Line - FragileD



じっと立っていると、自転車をこいで温まっていた体がしんしんと冷えていく。お腹も空いていて、よけい寒い。

オレは握ったままだった阿部にもらった飴を口に入れた。
見た目通り甘い甘いイチゴミルクの味。丸っこい甘さが気分だけでも暖かくしてくれるみたいだ。
この飴玉がなくなった頃には栄口も来てくれるだろうと思ってたいたら、電話を切ってから5分もたたない内に来た。

「うち、すぐそこなんだよ。阿部がだいぶんこっちまできてくれたみたいだね」
阿部と別れるところからはずいぶん行き過ぎているのだと栄口が教えてくれた。

オレは阿部に親切にしてもらってしまったのか。
まだ口の中に残っているちいさくなったイチゴミルクの飴と阿部が重なる。
似合わないなぁと笑って、それから深く感謝した。

自転車で走りながら、住宅街では電話で伝えられるような目印がないのだと気付いた。何丁目の誰それさんの家を右にとか言われてもさっぱりわからない。
だからオレが「行く」って言ったら、栄口は絶対家を空けなければいけないということだったんだ。
病気の弟を一人置いて。

「あ、あのさ、家、出てきて大丈夫だった?」
ちょっと前を走っていた栄口が振り返った。うん、と栄口がうなずいた。

「でも、オレ、勝手に来ちゃって…迎えにこさせちゃって、考えなしでごめんね」
「・・・ううん、ありがと」
「え?え、へへ」
なんでお礼を言われたのかは、わからなかったのだけれど、怒られてはないんだとわかって顔がゆるんだ。

「もう・・・おまえのその顔、なんなんだろうね。ほんとに脱力系なんだから」

そう言ってちょっと困ったみたいに笑った。






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