徒然帳
category:茜色の記憶(設楽夢)
茜色の記憶(第六十八章-5)
7月10日 19:41
帰り道。
一人歩いていた翼は、ふと立ち止まって空を見上げた。
「…………沙彩が、選んだ」
この世界の人間になることを、選んだ。
鍵となったのは、やはり兵助。
翼個人としては、非常に嬉しい。
沙彩のことは恋愛感情抜きで気に入っているから、これからもずっと会えるのは素直に嬉しい。
けれどもと、思う。
沙彩も兵助もまだ、中学生だ。
そして人は、変化していく生き物である。
今は、まだいい。
もしかしたら、そんな日は訪れないかもしれない。
だが万が一。
万が一、沙彩と兵助の関係が、悪い方向に変化する時が来たら。
その時はきっと、この絆は重荷になってしまうだろう。
この選択を、後悔してしまうかもしれない。
もちろん、そんな日は訪れないことが、一番いいのだけれど。
そのための努力だって、惜しまないけれど。
その上で万が一、そんな日が訪れたとしたら。
その時には、周囲は一体何ができるのか。
今はまだ、判らない。
もちろん、取り越し苦労で終われば最上ではあるけれど。
「…まぁ、けれど」
選ぶのは、これで終わりじゃない。
生きているかぎり、人はたくさんのことを選び続ける。
今回の沙彩達の選択は、その中のひとつに過ぎない。
ただ、少しだけ特殊で、とても大きな選択だったのだけれど。
「………………」
小さく笑みを浮かべて、翼は再び歩き出した。
沙彩にとっての最大の選択がこれならば、自分にとっての最大の選択はきっと、あの、月の夜。
彼女の手を、握り返すことを選んだ、あの瞬間。
おかげで翼の人生は、大きく変わった。
それを今まで一度も後悔したことかないと言ったら嘘になるけれど、プラスマイナスで考えるなら、絶対にプラスだと言い切れるから。
だから、沙彩達もこの選択がそうであって欲しいと。
ただそう、願った。
◇◆◇◆◇◆◇◆
台詞がほとんどない!!
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