える様子がまた堪らなくフレンを刺激した。


そろそろ、解放されたかった。


「…ユーリ、辛くない…?」

「…っの、聞くな、よ…!!」


悔しさを滲ませた声で言うユーリは両腕で顔を覆ってしまい、表情が見えない。

少し残念に思ったが、フレンが笑みを浮かべたのもまた、ユーリに見られる事はなかった。

Sledge Resolution・2

続きです。






好きで呼び出してる訳じゃない。

ならどうしてって、それが自分の仕事の一つだからだ。
しなくていいなら、それに越した事はない。

相手が誰であってもそう。
…彼なら尚の事だ。
そう、思っていた。



学園祭二日目の校内は、放課後になってなおまだ騒がしい。
階下の喧騒を聞きながら、フレンはふと足を止めた。


ちょうど四年前の今頃、ユーリと二人で進路について話したな。
…ユーリは色々と忘れてたみたいだけど…。


もう四年経つのか、と少々の感慨を覚えないでもないが、思い出すと今でも少し切なくなる出来事だ。

何の事はない、ユーリと二人で共にこの学園に入ろう、という話をしたのに、いざ本当に進路を決定する時期には言い出した当の本人であるユーリがその事をすっかり忘れていた。
それだけの事なのだが、当時は悔しいやら腹が立つやら、そんな状態で受験勉強の手助けを頼み込まれて必要以上にユーリに厳しく当たった気がする。

同じクラスでさえあったなら、聞き分けのない仔猫の如く逃げ回るユーリの首根っこを引っ掴んででも図書室、もしくは自宅へ強制連行するものを、放課後になるとさっさと姿を消してしまうユーリを捕まえるのはなかなか骨の折れる『作業』だった。

自分から勉強を教えてくれと言って来たくせにどういう事なのか、と思えば益々苛立ちが募る。だから毎日、昼休みにユーリの元までわざわざ出向き、その日の待ち合わせ場所と時間を殊更大きな声で伝えたものだった。

しかしそうすると当然、昼休みにユーリが捕まらなくなる。そこでフレンは最終手段に打って出た。
生徒会長という立場を最大限利用して、校内放送でユーリを呼び出す事にしたのだ。
幸いにと言うか何と言うか、呼び出す理由には困らなかった。

些細な理由で毎日のように全校生徒へ向けて自らの名を連呼されるのは流石に耐えられなかったらしく、やっとユーリは大人しくフレンを待つようになった。
不機嫌そうに頬杖を突いて窓の外を眺めていたユーリの姿を思い出すと、自然と口元に笑みが浮かぶ。

我ながら無茶をしたなあ、と思いながらも、ああでもしなければ今こうして同じ時間を過ごす事はなかったかもしれない。

しかし念願叶って同じ学園に入学してもユーリの素行の悪さは相変わらずで、しょっちゅう職員室へ呼び出しを食らっていた。自由な校風が売りとは言え、そこはやはり限度というものがある。

二年生でフレンが生徒会長になると、幼馴染みで仲が良いという事もあってなのだろうが、やたら教師からユーリへの伝言であったり、いつどこへ来るように、という呼び出しを伝えるといった類の面倒を押し付けられるようになってしまった。
何故そんな事を自分がしなければならないのか、と思いながらも、それでも初めのうちは仕方ないと思っていた部分もある。

必要があれば校内放送で呼び出した。
中学の頃の事を思い出さずにはいられなかったが、あの頃とは違い、名前を呼ばれる事を嫌がったユーリが大人しくフレンや教師の言うことを聞くようにはならなかった。






「……ユーリ、ここにいたのか」


鍵は開いていた。

屋上が解放されるのは昼休みだけで、放課後は生徒の立ち入りは禁止されている。施錠されている筈の扉を一体どうやって開けているのか知らないが、フレンはその扉を閉めてしっかりと鍵をかけ直し、ユーリの傍へと歩を進めた。

鞄を枕に寝転がるユーリの隣に腰を下ろしてわざとらしく大仰な息を吐けば、こちらもじっとりと眇めた瞳から投げ付けられた、鬱陶しくて敵わない、といった視線が突き刺さる。

二人共に暫く黙ったままで互いの顔を見つめていたが、やがてユーリが視線を外し、怠そうに身体を起こした。

ふあぁ、とユーリにしては控えめな欠伸をひとつ零し、滲んだ涙もそのまま、微妙に焦点の定まらない瞳は投げ出された足元をぼんやり眺めている。

フレンを見ることなく、ユーリがぼそぼそと呟いた。

「…毎回毎回、ご苦労なこったな」

「毎回毎回、君がちゃんと言われたところに来ないからだろう。校内放送するのも馬鹿らしいよ」

「あれやめてくれよな、いきなりおまえの声で名前呼ばれるとか、ビビるんだよ」

「どうして?いつも呼んでるじゃないか、名前なんて」

「…だからだよ」


どうせまたなんか説教だろ、と言いながらユーリがこきこきと首を鳴らし、首回りに張り付いた後れ毛を鬱陶しそうに掻き上げた。


フレンがユーリを『呼ぶ』のは大抵の場合においてユーリが何かしら問題を起こしたからで、ユーリもそれが分かっていながらわざと呼び出しに応じない事が多々あった。
応じないどころか、校内放送を聞いて逃げるのだから始末に負えない。


だからフレンはユーリを捜す。

校舎裏に植えられた木陰や中庭の東屋、保健室。
保健室など、担当教諭がユーリのサボリを半ば容認している部分があるものだから質が悪い。フレンがあまりにしつこく言うので、最近になって漸くユーリの『仮眠室』として使わせる事がなくなった。
最もそれは、高校三年生という年齢的なものも関係しているに違いなかったが。
保健の教諭は女性だ。しかも若くて美人で、男女問わず人気がある。ユーリとはウマが合うのか、特に親しげに見えた。

あらぬ誤解を生む前に、引き離したかったのだ。

噂にでもなれば、今後のユーリの進路に支障が出る。そんな事は許せなかった。立場上、ユーリよりも女性教諭のほうが何かあった場合はまずい訳だが、フレンはそんな事は露ほども気に掛けていない。
大体、ユーリを追い出そうとしないのが理解できなかったし、同時に非常に腹立たしいものを感じていた。

その気持ちが『嫉妬』だという事には気付いたが、その時はまだユーリは『大切な幼馴染み』の筈だった。


保健室という恰好の睡眠場所を奪われたユーリが好むようになったのが、この屋上だ。
余程の悪天候でない限り、今フレンの目の前でそうしていたようにユーリは屋上の片隅に寝転んでいた。

夏休みが終わって半月以上が過ぎ、暦の上では初秋の筈だ。だが未だ日中の陽射しは強烈でジリジリと肌を灼き、気温の下がる気配もない。
放課後を二時間程経過した今も真っ青なまま暮れもしない空が少しばかり高くなったように感じるのは、雲の形に秋特有のものが増えたからだろうか。



湿り気を帯びた風が生温い。

陽射しを避け、給水設備を納めた小さな建物の陰で寝ていたユーリだったが、上半身はしっとりと汗で濡れ、シャツの張り付いた背中や胸元は薄く素肌が透けている。

大きく開いた襟元を握ってはたはたと風を送り込む気怠げなユーリの姿になんとなく気恥ずかしさを覚え、フレンはコンクリートの床についた掌を緩く握っていた。



「…ユーリ」


溜め息混じりに名前を呼べば、まだ少しだけ眠たげな瞳がゆっくりとフレンへ向けられた。
薄らと潤む薄紫の瞳は先程の欠伸のせいであって、そこに艶っぽい何かがあったとか、切ない何かを思い起こさせるような事があった訳ではないことなどわかりきっている。

それなのに、この瞳を見ると落ち着かなくなったのはいつからだっただろう。
思い出せないほど昔からだった気もするし、つい最近になってからのような気もする。

ただ一つはっきりしているのは、自分が常にユーリの姿を追い求め、こうして傍にいれば触れたくて堪らない、ということだ。ユーリが自分を待っていてくれることがなくなったからなのか、どうなのか。
何故なのかわからない。わからないが、とにかく触れたかった。

今までも何度か覚えた衝動を、その都度抑えて来た。それが今日に限って我慢できなかったのは、魔が差したとでも言えばよかったのだろうか。


それとも、密かに限界だったのか。


「………?フレン?」

ぼんやりしていた瞳はしっかりと開かれ、フレンを見上げるようにして見つめている。無意識のうちにその瞳に手を伸ばしていた自分に気付き、フレンはぴくりと身体を引き攣らせた。
気付きはしたがもう誤魔化しようのないところまで指先は近付いていて、咄嗟に口をついて出た言葉にユーリがほんの少し首を傾げ、ぱちぱちと瞬きを繰り返す。


「……目に、ゴミが」

「は……?」

「あ、いや、僕じゃない。君の」

「オレ?別に痛いとかないし、そんなものは」


フレンが人差し指でそっとユーリの目尻に触れ、そのまま滲んだ涙を拭う。

「…んっ…」

僅かに顔を逸らしたユーリから漏れた小さな声が、妙に大きく耳に響いてフレンの頭の中を掻き乱した。

「…取れたか?」

「………………」

「フレン?…っっ!?」

するすると頬をなぞった指が今度は口元で止まり、唇の端を掠めて顎を掌で包む。
驚愕の表情のまま固まるユーリの姿を漠然と視界に納め、指先に力を込めた、その時だった。


「痛って!!ちょっ、触んな!!」


突如ユーリが声を上げ、顎に触れていたフレンの右手を叩き落とした。

「っつー……」

「えっ、ご、ごめん……え、どう、したんだ?」

「……別に、何でもねえよ」

「何言ってるんだ、そんなの信じられるわけないだろ」

顎下を摩りながら、その場所を隠すようにユーリがフレンから顔を逸らして俯いた。


そこで漸く、フレンは今日ユーリを探していた理由を思い出した。
どうしてもユーリを見つけ出して、話を聞いて確認して、そして叱ってやるつもりだったのだ。

俯くユーリの肩を掴んでこちらを向かせると、反射的にユーリが顔を上げる。
首筋に手をやって押さえ、親指の腹でもう一度、先程触れた部分をなぞった。

「だっ……!!触んなって言ってんだろ!?」

ユーリの抗議を無視して少し強めに指を押し当てると、じわりと熱が伝わる。少し腫れて体温よりも熱く感じるそこに更に残りの指を重ねて顎を横向かせると、ユーリが小さな呻き声を上げた。
尚も無視を決め込んで覗き込んだ先に薄く朱色の線が走っているのを見つけ、フレンは眉を顰めずにはいられなかった。


「…殴られたんだって?」

本当なら、真っ先に確認すべき事だった筈だ。
本当に何故、今日に限ってこれ程までに思考が纏まらないのか。やけに昔の出来事が思い出されては今の自分達とシンクロし、その度に昔とは違う感覚を強く感じている。

ユーリの怪我を案じる自分と、ユーリの声や反応に心を波立たせる自分。


今、勝っているのはどちらだ…?



「フレン!いつまでやってんだよ!?」

「殴られたのか、って聞いてる」

「っ…、そんな大袈裟なもんじゃねえよ、避け損なって掠っただけだ」

触れなければわからないあたり、なるほど直撃ではなかったのだろう。ではこの朱い筋は、相手の爪か何かで付けられた傷なのか。


「…君が庇った相手が、僕のところに来て教えてくれたんだ。先生に見付からなかっただけラッキーだよ」

「あのヤロ…黙っとけって言ったのに…!」

小さく舌打ちしたユーリがフレンの手を払おうとしたが、逆にフレンがユーリの手首を掴んだ為に驚いてその顔を仰ぎ見る。

「…っ、え!?」


近い。

いつの間に、こんな近くに。


責めるような色を含んだ空色の瞳は、肩越しに広がる蒼穹よりもどこか仄昏く思えてユーリが言葉に詰まる。


どうした、と聞こうと思ったのに、それはフレンが更に顔を近付けたせいで声にならなかった。

Sledge Resolution

昨年のイベント合わせで寄稿したお話の再録です。
フレユリで学パロですが、設定がサイト連載のものとは違うのでSSカテゴリに入れてます。最終的に裏ありなので閲覧にはご注意下さい。







呼び出されるのは嫌いだ。
何故かと聞かれたら、『ろくな事がない』からとしか言いようがない。

相手が誰であってもそう。
…あいつなら尚更だ。



中三の夏休み明け、進路希望調査のプリントに適当に学校名を書いた。高校なんかどこでもいいと思っていたので、とりあえず自宅から比較的近く、よく名前を聞く学校を記入したのだ。

そうしたらその日の放課後、担任に呼び出された。

お前は何を考えてる、本気か、少しは真面目に考えろ、と言われ、もう一度記入し直せとプリントを突き返された。
確かにそれほど真面目に考えて記入した訳ではなかったが、あまりの一方的な言われように腹が立ったので理由を聞けば、担任の教師は呆れたようにこう言い放ったのだった。


『お前の頭で行けるところじゃない』


授業はサボりがち、素行もあまりよろしくない。成績も、お世辞にも良いとは言えなかった。だから、そのような台詞は聞き慣れていた筈だった。

だが、何故かこの時だけは違った。教師の言葉がやけにカンに障り、『そこまで言うなら絶対に受かってやる』と啖呵を切ってもう一度、プリントを担任に叩きつけてやったのだ。

本当に、何故あんなに担任の言葉が引っ掛かったのかこの時はわからなかった。それ程深く考えて決めた訳ではなかった筈の学校なのに、『ここ以外有り得ない』とすら思えていたのだから不思議だ。

勿論、志望校は変えないまま、渋い顔をする担任を残してユーリは進路指導室の扉を開け放ち、足音も荒く自分の教室へと戻ったのだった。





「…それだけ威勢のいい事を言っておいて、僕に頼ろうっていうのがわからないなあ…」


呆れたように言う幼馴染みを前に、ユーリが頬を膨らませる。

「うるせー、仕方ねえだろ、他にいないんだから」

「他に、ね……」

「いいから勉強教えろ、絶対あいつにぎゃふんと言わせてやる」

「ぎゃふん……」

「おまえじゃねえよ」

「わかってるよ!今時、あまり聞かない表現だと思っただけだ」

「う…うるせえって言ってんだろ!?教えてくれんのか嫌なのか、どっちなんだよ!!」


ますます頬を膨らませて詰め寄るユーリに、フレンの眉が僅かに寄る。不快に感じているわけではない。
それはむしろ好ましくて、どちらかと言えば可愛らしく駄々を捏ねる子供を見守るかのような、そんな心持ちだ。

やれやれ、と心の中で呟くが、しかしユーリとは対照的に、フレンは自らの頬が緩むのを感じていた。
気を抜けば滲み出そうになる笑みを必死で抑えつけてユーリに答える。

「嫌なわけないよ。せっかくユーリがやる気になってくれたのに」

「あそこまで言われて黙ってられっかよ。どんだけレベル高えとこなんだか知らねえけど、他のとこじゃ…」

ふと、ユーリが言葉を切る。フレンは首を傾げた。
他のところでは、どうだと言うのか。件の高校を選んだ理由なら、自分が考えている事と同じ筈だ。
ユーリの性格を考えてみるに、素直にその『理由』を言ってしまうのが恥ずかしいのだろう。
そう思っていた。

だから、敢えてユーリの口から『理由』を聞いてみたかったのだ。

「ユーリ?他のところじゃ駄目な理由があるの?」


きっとユーリは目を逸らして俯いて、『何だっていいだろ!!』とか、そんな事を言うんだ。でも、本当の理由はきっと、自分と同じで。だって、自分が志望校を決めた理由も――――


「…んー?駄目っていうほどのもんじゃないけど」


ユーリが椅子に座り直して両腕を頭の後ろに組む。
その表情からは特に何かに恥じらったり、拗ねたりといったものは感じられない。至って普通だ。普通すぎるほど、普通。

(……あれ……?)

想像と違ってノーリアクションなユーリにフレンは拍子抜けし、同時に言いようのない不安を感じずにはいられなかった。


「…そう、なのか…?」


恐る恐る、といった声音になってしまったのは、もしかすると頭のどこかでユーリの答えを予想してしまったからかもしれない。


「だってさ、家から歩きでも行けるガッコ、そこぐらいだろ」


……ああ、やっぱり。

「はあああぁぁぁ………」


深い溜め息と共にがっくりと肩を落とすフレンを、ユーリが何とも言えない表情で見ていた。





はっきりと確認をしたわけではなかった。

そういう意味では、ユーリにばかり責任があるとも言えない。いや、そもそも責任云々の話でもない。進学先なんて自分の都合と学力、更に先の将来を考えて慎重に決めるものであって、誰かと一緒にいたいから、などという理由で決めていいものではない。

それでもやはりその可能性が少しでもあるのなら、ユーリと同じ高校で学生生活を送りたいとフレンは思っていた。

それに、あの時ユーリは自分の話を聞いて、この学校に興味を持ってくれた筈だった。
それ以来、特に話題に挙がったことはない。でもユーリもちゃんと覚えていて、だからこそ進路希望をその学校にしたのだと思っていた。自分と同じ学校を選んだはいいが詳しい事まで調べてなくて、それで担任に呆れられて、やっと自分と一緒に受験勉強をする気になってくれたのだと勝手に思っていただけだったのだ。

『覚えていない』以外は概ねフレンの想像通りではあったが、ユーリが忘れてしまっている『理由』こそがフレンにとっては大切な事だった。




ユーリと進路の話をしたのはどういうきっかけだったかをフレンは思い出していた。
確か、二年生の文化祭の時だ。

一般解放の日曜日、他校の生徒や保護者の姿に混じるその高校の制服を見付けた。そこは有名な進学校であるにも関わらず比較的自由な校風が売りで、進路先として考えている生徒も多い人気の学校だった。


自分達のクラスが出店している屋台の後ろで休憩を取りながら、フレンとユーリは目の前を通り過ぎて行く人々を眺めていた。


「なあ、今日って日曜だよな?」

「そうだけど…どうしたの今さら」

「いや、なんで余所のガッコのやつらも制服着てんのかな、って思ってさ」

「また…他校の生徒が来校する場合の注意事項、聞いてないのか?」

「聞いたかもしんないけど、覚えてねえし」

「学生は制服着用で来校すること!他校の友人を誘う場合はちゃんとそれを伝えるように、って念を押されたじゃないか」

実際、近隣の学校の間ではそういった連絡が回っている筈だった。

「んな事言ったってさあ、私服で来ても何の問題もないじゃんか。平日だってんならまだ分かるけど、休みなんだから」

「そういう問題じゃ…文化祭はれっきとした学校行事で、遊びじゃない。学校行事に参加するのに、私服じゃないだろう」

「…おまえ、ほんっっと頭固ぇよな。制服着てなくたってバレやしねえっての」

「だから、そういう問題―――」

「なあ、あれ」

フレンの言葉を遮ってユーリが指差す先には、同じ制服を着た学生達の姿があった。

「…何?あの人達がどうかした?」

「人はどうでもいいけど。あの制服、なんか面白くねえ?」

「いつまでも指差すの、やめなよ」

そう言いながらも再びユーリと同じ場所に視線を巡らせて、その集団に目を凝らしてみる。
五人程で談笑しているそのグループが着ているのは、同じ高校の制服だ。面白い、とはどういう事だろうか。

「…おまえ、また目ぇ悪くなったんじゃねえの?お勉強のしすぎか?」

「そろそろ眼鏡を考えないと駄目かな…。ユーリ、面白いってどういう事?僕にはみんな同じにしか見えない」

「眼鏡ね…」

「?」

ちらりとフレンを見たユーリだったが、すぐに制服の集団に顔を向け、『面白い』箇所とやらを一つ一つフレンに説明し始めた。


シャツの襟の形が違う。
ブレザーの丈や、ズボンの裾の長さも皆バラバラ。女子生徒のスカートの丈は言わずもがな、ソックスも恐らくは自由。シューズも指定がなさそうだ。

「どこの学校か知らねえけど、なんか気楽な感じしていいじゃん」

楽しげに話すユーリを横目に、フレンは少し考えてみた。

自分の視力では、ここから彼らの服装の細かなところまで見ることはできない。だが、それ程激しく着崩しているようには見えないので、本当に些細な違いなのかもしれない。

「…靴なんかは好きなのを履いて来てるだけじゃないのか?普段は学校指定のものがあると思うよ」

「ん?あの制服、どこの学校だか知ってんのか」

「君だって毎日見てると思うんだけどな…」

フレンが学校名や学力のレベル、校風などを説明してやると、ユーリが興味ありげに瞳を輝かせた。

「へえ、やっぱ何か面白そうな感じするな。行くならあの高校かも」

「意外だな…結構レベル高いところだよ?確かに人気の高校ではあるけど」

「…さりげなくオレをバカにしてねえか。オレじゃ受かる訳ねーってか」

「そんな事言ってないよ、ユーリならちゃんと勉強すれば大丈夫」

「どうだか…まあ、家から近いってのもいいな。オレ、電車通学とかしたくねえしなー」

「そんな理由なのか…」

はぁ、と息を吐いて項垂れたフレンにユーリが膨れっ面を向けた。

「何だよ、今から高校どこにするかなんて考えてねえし…って、おまえは考えてそうだよな…」

「…何でそんな嫌そうな顔するの…」

「別に。で、どうなんだ?そういう事、もう考えてたりすんのか」

「まあ、一応は。さっきのところも、候補として考えてる」

「ふうん……」

「ユーリ?」

「なあ、どうしても、ってんじゃなけりゃ、さっきんとこにしとけよ」


フレンは驚いて目を丸くした。

幼稚園からずっと一緒の幼馴染みであるユーリと、出来ればこの先も共にいたいと思っていた。それでも高校が別になるかもしれないとは考えていたし、そうでなくとも普段、ユーリのほうから何かを積極的にフレンに誘い掛ける事はそう多くなかったからだ。

「さっきの…」

「候補に入ってんだろ?オレもなんか興味出て来たし、どうせなら一緒に行こうぜ!」

にこにこしながら言うユーリに、フレンも笑って答えた。

「ユーリ…。うん、そうだね。そうなったらいいな」

「成績がヤバそうだって言うなら、そん時はしっかり教えてくれよ」

「何だいそれ。僕、君の家庭教師?」

「授業料なんか払えねえけどな」

「またそんな…」


そこまで話した時、クラスメイトが休憩の終わりと交替を告げに来た。
寄り掛かっていた校舎の壁から離れ、やれやれと面倒臭さそうに持ち場へと戻るユーリの後に付いて歩きながら、フレンはこの時既に進路希望校を今しがたまで話題にしていた学校一択に絞っていた。







「…覚えてくれてたんだと思ったのに」

普段より、幾分低い声でフレンがぼそりと呟く。

「は?何が?」

「思い出しもしないのか…」

「だから、何をだよ」

「…いいけどね、別に」

「だから何なのかって聞いてんだろ!?」

「何でもないよ。それよりユーリ、僕と同じところを受けて合格する気なら、これからは毎日死ぬ気で勉強してもらうからね!!」

「へ、あ、ああ…って、同じところ?おまえもあの学校受けるのか?」


ぷつん、と何かが切れた音を聞くと同時に、とうとうフレンはユーリを怒鳴り付けていた。


「……いい加減、思い出してくれ!!」



ユーリはただただ呆気に取られ、激昂するフレンを凝視していたのだった。
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