話題:恋人との電話
前記事書いた直後、「時間があったら電話して」とメールが来たもんで、このままずっと逃げていてもしょうがないので希望を叶えてやった神田です
「ウチに来てから何か変わったよね」の言葉に、そうだな、と素直に返事した
「何か嫌なことあった?」と聞くから、嫌なことはないが、気持ちに変化が起きたことを正直に述べてやった
俺の存在そのものがピアノ人生の邪魔になるのではないかと
すると一笑に付された
「もう今以上(ピアノは)上手くならないのよ」だと
ピークは高校の時で、大学時代は実力を維持するのに必死だったそうな
ショパンコンクールで予選落ちしてスッキリしたと言っていた
ショパンコンクールって聞いたことあるけど、それがどんな大会なのか知らない俺はただフムフムと相槌を打つしかなかった
まとめると…、いくら練習しても全盛期に及ばないばかりかどんどん下手になってゆく
それでもピアノを弾いていたい、それだけ
考え方がお嬢様で芸術家なのだな
大学を出て、自分の力で生きて行かなければならない人とは全然違う所にいる
子供の頃からだから仕方ないが、誰かに依存するのが当たり前になってる
だから結婚したいのだな
すると俺はどうしたらいいのだろう
専業主婦を望む人を嫁さんにし、ピアノも買ってやらなきゃならない
防音工事も施すと全部でいくらになるのか見当もつかない
昔の俺なら不可能という文字は持ち合わせてなかったので頑張ったと思うが、今の俺はそういったバイタリティーに欠けている
訳がわからず離婚した経験が、目の前に立ちはだかる高い壁 をぶっ壊して進む気力を消し去ってしまうんだよな
努力しても報われないどころか裏切られた過去が、いつまでも大きく心に闇を形成していると言うか…
しばらく俺の話をフムフムと聞いていた茶髪だったが、ブチブチ言う俺の言葉を遮って、ある提案を示した
「一緒に住んでみたら変われるかもよ、お互いに」と
住むって同棲かよ…どこで?
妹に何て言えばいいかな
すぐには同意できなかった神田でした
話題:恋愛
意外と早く家に連れ込まれた神田です
彼女は新しい彼ができたと親に報告したようだ
それだと「一度連れてらっしゃい」となるわな
だから敵陣に突撃せざるを得なかった
手土産は出回り始めた種無し柿、処理に困っていた酢漬けラッキョウ
何ちゅう組合せだと自分でも思ったが、急だったから他に用意できなくてね
〜中略〜
玄関の扉の前にママが立っていた
まずは玄関に入って顔を見てから、「本日はお招きありがとうございます。お嬢さんと仲良くさせて頂いています神田です」と挨拶するつもりでいたんだよ
ところが「わっ、背高ーい。巨人だね!」とママの第一声でモゴモゴなっちまった
日本に住んでる方が長くなってんのに何故か「ハロ〜、ナイストゥ…」とか口から出ちゃった
〜中略〜
ごはんを御馳走になった
カレーライスだったが、肉が挽き肉だった
何故だろう、客と思われてないのか…と疑問が残ったが、和気あいあいの雰囲気の中で、そんなことはどうでもよくなった
〜中略〜
問題はここからなんだよな
食後、茶髪がピアノを弾くと言うので、ピアノがある部屋に通された
グランドピアノがそこにあった
床に楽譜が散らばっていたが見て見ぬフリをした
彼女の弟が丸椅子を並べてくれた
そこに彼と並んで座った
ピアノの前の椅子に茶髪は座り、ふう〜っと一発息を吐いた後、鍵盤に手をかざした
驚いた
俺とは住む世界が違うと思った
こんな綺麗な音を奏でるピアニストの胸を揉んだ自分を恥じた
俺と付き合うことで、この才能が枯渇してしまうんじゃないかと不安になった
ショパンの別れの曲
涙が出そうになった
その日からメールをちゃんと返せなくなった
電話が掛かってきても出られない
きっと不安な気持ちでいるだろうとは思ったが、俺と一緒にいたら彼女はダメになるという思いが強くて
天然であるが故の純粋な心の音が俺の心臓を突き刺したんだよ
悪魔払いに遭遇した悪魔になったような気持ち
もう逃げるしかない
だが、勿体無いとも思う
どうしたらいいかわからなくなった神田でした