しあわせをひとすくい 3 ※栄誕
『今終わったよ。今から行くね』
栄口からメールがきたとき、ケーキのスポンジは出来上がったところだった。後はデコレーションだけだ。
「栄口にはこんな感じかな」
生クリームと砂糖をボールに入れて泡立てる。カシャカシャと泡立て器がボールの底を鳴らす音を聞きながら栄口の好きな味について考えていた。
オレはこてこてに甘い生クリームもそれなりに好きだけれど、栄口はあんまり甘くないのが好きだ。今まで一緒に食べてきたケーキの傾向がそんな感じ。こってりと甘くていいのはチョコレートだけ。(あれはカカオの苦味があるから平気なのかも)
それ以外は、ふわふわしっとり、味はあっさり、っていうのが栄口の好みだとオレはみた。
だからそういう風になるように考えて前の休みに試作してみた。イメージどおりにできたから今日はそれを再現するだけだ。
味もさることながら生クリームのデコレーションが、自分で言うのもなんだけど、神がかっていると思う。
こんな特技があったら将来パティシエになるしかないじゃないか、と思うくらいに。
確かに小さい頃から図工とか美術の成績はいいほうだったけど、まさかこんなに器用だったとは自分でも驚きだ。
今まで、自分のことを「オレすげー!」と思ったことなどなかった。でも、今は思う。
そして、そのきっかけをくれたのは、他の誰でもない栄口なのだ。
誕生日じゃなくったって、感謝してもしきれない。
いつもいつも、栄口が見ていてくれる、褒めてくれる、認めてくれる。
今のオレが、オレらしくいられるのは栄口のおかげだから。
そんな感謝の気持ちを込めて、最上級に綺麗にケーキを飾っていく。
栄口ありがとう。誕生日おめでとう!
デコレーションのラストに形よく搾り出した生クリームの上にのイチゴを乗せた。
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