話題:家族


友達の御曹司について語る回

今、彼は仕事を辞めて家に籠ってるらしい

就職先で使えない奴というレッテルを貼られたのか自分で貼ったかはわからないが、働く気持ちがなくなって、生きていく自信をも失っている状態なのだそうな

「兄と家族を助けてほしい」と御曹司妹から頼まれた

家業を継がせるつもりだった息子の様子がおかしくなったら、そりゃ親も大変だわな

将来の構想が狂っちまうもんな

御曹司家はうちみたいな庶民階級じゃないから、出来の悪い家族構成員を外の世界から見えないように隠してしまう傾向がある

だから御曹司妹もこれまで俺に言わなかったんだ

もっと早く言ってくれりゃ、今よりは簡単に治してやれたかも知れないのに…


ちなみにうちのオヤジは、日常生活はまともに送れるところまで回復した

妹が傍について構ってやったのが一番良かったのだと思う

俺は、楽しいことが多いような生活を演出することに努めた

フルタイムで働くことはまだ当分できないが、好きなことを長時間続けられるところまでは来た

精神疾患は完治までの道のりが見えないし長いしで、本人はどう思ってるか知らんけど、家族は大変苦労する

一番の近道なんてわかりゃしないから、効果があると思ったことをやってきただけなんだけどね

一緒に旅行に行ったりして、オヤジの回復具合を見てきた御曹司妹

俺に頼れば何とかなると思ったのだろう




それともうひとつ

御曹司が家業を継げないとなると、彼の妹がその役目を果たさなければならなくなる

でもそんな風に育てられてないんだよな

「私と結婚して、家業を手伝ってほしい」とも言われた

けっけけ結婚!?

冗談じゃねーよ

家業を手伝うのはしょうがない状況ならやってやるが、結婚は考え直せ、と答えた

結婚は考え過ぎだよ

ときめく出会いと付き合っている間の楽しい時間がないと、その後結婚しちゃ駄目だよね

女の子は夢を見ながら成長し、そしてその夢と現実をどう繋げて行くか考える時間も大事だからね

てなこと述べたら、一生懸命考えてきたことを否定されたからか、御曹司妹は涙を流した

おーよしよし、って慰めなきゃならなくなった

涙を拭う箱ティッシュを彼女の膝の上に置き、面白がるかなと思い、貯蔵してあった清見を出してやった

新鮮な清見は皮が固いから手で剥きにくいんだよ

だけど、しばらくほっといて水分を飛ばすと皮が柔らかくなって手で剥きやすくなるのよ

そして味も濃厚になるし

素人が貯蔵したものは皮表面に黒い部分ができて、若干見苦しい見た目になってしまうのだけど、熱い透明の液体で覆われた瞳ではよく見えないだろうと思って皮を剥いてやった

そして2人で食べましたとさ

するとじきに御曹司妹は泣き止んだ

その後、わざわざ持ってきてくれたハーフサイズのエクレアも譲った

「これは神田君の分だから…」と断る彼女に、兄貴を再生させれば全て丸く収まるんだろ?と言ってやったら、御曹司妹は「うん」と頷き、俺を暫し見てからエクレアを自分の口に運んだ

そして最後は声を出して笑っていた




話を聞いただけだけど、御曹司を再生させるのはそんなに難しくないような気がした

子供の頃からの付き合いだから性格は把握してるしね

そこから計画を練った神田でした


つつぐ