しあわせをひとすくい  2 ※栄誕







土曜日。
朝、家を出てみると昨日まで降っていた雨も止んでいた。
部活中もどんよりとはしていたけれど、少しずつ持ち直してる感じ。
雨が降ったらうちまで来てもらうのも悪い気するもんね。こりゃ神様が応援してくれてるとしか思えないな!
なんて、プラス思考でうきうきと練習をこなした。

なのに。


「ゴメン、水谷。今日無理かも…」
ベンチで着替えてる途中、栄口がおずおずと言った。
「へ?」
オレの頭の中は楽しみでいっぱいで、栄口がなにを言ったのかを理解するのにちょっと間があった。

「ええええええええ!なんで!?なんかあったの!?」

「これから練習試合のミーティングがはいっちゃって、その後グラウンドの使用調整とか、備品の買いだしとか…でも阿部も花井もほかにやることがあって、オレだけ抜けられなくて…ゴメン」

「うそぉぉぉ……………」

栄口はいい人だし、責任感が強い。花井も阿部も頑張ってるのに自分だけ押し付けて帰るなんてできるわけがないのだ。

「……仕方ないよね。副部長だもんね。たいへんだね」
「ホント、ゴメン…」
「いいんだ、たいしたことじゃないから…」
とは思ってみても、やっぱりへこむ。

オレ、そんなに一緒にケーキ食べたかったのか。
くいしんぼだな、オレは…。

そこでふと思いついた。
ケーキを食べてほしい、っていうだけなら、まだまだ時間があるじゃないか。
だって、今から作るんだもん。

「ね、いろいろ終わった後は?ひま?」
「大丈夫だけど…」
「じゃあ、その後ならいい?」
「うん、結構かかるけどいいの?」
「ちょうど準備ができていい感じだよ!」

一緒に作るっていうのはなくなっちゃったけど、よく考えたらばーんとできあがったケーキ渡される方がびっくりするよね。
ケーキを作るのにはまってるんだと栄口に話をしたことはあるけれど、実際にできあがりを見せたことはない。(全部オレが食べちゃうから)

栄口、絶対びっくりするよ。
ケーキ作りに関しては、かなり自信があるのだ。

「じゃあ用事が終わったらいくね。ごめんな」
笑いながらも、申し訳なさそうに眉を下げている栄口を見てたら、なんだか胸がきゅーんとしてきた。
栄口は全然悪くないのに。そんな顔しないでよ。
でも、その顔すごくかわいい。栄口は健気な感じがしてたまんないんだよなー

…やばい。今ものすごくモーレツにちゅーしたい。

オレはきょろきょろとあたりを見回した。
もうさっさと帰っちゃったやつ。背中向けて帰る準備をしてるやつ。いろいろだけど、誰もこっちを見ていない。それにこの角度ならみんなからはオレの後ろ頭しか見えないはずだ。
それを確認して、オレはすばやく栄口のほっぺたにキスをした。

「なっ…!」
「しっ!誰も見てないから、気づいてないよ。」
人差し指を立てて笑うと、栄口は開いた口を閉じて大きくため息をついた。

「もう…そういう問題じゃないだろ」
そう言ってもう一度ため息をつく。

「ごめんね。我慢できなくて」

オレは脱ぎ散らかしたアンダーシャツやタオルをぎゅうぎゅうとバッグに詰め込んで立ち上がった。
「じゃあ、オレ先に帰って待ってるから。絶対に来てね!」

「うん、ありがと」
と栄口はにっこりと笑った。

うひゃあ。
なんかまた胸がきゅーんとなった。
ここに誰いなかったら、力いっぱい抱きしめたい気分だ。

最近、そういう、こつんと湧き上がってくる衝動を抑えるのに忙しい。
それは間違いなく、オレがどんどん栄口のことを好きになっているって証拠なのだ。









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