話題:かわいいひと


ほんと暑くなってきて、家から持ってきた飲み物だけでは足りなくなっている神田です

毎日数回自販機のお世話になる

校内の自販機はプレミアムな商品を除きほとんどが百円で買えるため、よく利用する

俺が買うのはブラックコーヒーかお茶系の砂糖が入ってないやつ

虫歯になりたくないから甘くない飲み物を選んでいたら、砂糖入りのが飲めなくなった(炭酸系は別)

特に甘い缶コーヒーは苦手

だからブラック無糖を選ぶのだ

ところがこの日、お金を入れて商品ボタンを押す時に、目にマツゲが入ったんだよ

痛ッと目をつむったその瞬間、違うボタンを押したのかな、出てきた缶が白かった

やっちまった畜生…と悔いたが、どこを押しちゃったんだろうと思って自販機を確認したが、ブラック無糖と同じ列にはこの砂糖入り白い缶はなかった

白い缶は上段の右端にあったが、いくら目をつむったとしてもそんな遠くのボタンを押す筈がない

この時、自販機業者のミスではないかと思った

とっさに白い缶を撮影した

今度業者マンに出くわした時に、ブラック押したら白が出てきた金返せ、と言ってやろうかと思ってね

写真を撮り終えて立ち上がると「先生〜」と呼ぶ聞き慣れた声がした

見るとイケイケが立っていた

彼女は「暑いねー」と言いながらハンカチをヒラヒラさせていた

その時ちょうどいいと思って、白い缶をイケイケの前に差し出した

「ん?くれるの?」と嬉しそうに言うから、少し前に起きた自販機事件を説明してやった

彼女は「それで写真撮ったの?」と言っていたが、俺を哀れむような目をしていた

「先生、疲れてるんだね」とも言われた

暑かったが大して疲れは感じてなかったのでおかしいなと思ったが、年が5つも離れている元教え子の後輩に、写真を撮っても何の証拠にもならないと説明を受けてしまった

確かにそうだと気づいた時には恥ずかしくって恥ずかしくって…

まあ飲めよ、と言うのが精一杯だった

だがイケイケは白い缶を受け取ったはいいが、肩に掛けていたバッグの中をゴソゴソやっていた

何か探してるのか?と聞くと、「ストロー持ってたかなと思って」と彼女は答えた




この時、このイケイケの言葉に感激した

そうなのだ、大学に入学した当初、俺は缶に直接口をつけて飲む女を見て驚いたんだった

男子校だったから女の生態に疎く、女の子は男のような飲み方はしないと思ってたんだよな

姉貴も妹もストローを差すか、家に居ればコップに移して飲んでたから

それから何年かたって、女の子も男同様の飲み方をするのを見て、それに慣れてしまっていた

イケイケがストローを探しやすいようにと渡した白い缶を再び持ってやった

それから数秒後、無事ストローを取り出したイケイケはストローを包んである紙を破いた

それと同時に俺も缶を数回振り、蓋を開けてイケイケに渡した


とても微笑ましい光景だった

久しぶりに見たストロー女

イケイケが何か話し掛けて来たが聞いちゃいなかった

ストローで飲む姿が可愛いと思っちゃったんだな

だけど教え子だから、この娘が塾にいる間にストロー話をしたかも知れない

それを覚えていてストローを探したのか、はたまた、元々ストロー派なのかはわからない

「おいしいよ?先生も飲む?」とイケイケが発した言葉には気づいた

そうか?と答えたあと、あろうことか、甘いとわかっている白い缶コーヒーをイケイケの手から受け取り、ストローをくわえて少し吸ってしまった

口の中に甘い液体がじわっとやって来た

だが、その甘さはそれほど強くなかった



ストロー姿に見とれてる間にデートの約束をしたみたいだ

明日何時に迎えに来てくれる?というメールが来てた

昼前とだけ打って返したが、いつ約束したのか全然記憶がない

やっぱり疲れているのだろうか

でもまあこういうことはこれまでもあったから気にしないし、明日がちょいと楽しみでもある

これからコンビニに寄って、ストローを買おうと思っている神田でした