連日のように怪談話が寄せられて、夕方過ぎの事務局内は急におどろおどろしい雰囲気に包まれます。
響子嬢あたりはこの手の話を語るのが非常に上手で、ポイントポイントで間を持たせつつ、実に臨場感溢れる語り手です。
そして自分の知っている怪談話を披露しようと張り切る人が次々と名乗りをあげるのですが、ここに約一名、尋常ではない怖がりがいることを皆さんもご存知ですよね。

そう、伊織ちゃんです。
誰かがその手の話を始めると嫌だ、と叫びながら耳を塞いだりもするのですが、耳を塞いでいる限り仕事ははかどらないわけでして、そこは真面目な彼女のこと。
涙ぐみながらもできるだけ怪談話を意識しないように、耳に入れないように、といった風情で耳から手を離して仕事に戻っております。
しかしこの手の話というのは怖がりの人ほど聞き流せないものなのでしょうか。
結局しっかりきいてしまっているようです。


つい先日も誰かがエレベーターにまつわる怪談話をしておりました。
このブログを見ている方の中にも怪談が苦手な方がいるかもしれませんので詳細は語りません。
内容は怪談話にはありがちなものでしたが、確かに実際そのような場面に直面したらゾッとはするだろうな、という感じでしたね。
その話のおかげで伊織ちゃんの心にはエレベーターへの恐怖心がしっかり植え付けられたようでした。

その日の夜のことです。
仕事を終えてさて帰るか、とエレベーターに向かったところ、ちょうどよくドアの開いたエレベーターが見えました。
置いていかれないように小走り気味にエレベーターに駆け寄ってみると、中には何故か半泣き状態の伊織ちゃんがおりました。

「熊さぁん、、、」

情けなさそうな顔をする彼女は、確か私より五分ほど前に出て行っていたはずです。
幾らなんでもエレベーターを五分も待っていたということはないでしょう。
いったい彼女は何をしていたのだろう?
まさか一人でエレベーターに乗るのが怖くて誰かを待っていたとか?
そうも思いましたが、明かりのついたエレベーターの中よりも非常灯のみの点いた廊下の方がよほど怖かろうという気がするのです。
そんな私の疑問にこたえるように。

「エレベーターのドアが、ドアが閉まらないんですぅぅぅぅ、、、」

そんなバカな、と、エレベーターに乗り込んで伊織ちゃんの手元を見てみると。
確かに階数を押して、閉まるボタンを押しているのにドアは一向に閉まる気配がありません。

「閉まらないでしょ?
しかも、行き先階のランプも点かない、、、」

しかし、、、しかしだ、伊織ちゃん。
君が今押しているのは現在自分のいる階だ。
帰りたいのなら1(階)を押さなきゃダメじゃないのか?
どんなに5(階)を押したって、もうその階には到着しているのだからランプが点かないのは当然だ。
そしてこのビルのエレベーターは行き先の階を押さなくては閉まるボタンを押してもドアは閉まらないのだから、ドアが閉まらないのも当然だ。
「もうダメ、このエレベーターは呪われてるんだぁ」

いつもの冷静さを失って叫ぶ伊織ちゃんに、そっと真実を教えてあげると…
彼女は耳まで見事に赤くなりました。
そして、そっと小さな声で「誰にも言わないで下さい」と言っておりました。

、、、あれ?言っちゃったな、、、
でも、他にネタを思いつかなかったのでしょうがない。
別に「言わない」とは答えなかったはずなので番組のために快く協力して下さい。

それにしても怖がりの人というのは怖くないことも自ら怖くしてしまう、一種の才能を持っているんですな、、、