続きです。裏ですので閲覧にはご注意下さい。








想像以上の破壊力に、いきなりやられてしまった。
ユーリの姿を見付けたフレンは、思わず足を止める。

フレンが神社に着いた時、意外にもユーリのほうが先に来て待っていた。テスト期間中という事もあっていつもより早く帰宅はできるのだが、家が学校から近いフレンと違い、ユーリは電車で往復一時間ほどかかる場所に住んでいる。
諸々の準備を済ませてから神社で待ち合わせ、ということにしていたのだが、約束の時間より早くユーリが来ていることは珍しい。

しかし今はそんな事より、神社の入り口の石段脇にある木に寄り掛かって自分を待っているのであろう、ユーリの姿から目が離せなかった。

濃紺のシンプルな浴衣姿で佇む彼は、髪をいつも学校でしているような感じでアップにしている。ゆったりとした肩口からは滑らかな首筋のラインがよく見え、その下でくっきりと浮かび上がる鎖骨が何とも言えず、艶っぽい。
少し緩めの前合わせから覗く胸元は、濃紺の生地との対比でいつも以上に白さを際立たせており、きっちりと結ばれた帯がまた、ユーリの腰の細さを否が応でも強調していた。

そんなユーリの姿は、背の高さも相俟って遠目にもよく目立つ。片腕を浴衣の合わせに差し入れ、気怠げに木に寄り掛かる彼は何とも言い難い色香を漂わせており、間違いなく通りがかる人々の視線を浴びていた。


ああ、今前を通った女の子達、振り返ってユーリを見てる。団扇で口元が隠れてるけど、絶対にユーリのことを話してるに違いない。

石段を登る奴ら、足が止まってる。上からユーリの肩のあたり、覗いてるんだ。ふざけるな、ユーリをそんな目で見るなんて許さない。どうせナンパ目的なんだから、さっさと他の女の子にでも声を掛けに行けばいいじゃないか。
まさかユーリに声を掛けるつもりでもあるまいし……!


そんな事を考えていたら居てもたってもいられなくなり、フレンが一歩足を踏み出したその時、信じられないことが起こった。

石段を登りかけていた三人組の男が、くるりと向きを変えて石段を降りてユーリに近付き、何事か話し掛けているのだ。
二人は石段を背にしてユーリの前に立ち、一人はユーリが寄り掛かる木に手をついて横から顔を覗き込むような格好だ。目線は若干、ユーリより低い。
因縁をつけている、という類でない事はフレンにはすぐ分かった。何故なら、あの男達がユーリを見る目に、自分と同じものを感じ取ってしまったから。


ユーリが言うほど、フレンは自分達の関係を意識していないわけではない。少数派だという事も自覚している。
それでも、確かにユーリは男女問わず、人を惹き付ける。だがさすがに、こうも堂々とナンパしてくる男はそうはいない。それだけに危険なものを感じて、フレンはユーリの元に駆け出した。



「ユーリ、ごめん。待たせたみたいだね」

「あ、フレン、やっと…」

迷惑そうに男達の相手をしていたユーリは、フレンに笑顔を見せたのも束の間、すぐに表情を曇らせた。
男達も何か感じたのか、そそくさと離れる。

「ほらユーリ、行こう」

「あ、ああ。…悪ぃな、連れが来たから。んじゃ」

男達にわざわざ詫びるユーリの態度に、胸の奥深くが苦しくなる。気が付けばフレンはユーリの腕を取り、無理矢理引いて石段の裏手にある竹薮へと分け入っていた。






「おいフレン!痛いって…!ちょっと、離せよ!!」

フレンに掴まれた腕と、背丈以上の高さがある笹の葉があちこちに触れて痛い。ユーリが声を上げるとフレンは漸く立ち止まり、すぐさま掴んだ腕を引いてユーリを胸元に抱き寄せた。
そのまま強く抱き締めると、ユーリがくぐもった呻き声を上げる。
目の前の白い肩に唇を付けると、一瞬その肩がびくん、と上下した。


「あ、やっ…!やめろって!おまえまた、こんなとこで……!!」

「こんなとこで…何?」

顔を離して見つめると、ユーリの瞳が困惑したように揺れ動く。

「な、何って。その」

「変なこと、期待したんだ?」

「な……!!」

顔を赤くして口をぱくぱくとさせるユーリを見ていると、どうしようもなく加虐心を煽られる。堪らなくなって、その唇に吸い付いた。
いつもそうだ。ユーリは外でするのを嫌がるが、この反応のせいでフレンのほうは余計に身体が熱くなって、結局止められない。変態と言われてもどうしようもない。
そうさせるのはユーリなのだ。

「んんっ……ふぅ、ン…!」

「っ…ふ、ユーリ…」

「こ…のッ、何すんだよいきなり…!!」

唇を解放されたユーリがフレンを睨み付ける。強く抱き締められたままで身動き出来ず、目だけで抗議するその表情に、フレンはさらに身体が熱くなるのを感じた。その熱は確実にある一点に集中し、じりじりともどかしくフレンを苛んでいった。

「フレン!何とか言…」

「…男にまでナンパされるんだね、ユーリは」

「は!?いやあれは…」

「ナンパされてたんだろう?」

「う…まあ…そうなのかもな。あんま考えたくねえけど」

「どうして?僕もユーリのこんな姿見たら、我慢できない。…ほら」

「…………!!」

強く腰を押し当てると、ユーリは一瞬軽く息を呑んだ。

「や…ちょっと、待てって…!!」

「あいつら、ずっとユーリを見てた。…きっと、僕と同じなんだ。ユーリのこと、そういう目で見てた」

傍らの木にユーリの身体を押し付け、再び唇と唇を合わせる。舌を入れて口内を暴きながら胸元に手を這わせ、その肌を確かめるようにゆっくりと撫でると、固く閉じられていた瞳が見開かれ、柳眉が切な気に歪んだ。

「そんな顔…僕以外に見せたら許さない」

「おまっ…!何なんだよ……!?」

「君を見ていいのは、僕だけだよね…?」

抱き締めていた腕を解いて両手で優しく頬を撫でるフレンがひどく辛そうで、ユーリはまだ少し混乱しながらもその手に自分の掌を重ねた。

「全く…嫉妬の仕方が激しすぎんだよ、おまえは」

「だって、あんな奴らにまで謝ってやる必要、ないじゃないか」

「面倒事にしないためだろ?…おかげで別の面倒引き起こしちまったみてえだけど」

「悪いけど…我慢、出来ない」

今までだって我慢なんかした事ねえだろ、と思いつつ、仕方ねえな、と言ってユーリはフレンの背中に腕を回した。

「浴衣、汚すなよ。借りもんなんだからな」

「…努力はするよ」

屋台巡りしたかったのになあ、と思いながら、ユーリはフレンの唇を受け入れてゆっくり目を閉じた。











「あッ、ああッ!!…っン、く…ぅ、んン……ッッ!!」

「ユーリ…あんまり、声っ…、出したら、見付かっちゃう…よ……?」

言いながらわざと奥の深い部分を突くと、目の前の白い背中を大きく反らしつつもユーリが自分の肩越しにフレンに恨めしそうな視線を送る。
その表情が堪らなくて、更に抽挿が激しさを増した。

「やぁ…ッ!ン、そんっ…な、奥っ……!?っは、無理だっ…て……あァッ!!」

木の幹に両肘をついて身体を支え、腰をしっかりとフレンに抱えられて後ろから激しく責め立てられ、その度にユーリは喉を反らして声を上げた。
肉のぶつかる渇いた音と、それとは対称的な結合部分からの水音、自分自身の喘ぎ声。
誰に見られるかという緊張感は余計に神経を鋭敏にさせ、聞きたくもない卑猥な音や甘ったるい声をしっかりと捉えてしまい、またそれによって更に昂ぶる自分自身が信じられなかった。

既にもう、身体を支えているのも辛い。触れてもいないのに限界まで張り詰めている下半身の蟠りを、早く解放して欲しい。
腰を押し付けて誘うように揺らすと一瞬だけフレンの動きが止まり、すぐに速さを増した突き上げに危うく意識が飛びそうになった。

「アぁッッ!やあッン!あッ!あッッ!!」

「ぅ…く、ユーリ、なんかすごい…締まる…ッ!」

「や…っ!言うな…ッッあ!!」

フレンの右手がユーリの性器を握り込み、待ち侘びた直接的な快感に背筋にぞくぞくとした震えが走った。

「また、締まった…ユーリ、気持ちいい…?」

「あぁァ!ッくうッッ!!やぁッ、も、出…るぅ…ッ!!」

「んっ…ふ…!僕、も……!!」

「やッッ!?ナカ…はッ、ダメ……だって、っああぁッッ!!」

「あっ…くう!もッ…イく……ぅ!!」

「アあぁッッ!?あァッ!!アんぅ…ーーーッッ!!」

内側に注がれる熱い感覚と、フレンの手による刺激で達したユーリ自身から放たれた白濁が木の幹を汚した瞬間、既に限界ギリギリだったユーリの腕は完全に力を失くして垂れ下がった。
支えを失ったユーリを後ろから抱き止めたフレンが心配そうに何か耳元で言っていたがよく聞きとれず、ユーリはそこで意識を手放してしまった。










目が覚めた時、ユーリはフレンの胸に抱かれて地面に座り込んでいる状態だった。
乱れた浴衣は綺麗に直されており、腰は重いが後ろに違和感はない。気絶している間に処理をされたのかと思うと堪らなく恥ずかしかったが、とりあえず怠くてそのままフレンの胸に身体を預けていた。


「…ユーリ、大丈夫?」

「ん…まあ何とか…」

「今日のユーリ、すごくいやらしかった。…外でして、興奮した?」

「ばっ…!違っ!!興奮じゃなくて、緊張してたから……っ!」

「ふふ…可愛い」

「くっ………!!」

背後から抱き締めて首筋にキスをするフレンから身を捩るが、抵抗はそこで止めた。
いつもより感じてしまったのは事実なのだ。

(…やべーオレ、なんかどんどんこいつに開発されてる気がする…)

外でするのは嫌なのに、途中から声を抑える事も忘れていた。知り合いに見られてはいないかと考えたら、今更ながらに背筋に冷たい汗が流れた気がする。

思考がだいぶはっきりしてきて、ユーリは本来の目的を思い出した。


「…フレン。おまえ、短冊ちゃんと持って来たのか?」

「持って来たけど…まだもう少し休んでからでいいよ、人も多いし」

「とりあえずオレのやつよこせよ」

「ああ…、はい」

フレンが浴衣の袂から取り出して渡した短冊を見て、ユーリは苦笑した。昨日フレンの部屋で書いた、携帯ほしい、というやつだ。

「…何笑ってるんだ。自分で書いたんだろう」

「まあそうなんだけどな」

受け取った短冊を自分の袂に突っ込んだユーリだったが、フレンが自分の顔をじっと覗き込んでいるのに気付いて身体をずらし、フレンのほうに顔を向けた。

「何だ?」

「…ねえユーリ、短冊、取り替えっこしないか?」

「…は?」

「お互いが、相手の短冊を結ぶっていうのはどう?自分じゃなくて、相手の願い事が叶いますように、って」

「は…い、嫌だよ!何だその、恥ずかしい発想……!!」

顔を真っ赤にして慌てるユーリだが、フレンは至って余裕の様子だ。

「恥ずかしい?どうして?だってもう、お互いの願い事の中身なんて知ってるじゃないか」

「う…、それはそう、だけど」

「なら別にいいだろう?…じゃあはい、僕の短冊」

フレンから手渡された短冊を見て、ユーリの瞳が思い切り見開かれる。相当驚いているようだ。それを見たフレンは嬉しそうに微笑んでいる。

「おまえ、これ…」

「それが僕の願い事。ユーリの短冊、くれないか?」

「………仕方ねーな…」

「…あれ?」

先程の短冊をしまったのとは反対の袂に手を突っ込んで、ユーリがもう一枚短冊を取り出し、フレンの胸に乱暴に押し付けた。
そのままそっぽを向いてしまったユーリを不審に思いつつ、短冊を読んだフレンは盛大に顔を綻ばすと思い切りユーリを抱き締めていた。


「ちょっ……!苦し…!!」

「なんだ…。もう、叶っちゃったな、願い事」

「うるせ………!!」


それぞれの短冊に書かれていたのは、昨日とは違う、本当の気持ちだった。




好きな人と、ずっと一緒にいられますように


ずっと、あいつのそばにいたい





「…年に一度じゃなくて、ずっと一緒にいようね」

「……おう」


飾る必要のなくなった短冊を、二人はずっと握り締めていた。



ーーーーー
終わり
▼追記