5/29拍手コメよりリクエスト、「シリアス」「パロ」「フレユリ」+αで、現パロ♀ユーリです。
+αについては追記にて。







君が他の男に笑い掛けるのが耐えられない。

君が僕の視界にいないと落ち着かない。


……君を手に入れたいんだ








幼い頃は、何をするにも一緒だった。
家は隣同士、互いの親の仲もいい。
いつの間にか自然と寄り添うようになり、二人でいるのが当たり前になった。

さらさらの黒髪と大きな黒紫色の瞳をしたその子はとても可愛いのに、まるで男の子みたいな話し方と、男の子顔負けの活発さで時に周囲を驚かせた。
…実際、自分と同じ男の子だと思っていた。


成長するにつれて丸みを帯びてくる身体つきや、ふとした仕種に「女」を感じるようになったその時から、僕にとって彼女はただの幼なじみではなくなった。

いつしか彼女に触れて、すべてを知りたいと思うようになっていた。
それはすぐに直接的な欲望へと変化して、知るだけで満たされるものではなくなっていく。

手を伸ばせば容易く捕まえられるのにそれをしなかったのは、彼女を失いたくないと思う最後の理性のおかげだった。




彼女は何事にも奔放だった。
裏表のないさばさばとした性格は同性からも異性からも慕われ、その上容姿が整っているとなれば人気が出ないわけがない。
彼女に好意を伝える男が現れる度、そしてその事を彼女から相談される度に、僕は相手の男を殴ってやりたい衝動を抑えるのに必死だった。
それでも彼女のために、相談には真摯に応えていた。彼女は僕の話をちゃんと聞いて、その上で判断してくれた。

そうして彼女が自分以外の男と付き合うのを、何度見て来た事だろう。
彼女にとって、僕はただの幼なじみで、良き友人でしかない。
結局どの男とも続かない彼女を諌めながらも、僕は彼女に隠れて安堵のため息を漏らす。その繰り返しだった。

高校を卒業し、彼女は就職した。僕は大学に進学して、お互い会う機会は少なくなった。
それでも僕らは隣同士、幼なじみのまま。よく顔を合わせたし、話すことがなくなったわけじゃない。

ただひとつだけ変わった事があるとすれば、彼女から異性の相談を受けなくなった事だった。単にそういった相手がいないから、という話ではないということに、僕は気付いていなかった。
卒業してから、二年が過ぎていた。











「なあフレン、今度の日曜、ヒマ?」

たまたま帰宅時に家の前で鉢合わせたユーリは、しばらく取り留めのない話をした後そう言った。

「特に用事はないけど…どうかした?」

「えーと…ちょっと、デートしない?」

「………なんだって?」

上目遣いでこちらを窺うユーリを見下ろして、僕は何も言えないでいた。
こんな事を言われたのは初めてだ。

「だから、デート。嫌ならいいけど」

「デートって…男女でする、あのデート?」

「他に何があるんだよ。…やっぱ、こんなのが相手じゃ嫌?」

長年想い続けた女性にこんなふうに誘われて、嫌どころか嬉しいに決まっている。
なのに素直に喜べないのは、あまりに突然で、そして目の前の彼女がどこか思い詰めたような表情をしているからだった。

「フレン…?」

「嫌なんかじゃない、嬉しいよ。でもどうしたんだ、いきなり」

「別に……よく考えたらおまえと二人でどっか行ったりした事ないなあ、って思って。おまえとなら、楽しそうだし」

目を伏せてもごもごと話す姿があまりに可愛いらしくて、危うくそのまま彼女を抱き締めそうになるのをぐっと我慢した。

「僕だって、ユーリと一緒ならどこに行っても楽しいと思うよ」

「…ほんとに?」

「ああ。行きたいところとか、ある?」

「んー…当日までに考えとく」

「そうか。じゃあ、前日には連絡するから。それでいいかな」

「ん。…フレン」

「何?」

「ありがとな」

それだけ言うとユーリは自宅に入って行った。
急にデートだなんて言い出した意味はよくわからなかったが、それでも僕はとても嬉しかった。

ユーリは過去に何人かの男性と付き合ってはいるが、彼女なりにちゃんと考えて相手に返事をした上でのことだ。僕から見ても、変なやつはいなかった。
だからこそ歯痒い思いをしたものだが、そのユーリが僕を誘ってくれたというなら、少しは期待してもいいんだろうか。
そう思ったらもう日曜のデートのことしか考えられなくなってしまい、翌日からは授業の内容など全く頭に入らなかった。









あの後、デート当日までユーリと出会う事はなかった。
約束通り前日に電話をして予定を聞いてみたが、結局、特に行きたい場所があるということでもなかったので、だったら最近出来たばかりのショッピングモールに行こう、という事になった。



そして当日。
自宅の玄関先に現れたユーリの姿を、僕は呼吸すら忘れてただ見つめていた。

控え目なフリルで飾られた清楚な白いロングブラウスに淡いベージュのストールを羽織り、やはり淡いグレーで重ねられたロングスカートがふわふわと揺れている。

今まで、こんな服装の彼女を見た事はなかった。

ハーフアップで結われた髪型も、耳元で揺れる小さなイヤリングも、何もかも全て初めて見る。

固まったままの僕を見て、ユーリが不安そうに眉を寄せた。
薄く化粧もしているのか、いつもより艶のある薄い桜色の唇が小さく開いた。


「あの、さ。…やっぱ似合わない?」

「あ、いや…そんなこと、ない」

上手く言葉が出てこなくてそれだけしか言えずにいると、ユーリは悲しげに目を伏せてしまった。

「…似合わないんだな。まあ、そうだよな…」

僕は慌ててその言葉を否定する。

「違う、似合ってる!その…驚いたんだ、あんまり…可愛いから」

「え…」

「本当だよ、とても似合ってる。…初めて見るな、君のそんな格好」

「そ、そうだっけ?…フレンがそう言ってくれるなら、大丈夫だよな…」

「え、何が?」

「何でもないよ。早く行こうぜ」

とても可愛らしい姿のくせに相変わらず口の悪いユーリに手を引かれ、僕は自宅を後にした。












ショッピングモールに着いてからのユーリの様子は、その服装と同じく僕が今まで知っている彼女の姿とは掛け離れたものだった。

そもそもユーリは、あまりお洒落に気を配るほうではない。
ましてやこのような可愛らしい、しかもスカート姿なんて見た記憶がなかった。高校の制服ぐらいじゃないだろうか。

長い黒髪はとても綺麗だけど、暑いとか邪魔といった理由で一つに結んでいるところしか知らないし、アクセサリーや化粧にも興味なさそうだったのに、何故。
今日のためにお洒落をしてくれたなら嬉しいが、それにしては様子が変だった。


「なあ、こういうのどう思う?」

アクセサリーを取り扱う店でユーリが僕に見せたのは、桜の花を摸した小さな石がついたピアスだった。
淡いピンクが、今日のユーリの唇と同じ色だ。
ユーリはこういう色が好きだっただろうか…?

「フレン?」

「ああ、可愛いと思うよ」

「…似合うかな」

「君に?…君は肌が白いから、似合うんじゃないかな」

僕の言葉に、ユーリが驚いたように目を見開く。

「ユーリ?僕、何か変なこと言った?」

「え、いや…」

ユーリは慌てて僕から目を逸らし、手元のピアスをじっと見つめている。
買おうかどうか、迷っているんだろうか。

「でもな…穴開けんのはな…」

「そういえばユーリ、ピアスはしてないよね」

「んー、やっぱ痛そうでさあ」

「だったらイヤリングのほうにする?似たようなものもあるみたいだけど」

しかしユーリは相変わらずピアスを手放そうとしない。

「そんなにこれが気に入った?」

「ん…そう、だな…」

「だったらピアスを開けるかどうかはまた考えるとして、それは買ったらいいんじゃないか?次に買おうと思った時に、まだあるとは限らないよ」

「そっか…そうだよな。うん、そうする。サンキュー、フレン」

「…何だったら、僕がプレゼントしようか、それ」

「は?何で?」

本当に不思議そうなユーリの様子に、胸の奥がちり、と痛む。
僕は、『デート』の相手なんじゃないのか?
その相手からプレゼントされると言われても、ユーリは何も感じないんだろうか。

「何で、って言われても。デートの相手に何か買ってあげるのがそんなに不思議な事かな」

「え!?あ、いや、そうだよな。でもいいよ、これぐらい自分で買うから」

そう言うとレジへ行ってしまったユーリの姿を目で追いつつ、僕は今ひとつ釈然としない思いだった。


その後も何軒かのショップを覗いて歩いたが、どこに行ってもユーリが手に取るのは今までの彼女からは想像できないようなものばかりだった。

唯一僕の知る彼女を見る事が出来たのは、この街に初めて出店したというスイーツショップで、幸せそうにクレープを食べる姿だけだ。
ユーリは子供の頃から甘いものが好きだった。





モールのショップを一通り回った頃には既に夕方で、 辺りに家族連れの姿が増えていた。フードコートで食事をするか、モール内の大型スーパーで買い物をするといったところだろう。

「ユーリ、晩御飯どうする?ここで何か食べて帰るか?」

「んー、まだそこまで腹減ってな………」

「ユーリ?」

ユーリは僕の後ろを見たまま動かない。何かあるのかと振り返った時、大柄な男性と目が合った。
その男性はこちらを見ると、真っすぐ近付いて来る。僕の知り合いではない。

「ユーリ、知ってる人?」

「え、あ…」

やがて目の前まで来たその男性は、人懐っこい笑みを浮かべてユーリに声をかけた。

「ようユーリ、こんなとこで会うなんてな。世間は狭いなぁ」

「……」

何故か黙り込むユーリに構わず、男性はことさら明るく話し続ける。

「なんだぁ?随分とめかし込んでるじゃねえか。デートか?」

「…まあ…」

「じゃあ、こっちの格好いいのが彼氏か。おまえ、なんて名前だ?」

「え」

初対面の男性にいきなり名前を尋ねられて詰まる僕の隣で、ユーリが小さく呟いた。

「…ちがう」

「あん?なんか言ったか?」

「ユーリ、どうしたの?」


次の瞬間、ユーリが叫んだ。



「違う!!こいつは別に、彼氏なんかじゃない!!」



…僕は、全身の血液が一気に冷えたような感覚に陥っていた。




ーーーーー
続く
▼追記