フレユリ学パロです
「なぁ」
「………」
「なぁってば」
「……………」
放課後の生徒会室。
黙々とシャーペンを走らせるフレンと、椅子をガタガタと揺らしながらフレンに話し掛けるユーリ。
二人の攻防は、既に第三ラウンドに突入していた。
「無視すんな!」
「いい加減にしてくれ!!」
力が入った拍子に折れたシャーペンの芯が飛んで来たのを軽く避け、ユーリが机に頬杖をつく。
「いい加減にって、そりゃこっちのセリフだよ。まだ終わんねーのか、その書類」
「ユーリが邪魔ばかりするからだろ………!?」
フレンは今日、来期の各部活動の希望予算と実際に支給できる金額とのすり合わせを行っていた。
資料を確認しながらそこそこ細かい計算が必要になる作業だというのに、先程からユーリがちょっかいを出してくるために一向に進まない。
「だってもう一時間以上待ってんだぜ?ヒマ潰しのネタも尽きたんだよ」
「だから先に帰っていいって言ったじゃないか!こっちは君の『ヒマ潰し』のせいで余計な時間がかかってるっていうのに…」
授業の後、当然のようにフレンと一緒に帰ろうとしたユーリだったが、生徒会の仕事があるから、と断られた。
その申し訳なさそうな表情から、フレンも一緒に帰りたいと思っているのはすぐに分かる。
今までも度々フレンを待つために生徒会室に行っていたし、別にそれは苦にならない。
終わるまで待つから、と言って後をついてくるユーリに、フレンは複雑な表情を見せた。
今日の作業には時間がかかるであろうことが分かっていたからだ。
じっとしているのが苦手なユーリが、どこまで大人しく待てるのか。途中で飽きて悪さをしないか。
フレンは一抹の不安を感じずにはいられなかった。
果たして、その不安は現実のものとなってしまった。
ユーリは初め、携帯ゲーム機で遊んでいた。
面白いからやってみろ、とクラスメイトに押し付けられたらしいが、どうやらユーリの好みには合わなかったようだ。
適当にプレイしつつ、時折「なーこのトラップのパズルってどうやんの」とか「敵強すぎて進めねーんだけどどうすんの」とか話し掛けてくる上に、ゲームの音も気になる。
そもそも、ゲームの内容のことなどフレンには分からない。
静かにしてくれ、と言ったらユーリはゲームをやめてしまった。
そうしてしばらくはおとなしくフレンの作業を見守っていたユーリだったが、今度は何を思ったか椅子を持って来てフレンの後ろに座った。
椅子の前後を逆にして背中合わせで座るユーリの体温が感じられて、これがまた落ち着かない。
徐々に背中に体重がかかってきたので離れてくれ、と言ったら逆に背中から抱きつかれてしまった。
「おまえの背中ってなんか落ち着くなー」とか言いながら顔を擦り付けられて、フレンのほうはますます落ち着くはずもない。
結局逃げるように机の反対側、もともとはユーリがいたほうへ移動して、なるべく平静を装って作業を再開したのだった。
そして、第三ラウンド。
フレンに逃げられたユーリは憮然としながらもその場で大人しく座っていたが、やはりすぐに飽きて身体ごと椅子を前後に揺らしながら倒れるギリギリで戻る、という奇妙な動きを始めた。
まるで子供のようなその姿を可愛いとは思うものの、視界の端にちらちら映る影と、がたんごとんと響く音が気にならないわけがない。
だがもう何を言ってもユーリが大人しくしてくれるとは思えなかったので、フレンは無視を決め込むことにした。
早く帰りたいのは自分だって同じだ。せっかく待ってくれるのだったら、さっさと終わらせて一緒に軽く何か食べに行くぐらいしたい。
しかし、一人遊びに飽きたユーリがしきりに話し掛けてくるので、とうとう堪忍袋の緒が切れたのだった。
「とにかくこっちはまだかかりそうだし、大人しくできないなら今日はもう帰っていいから」
「……」
少し強く言うとユーリが押し黙る。
今日のユーリは何故か、いつにも増してフレンと離れ難く思っているように見えた。
自惚れじゃないよな、と思いながら、フレンは手を伸ばしてユーリの頬にそっと触れた。
「ごめん。でも今日はほんとにもう、待ってくれなくていい。…明日は大丈夫だと思うから、帰りにどこか行こうか?スイパラでも何でも付き合うよ」
「………わかったよ。でも…」
ユーリがフレンに向かって手を出す。
意味がわからず首を傾げるフレンに、さらにその掌を突き出してきた。
「…鍵」
「え?」
「おまえん家の鍵だよ。先に帰って待っててやるから、さっさと鍵、よこせ」
「…えーと。それはつまり」
「うるせえ!あんまり遅かったら寝るからな!その前に帰って来いよ!!」
照れて真っ赤になっているユーリの手に鍵を握らせるついでに引き寄せ、額に軽く口付ける。
そのまま引き倒してしまいたい衝動になんとか堪えた。
「そういう事なら先に言ってくれたらいいのに…」
「…言ったって変わんないだろ」
「変わるよ。モチベーションが上がってもっと頑張った」
「嘘つけ。ここで襲われるのがオチだ」
「僕はそれでもいいんだけど」
「オレは嫌なんだよ!…とりあえず、先帰る。じゃあな」
鞄を掴むと乱暴に扉を閉めて出て行ってしまった恋人の様子に、フレンは頬が緩みっぱなしだった。
ーーーーーー
続く