いくつかの夏、いつかの空 7








さすがにオレと水谷では「うまそう!」はやらなかった。あれをやるにはけっこう勇気がいる。普通にいただきますをして、ピリッともしない甘口のカレー(それはそれでおいしい)を食べた。食べ終わって食休みがてらテレビを見ていた。普段こんな時間にテレビを見ないからなにをやってるのかさっぱりわからない。つまんないなぁと思いながらテレビを眺めていたら、ふらっと立ち上がった水谷が自分のかばんを持ってきてオレの横にぺたりと座った。

「ね、栄口。花火しない?」
「へ?」
「オレ買ってきたんだ」
ほらぁとかばんの中から花火の袋を取り出してにこっと笑った。

「栄口は花火好き?」
「うん。オレもお盆にここに来たらいっつも花火してた」
「でしょでしょ!オレ花火大好きなんだよねぇ!オレさ、栄口と花火したかったんだぁ」
確かにオレも好きだけど、中学生になったら弟に付き合うほかはやらなくなった。まして自分で買ったことなんてない。
小さい子供みたいに笑っている水谷を不思議なやつだよなぁと思いながら見ていた。

「…あれ。もしかしてオレばっか浮かれてる?」
「そんなことないよ。今年は花火するの初めてだし、なんか楽しみ」
オレがそういうと水谷の表情がぱあぁっと明るくなった。

「おばあちゃん、花火したいんだけどバケツあるー?」
台所で片づけをしていたおばあちゃんに聞いたら、そんな大きくなっても花火するの?と笑われてしまった。



勝手口の横に置いてあったバケツに水を張って持っていくと、水谷が軒下の犬走りの端にろうそくを立てようとしていた。花火についているろうそくは小さすぎてすぐ消えるからって、仏壇にあった大き目の白いろうそくを渡しておいたのだ。
たれてくるろうにびくびくしながら立てる。少し斜めに傾いたろうそくを水谷は満足気に見ていた。

「はじめよっか」
水谷がバリバリと花火の外袋を破った。水谷は用がないと思ったものの扱いがかなりぞんざいだ。合理的だとは思うけれど、そこまでバリバリにしなくてもいいじゃないかとも思ってしまう。なんていうか、物がかわいそうだ。

取り出された花火の中から好きなのを適当に手に取った。弟が小さかった頃、喧嘩しないように分けていたのを思い出して懐かしくなった。その話をしたら水谷もお姉さんとよく喧嘩していたと話してくれた。水谷のところは問答無用でお姉さん優先だったらしい。

「姉ちゃんが栄口くらい優しかったら、オレの子供時代はバラ色だったよ」
「そんな大袈裟な…」
「ホントだよ〜!うちの姉ちゃん怒ると蹴り入れてきてたんだよ!?栄口はさ、お姉さんに蹴られたことある?弟蹴ったことある!?」
「うーん…どっちもないなぁ」
「でしょ!?兄弟が優しいなんて奇跡だよ。奇跡的な幸せ」
「ふーん…」

そう言われてみれば自分たちは口で喧嘩をすることはあっても手が出ることはなかった。性格的なものもあるけれど、父さんが仕事で空けることが多かったうちは母さんが病気になる前から、どこかみんなで支えあっている雰囲気になっていたからかもしれない。

たぶん水谷は自分も家族もそこに在るのが当たり前で、自分が人に甘えることも迷惑をかけることも当たり前の権利だったのだと思う。
そんな水谷の子供の頃の喧嘩の純粋で無邪気な暴力は逆に羨ましくも思えた。





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