「こみべや。」、kmさまへの捧げ物第二弾。
『あ・ま・の・じゃ・く』の対でフレンバージョン、学パロでフレ♀ユリです。
どうして一緒にいられないんだろう。
もう、何度そう思ったかわからない。でも、仕方ないんだ。
本当は、もっと一緒にいたい。隣にいて欲しい。
そう思ってるのが僕だけじゃないと知っていたんだ。
傍にいたいよ、ユーリ…
僕が幼馴染みと一緒にいられなくなったのは、いつのことだっただろう。
幼稚園ぐらいの頃かな。
家が隣同士だったから、いつも二人で遊んでいた。
ユーリはとても活発で、イタズラ好きで、ユーリが何かする度に僕も一緒に怒られたりして。僕はちゃんとユーリを止めたのに怒られるのが少しだけ不満だったけど、次の日にはそんなことは忘れてまた二人で遊びに行く、そんな毎日だった。
僕らは二人とも両親が共働きで、誰もいない日にはどちらかの家に泊まりに行く事もよくあった。
…勘違いしないでくれ、幼稚園の頃の話だからね。
ご飯を食べて、一緒にお風呂に入って…だから、幼稚園の頃だってば!い、今そんな事出来るわけないだろ!?
夜も布団を並べて一緒に寝たっけ。冬になるとユーリはいつも僕の布団に潜り込んで来て、『フレンはあったかいなー』なんて言って抱きついて来て…。顔を擦り寄せるユーリはまるで子猫みたいで、とても可愛らしかった。僕もユーリを抱きしめて、暖かくて気持ち良くて…いつの間にか眠ってしまっていた。
朝、起こしに来た母親からは『二人は仲良しさんね』といつも言われてたな。
本当に、僕らは仲が良かった。ずっと一緒だと信じてたんだ。…あの日までは。
卒園間近になって、初めてユーリと一緒にいられなくなると知った。僕らは同い年だけど、僕が早生まれだから本当は別の組の筈だった。子供が少なかったからみんな一緒に過ごしていたんだなんて、わかる訳がない。
卒園式の日、ユーリは僕の手を握って離さなかった。嫌だと言って泣くユーリを見ていたら僕も我慢できなくなって、二人で大泣きして周りの大人を困らせたっけ…。
だから、泣いているユーリの手を握り返して、無理矢理笑って、こう言ったんだ。
『ちょっと離れちゃうけど、でもずっといっしょだよ』
…って。
泣きながら頷いたユーリの、不安そうな顔が今も忘れられない。でも、この時の気持ちは嘘じゃなかった。例え学年が違っても、家は隣同士なんだ。僕は学校が終わったら飛んで帰って、ユーリと過ごす日々が続いていた。
だけど、ユーリは女の子だから。
ユーリが僕と同じ小学校に入学して、初めのうちは良かった。
でも、一つ、また一つとそれぞれの学年が上がるにつれ、以前のように泊まって一緒にお風呂に入ったり、寝たりするのを親に咎められるようになった。
…もっと言えば、互いの家にすら行かなくなっていった。
僕もユーリも、それぞれに友人が出来たというのはある。僕が部活を始めてからは一緒に登校する事もなくなって、ますますユーリと会う機会が減ってしまった。
僕は、強くなりたかったんだ。好きな子を守りたいと、だから強くなりたいと思うのは当たり前だろう?
剣道でどれ程か、って言われると微妙なんだけど…まあ、子供の考える事なんてそんなものだ。
始めてみたら楽しかったし、自分に合ってたのかもしれない。部活を通じて他のクラスにも友人が出来て、その、男同士の話題というか…そういう話もするようになって…。そこにユーリを入れる訳にいかないじゃないか。ましてや、何の話をしてるかなんて言える筈ない。
それなのにしつこく聞いてくるユーリが、ほんの少しだけ疎ましかった。
ユーリが中学に上がる頃には、その思いがだんだんと強くなっていた。
ユーリ自身は気付いてないけど、ユーリは近所でも評判の美少女になっていて、ユーリが僕と幼馴染みだと知ったクラスメイト達からはからかわれたりやっかまれたり、大変だった。
それなのにユーリは昔と全然変わらずに、学校では大きな声で名前を呼ぶし、遠慮なしに一学年上の僕のクラスに入って来て『一緒に弁当食おうぜ!』って僕を引っ張り出そうとするし…。少しは僕の気持ちも考えて欲しい。
それに、周りの女の子はユーリをあまり良く思ってないみたいだったから、心配だったんだ。
だから必要以上に目立って欲しくなくて、男の子みたいな言葉遣いとかやたらボタンを外してシャツを着るのをやめてくれ、って何度も言った。
…はだけた胸元を見るのが辛かったのもある。僕は、子供の頃からずっとユーリが好きだったんだ。成長するにつれて純粋なだけではなくなる想いを堪えるのに必死だったっていうのに…。
子供だったんだ。からかわれて恥ずかしいという気持ちのほうが先に立って、素直になれなかった。
三年になって高校受験を控えた僕は、有り得ないぐらい毎日苛々していた。
受験勉強も大変だったけど、女の子に呼び出されて告白されることが急に増えて、『なんでこの時期に』という思いと、『これがユーリだったら』と思ってしまう自分に対して。
自分からユーリに告白する勇気もなかったくせに、勝手すぎて笑えるよ。僕に告白してくれた女の子達のほうがよっぽど勇気があると思う。
こんな事、ユーリにも相手の女の子にも失礼すぎて言えるわけない。ユーリの顔を見ることも出来なくなって、この頃の僕はとにかくユーリを避けていた。
嫌われたくないから、『会いにくるな』なんて言えない。でも、ユーリに名前を呼ばれるのが苦しい。なんて女々しいんだ、僕は。
…あの日もそうだった。
他のクラスの女の子に呼び出されて、お決まりの言葉を告げられて…正直、内容なんて殆ど覚えてない。
だって、何を言われようが僕の答えは一つしかないんだから。
途中から、ユーリが僕達を見ているのに気付いた。何故だかわからないけど、背中に感じる視線の持ち主がユーリだ、と思ったんだ。
気が付くと、目の前の女の子が泣いていた。
いつ、何て言って断ったのか覚えてない。
…断ったのだけは確かだった。
走り去るその子をぼんやりと見送って、振り返ったらやっぱりユーリがいた。
『いつまで見てるの?悪趣味だな』
ユーリの瞳が細くなった。あんな言い方するつもりじゃなかったけど、苛々が頂点に達していたんだ。
色々なことが重なって、冷静でいられなかった。ユーリと話すの、本当に久しぶりだったのに。
『なんで振ったの?勿体ないなあ』
皮肉っぽく笑うユーリに、何が勿体ないのかと聞き返した。可愛かったじゃん、と軽く言うユーリに、つい僕も口調がきつくなる。顔なんかどうだっていい。
『好きでもないのに付き合えないよ』
答えなんてこれしかないだろう。ところが、ユーリはこう言った。
『そんなのわかんないだろ?付き合ってみないと』
…意味がわからなかった。
付き合ってみろ、っていうのか?僕に?ろくに話したこともない、好きでもない子と?
思わず拳を握り締めたのを、ユーリは気付かなかっただろう。
付き合えないと言ってるのに、ユーリはなおもしつこく、なんで付き合えないのかと聞いてきた。なんで、って、こっちが聞きたい。どうしてそんなこと言うんだ。
想いを伝えたわけじゃない。でも、ユーリは僕の事を何とも思ってない…?今までの態度は、全部ただの幼馴染みとしてのもの?
そう思ったら無性に悔しくて、僕を見て首を傾げているユーリに、こう言っていた。
『他に、好きな人がいる』
ユーリが大きく瞳を見開いていた。そんなに驚くのは、やっぱり自分がそう思われてるなんて、これっぽっちも思ってないからなのか。
…もう、その場にいたくなかった。
早足でユーリの横を通り過ぎようとして、ふと足を止めた。ユーリにその気がないなら、もう『誤解』されるような態度を取って欲しくなかったから。
ユーリ、と呼ぶ声が低くなるのが自分でもわかった。ユーリも驚いたのか、どこか間の抜けた返事を返した気がする。
『学校では呼び捨てにしないで欲しい』
そう言ったら、またユーリは『なんで』と聞き返した。
『君が大声で僕の名前を呼び捨てにする度、友達に冷やかされるのが嫌なんだ』
吐き捨てるように言ってユーリを見ると、一瞬だけ酷く傷付いたような表情を見せた。…気のせい、かな。
『だったらどうしろっての?シーフォさん、とでも呼べってか』
舌を噛みそうだと零すユーリに、更に苛立ちが募る。どうしてこんなにも苛々するのかわからなくて、一言だけ、こう伝えた。
『…先輩』
『は……はあ?』
余計長くなる、と文句を言うユーリに、先輩だけでいい、と言って、僕はユーリを残して逃げるようにその場を後にしていた。
僕がずっと抱いて来た想いは、本当に少しも伝わってなかったんだろうか。
呆然と立ち尽くしていたユーリは、あの時何を思っていたんだろう。
同じ学年だったらよかった。
僕の知らないところでユーリが何をしているか気になって仕方ないくせに、周りの目を気にしている自分が情けなくて、悔しくて。
あれからしばらく経ったけど、本当にユーリは僕のことを『先輩』としか呼んでくれなくなった。学校では、って言ったのに、学校の外で会ってもユーリは絶対に僕を名前で呼ばなかった。
…ねえユーリ、僕はもうすぐ卒業するんだ。そうしたら、また一年間離れ離れになる。
いや、ユーリが僕と同じ高校に来るかどうかもわからない。ユーリが僕の教室に来てくれることもなくなって、外で会っても他人行儀で会話にならない。
…ねえ、ユーリ。
今、僕はとても後悔してるんだ。つまらない意地を張って、君を遠ざけてしまった。もう二度と、昔のように話すことはできないのか?
君に想いを伝えて、もし否定されたらと思うと言えなかったんだ。
もう一度、名前を呼んで欲しい。呼ぶなと言ったのは自分なのに、今ではどうしてあんなことを言ったのか本当にわからない。
このままじゃ、おかしくなりそうだよ。
次に『先輩』と言われたら、もう無理かもしれない。
今から、君に会いに行く。
素直に謝るよ。それで、ちゃんと想いを伝えるから。
待ってて、ユーリ
ーーーーー
終わり