L'affection devient bientot heureuse. 3





結局、ケーキやシャンパンはあるにしても、それらが並んでいるのはこたつの上だし、ほかにはから揚げとか普段と変わらないものばかりで、これで本当にクリスマスらしくなってるんだろうかと少しばかり不安になってくる。
なんだかいろいろ、ちぐはぐでおかしい。でも水谷は特に気にしている様子はなくて、いつもよりは幸せそうな顔をして食べているように見えたので、ちょっとだけ安心した。

「最後はケーキね!」
ひととおり食べ終わると水谷はさっさとこたつの上を片付け、嬉々としてお皿とフォークを並べた。
「あいかわらずよく食べるねー…もう、オレおなかいっぱい」
「なに言ってんの。ケーキは別腹でしょ」
「それはおまえだけだろ、オレは同じ腹だよ」
「だいじょーぶ!一口食べたら止まらなくなるから!」

だから、それはおまえだけだよ…と思いながら、ケーキにろうそくを立てていく水谷を見ていた。
ろうそくを立て終わった水谷は部屋の隅にある小物入れの中からライターを持ってきた。年に3回は確実に使うからと水谷が買って来たものだ。
二人の誕生日とクリスマスにケーキのろうそくを点けるために。


水谷は部屋の電気を消した後、オレの隣に並んで座った。
暗くなった部屋の中はぼんやりとオレンジ色になった、ろうそくとツリーの光が同じようなオレンジ色だからだ。
水谷が選んだクリスマスツリーのイルミネーションは、ふわんふわんと揺らぎながら光が蛍のようにゆっくりと点滅する。
揺らめくろうそくの火を見ていた水谷がふふふと一人笑いをした。

いつものことなので、反射的に「どうしたの?」と聞いた。こうやって問いかけないと水谷の考えていることは言葉になって出てこないからだ。
「あのねー…えーっとね…今年のクリスマスもいっしょにいれてよかったなーって」
それは当り前に思っていたけれど、言葉にされるとくすぐったくて嬉しい。
「うん…」
「栄口もそう思う?」
「うん…そう思うよ」
オレが頷くと水谷が隣からぎゅっと抱きついてきた。

いつも「好きだよ」って憚りもなく言ってくる水谷だけれど、時々こんなふうになにも言わずに抱きしめてくることがある。
なにも言わないけれど、そんなときの水谷の腕の力はどれほどたくさんの言葉よりも、オレのことを「好き」と言ってくれている気がして嬉しい。

腕ごと抱きしめられていて抱き返すことができないから首を傾けて頬で水谷の髪を撫でた。
気がついて顔を上げた水谷がそのまま伸び上がるようにしてキスをした。
舌先が触れあうと二人の口の中が同じ味になっていておかしくなってくる。

浅く深くキスを繰り返しているうちに、水谷が後ろ手に体を支えていたオレの手を取ってぐっと体重をかけてきた。どうしようもなくてなすがままに後ろに倒れると、離れないように水谷の唇が追ってきて。またキスを繰り返す。
この体勢になるといつだって水谷から逃げられない。
でもうっすら目を開けると水谷の肩越しにこたつの上のケーキのろうそくの光が見えた。

「水谷、ケーキ…生クリーム溶けちゃうよ」
「大丈夫。この部屋寒いもん」と水谷は体を起こして、ろうそくの火を吹き消した。

確かにこの家は襖や障子が多くて暖房していても寒い。とはいえ、いくらなんでも冷蔵庫ほどではないだろう…と、現実的なつっこみを入れたくなったけれど、やっぱり少し酔っ払っているのか、まぁいいかと思ってしまった。

それにオレはケーキよりも水谷とキスしてるほうがいい。
雨みたいに降ってくるキスを受けながら、両腕で水谷を引き寄せた。

二人の足を暖めているこたつも、小さくうなっているファンヒーターも、少しずつケーキを溶かしていく。
でもたとえ生クリームが柔らかくなっていても、水谷はあの幸せそうな笑顔を浮かべておいしそうに食べるのだろう。
そしてオレはそれを見てこの上なく幸せな気持ちになるのだ。



今年も、きっと来年も、その先も。







/end/
2009.12.24〜2009.12.31










…とまぁ、どうでもいいクリスマスのお話でした。
そういうどうでもいいような毎日こそが幸せだったりするんだよね、と栄口くんは思っているような気がします。






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