スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

Juliet()

「バッファ」
明け方まで呑んでいたと云うバッファローマンをニンジャは渋い顔で呼び止める。
「拙者、今夜は所用で郷へ帰るのだが」
「ああ」
構わないと自室に向かうバッファローマンに、
「ブロッケンが…」
「あ?」
らしくない声色に顔だけ向ける。
「アレだ。あの…いつもの」
ぐっと、眉間に深い皺が刻まれるバッファローマンから目を反らさずニンジャは、一歩近寄る。
「任せたでござる」
「…嫌だぞ」
眉間の皺は戻らず。
「お主は、そうやって何時も逃げているではごさらんか。今回くらいは面倒みろ」
ニンジャの命令口調に更に顔を歪ませる。
「だって、なあ」
「毎回憎まれ役を被る拙者の身にもなれ!」
言い切り、音もなく背を向け歩き出すニンジャに、
「どうなっても俺は責任とらねーぜ」
「手荒いのはいたしかたあるまいが、壊すなよ」
「ブロッケン?家?」
振り返りもしないニンジャに意地悪く声をかける。
「どっちもでござる」
当たり前のニンジャの台詞に大きく息を吐き、バッファローマンは睡眠をとるために部屋に向かった。

「ブロッケン、飯は?」
「いらねぇ」
食事を用意してくれる者が不在の為、と簡単に手を加えたモノをテーブルに並べバッファローマンはビールを傾けながらJr.の帰りを待っていた。
「育ち盛りが夕飯抜きじゃもたねぇだろ」
「んなガキじゃねえっ!」
Jr.は怒鳴り、冷蔵庫からビールを取り出して、どかりとソファにかける。
「ワザワザ人が用意してやったんだぞ」
「頼んでねえよ」
睨み付けるJr.にバッファローマンは手にしたビールを一気に飲みほす。
ムカつくガキだな。と腹を立ててはいるが声には出さない。
Jr.は自分の中に溜りよどむモノの発散の仕方を知らない。
いつもの[アレ]と云うのは、コドモのカンシャクで、ただの八つ当たりなのだとJr.を取り巻く者達は理解していた。
結果、周りを傷付けJr.自身も傷付ける事も。
アレだな。目的に向かって行くが、何かの拍子に目的がズレたとか、遅れたとか。それが、微かな事だとしても結果が変わらないとしても、譲れないんだ、このガキは。
グラスに氷を入れ、洋酒で満たしながらバッファローマンは考える。

Jr.は手にした缶に口をつける事なくTVを睨み付けている。
>内容に集中している訳ではないと、その表情から解る。
いい加減にしろと云うようにバッファローマンは大きな溜め息を吐き、Jr.の相手をかって出た。
「んだよ」
「鬱陶しいんだよ、ガキ」
「ガキじゃねぇっ!」
耳には届かない鐘の音にバッファローマンは、もう一度心の中で溜め息をつき、待ってましたとばかりのJr.を睨み付けた。



くゆる紫煙に、壁の疵が透けて見える。
この程度ならばニンジャは大して煩くないだろうか。と彼の姿を思い浮かべシュミレーションしてみる。
「不良」
重たい瞼を持ち上げ、煙草の煙に悪態をつく。
「ガキに不良扱いされたかないね」
煙草を吸うと云うよりは、その揺らぐ紫煙を楽しむ為にふかしているだけなバッファローマンは、もそりと起き上がるJr.に言い捨て、ベッドから立ち上がる。
「ガキじゃねぇって言ってんだろ」
幾分か和らいだ声に大袈裟に息を吐き、Jr.に向き直る。
「てめぇの鬱憤をてめぇで解消出来ねえ奴はいくつだろうが、ガキ、なんだよ」
一息に告げ、うつ向くJr.を見る。
「…」
「どした?」
まさか、自分の言葉が堪えたとは思えず、
「おい?」
「イテぇ」
顔を上げずにJr.が呟く。
「腰が?」
「バカヤロウっ、違っ…てぇぇっ!」
茶化すバッファローマンに、きっと顔を上げ叫ぶ。
ばさりと被っていた布団をよけると、
「うあ」
「う、あ」
二人して情けない声を上げた。
Jr.の右手首は、異常に赤く腫れ上がり、それを目にしたJr.は青ざめる。
確かに昨夜Jr.の腕を捻り上げた時、嫌な感触がしたとバッファローマンは思い出す。
「自覚…すると…ダメなんだ…」
弱々しい声を上げるJr.を抱えバッファローマンは病院へと駆け込んだ。

「加減と云うものを知らぬのか」
冷たいニンジャの声にバッファローマンは割に合わないと肩を落とす。
三日で完治すると言われたにも関わらずJr.は、ニンジャが戻るとグスグスと鼻を鳴らし、バッファがバッファがと訴えた。
全てを鵜呑みにしたのではないだろうが。ニンジャは、Jr.を酷く甘やかしている。

割に合わねえ。

延々と続くニンジャの小言にバッファローマンは再度、呟く。









Juliet
Song by.THE ALFEE
2005/04/29
続きを読む

鑢紙二(ニンブロ)

一は見付からなかった。
ただのイチャイチャなのでご注意よ。






「わ。本当だ」
 駆け出したブロッケンJr.にニンジャは眼を細めて後に続く。
 街の桜は思っていたよりも早く終わり、花見が出来なかったとボヤくブロッケンJr.に、少し登ればまだ咲いているだろうと教えてやった。
 祭り好きの牛は珍しく面倒臭いとどこかに呑みに行き、魔界の後継者は所用で行けぬから日をずらせと食い下がったが却下した。結果、二人だけの花見となった。
「土産に少し持って帰ったら駄目かな」
「止めておけ。折ってしまうと、来年には見られぬやもしれん」
 なんでだ。と首を傾げるブロッケンJr.に、折った所から、ばい菌が入りその樹自体を腐らせる。とニンジャは説明してやる。
「…そう、なのか」
 深く眉を寄せるブロッケンJr.に前科有りかと溜め息をつく。
「スゴいなあ」
 Jr.は空を仰ぎ、うっとりと眺める。
 春の訪れを精一杯に告げ、あとは散るだけになった山桜はただ静かに立ち、その花の命のみを見せつけブロッケンJr.を魅せ続ける。
「間に合って、良かったでござる」
 ニンジャは、自分好みの辛口の日本酒を傾け花ではなくブロッケンJr.を見ている。彼の清しさは桜に映えると柄にもないことを思いながら。
「冷えるか?」
 肩を寄せたブロッケンJr.を気遣う。そうでもないと応えるが、腕を回し引き寄せた。
 幾度か肌を重ねた。他者との関係に幼い彼にこれは愛情だと説き、心の成熟を待たないで。ブロッケンJr.に説く愛情を嘘ではないと信じていたが、ニンジャ自身がそれを信じていなかった。
「ブロッケン」
 静かに名を呼び、応えを待たずに唇を塞ぐ。合わされる事に慣れたのか、ブロッケンJr.は大人しく受け入れ硝子の様な瞳を隠す。薄く熱を持たない唇に自分の熱を与え放し、閉じた瞼へと這わす。ぴくりと瞳が反応し、ニンジャの唇の端が上がる。ブロッケンJr.を護る軍帽を落とし、額を撫で頬を撫で熱の移った唇を撫でる。
「…ん…」
 吐息と共に漏れる音は、命溢れる空気に溶けていく。
「…ニンジャ」
 襟元をはだけ始めた馴れた指先に声が上がる。
「うん?」
 意地悪く聞き返すが、応えはなく。その頬に朱が差すのに気を良くする。ニンジャは、あらわになる色薄い肌に、紅を這わせたいなと考える。
「えっ」
 上着を剥ぎ取られたかと思えば、両腕を万歳の様に挙げられ、ブロッケンJr.は困惑気に眼を開く。両の手首は細く紅い縄に結われ、もたれていた樹に掛けられていた。
「な、何を、ニンジャっ?」
「黙って」
 怯え始めるブロッケンJr.に眼を細め唇を持ち上げ囁く。挙げられた手首から手首に、ブロッケンJr.の首を一周して同じ縄が通される。
「暴れたりすれば、絞まってしまうでござるな」
「なんでっ、外せよ!」
 ブロッケンJr.には応えずにニンジャは首に掛けた縄に指を這わす。
「やはり、紅が良い。漆黒も捨てがたい所でござるがな」
「…や、めっ」
 叫びは唇を合わせ飲み込む。舌を絡め、口内を堪能し奥から溢れる響きが小さくなった所で放し、舌先を首筋へと這わしてゆく。きつく寄せる眉もニンジャを煽るだけで体を這い回る指先も淀む事がない。
 辿り着いた胸の突起を舌先、指先で突つかれ捻れ吸い上げられ、ブロッケンJr.の体が反る。
「…っ、くっ」
「ほら、気を抜くと絞まると言ったでござろう」
 腕に力が入り下げ掛け、自分で自分の首を絞め呷いたブロッケンJr.にニンジャが顔を上げて諭す。その間にも、指先は色付き珠の様に成した突起をいじるのは止まない。
「ニンジャ…、これ、いやだ…っ」
 薄く水が張り始めた眼に羞恥や恐怖ではないと、ニンジャはブロッケンJr.の頼みを聞き入れない。下肢を這い出した指先にブロッケンJr.は身を振るわせる。その意味を固い衣服の上から撫で確かめた。
「や…、ニンジャ、もう止め…っ」
 覚えたものに逆らえる訳もなく、ブロッケンJr.は形だけの抵抗を見せニンジャの与える快感に酔い始める。
「んん…っ、ん…」
 片方の手でJr.の頬を撫でて唇を重ねる。ブロッケンJr.は、接吻けを好むから、出来るだけ柔らかく。端から漏れる切なげな吐息に唇を放す。
「…ぁ」
「ブロッケン」
 目の前に現れたものに息を飲み、それでもゆっくりと、勃ち上がりかけたニンジャへと唇を寄せる。眼を細めて、己れへ舌を這わすブロッケンJr.を眺める。色薄い肌は淡く染まり、その瞳にも紅が混じり、ニンジャは唇を歪める。
「…ニ、ンジャ、…っ」
 涙声に喉奥で笑うと、きゅっと眉を寄せる。
「主は、面白い」
「…ばかに、してっ、ぅ、んんっ」
 軽く歯を立てられ、むっとしたようにブロッケンJr.の口から自身を引抜き、ニンジャは目線を一度合わせる。ぎゅうっと睨みつけたブロッケンJr.にニヤリとしてやる。そろりと手を伸ばし、ぎりぎりのブロッケンJr.を根本できつく握り、空いた手で懐から小さな容器を取り出す。中身を指にすくい、まだ固く閉じられている奥へと塗り込む。
「んっぅんんっ、く…っ」
 体を仰け反らし、絞まった首元に更に呷く。
「気を抜くなと言ったでござろうが」
 笑いを含み耳元で囁く。
「ほ、ほどけよ…っ」
「良く、似合う」
「…っか、あっ」
 埋められた指にまた背を反らせる。
ゆっくりと探り、更に指を増やして奥を探る。噛み締めている唇からふぅふぅと熱っぽい息が漏れ、ブロッケンJr.の体の許しを感じる。
「んっ、んんっ…っ」
 膝下に絡むズボンを煩わし気に脚を突っ張り内を侵すニンジャを誘う仕草に探る指を抜く。乾く唇を舐め、ブロッケンJr.の脚を抱え上げて窮屈な体制に歪む顔にニンジャは湿らせた唇に笑みを浮かべた。
「…っ…」
 加減もなく、ブロッケンJr.へと体を進めた。
「…ぃ…っ、あ…っ」
 絞まり過ぎると、片手でブロッケンJr.の吊られている両手を束ね支える。
「は…ぁ…、ん…ん」
 薄く開いた瞳には苦痛はなく、そっと唇を寄せると自ら重ねてくる。突き上げてやれば高い声で泣き、腰を円を描くよう揺らしてやればかすれた声で名を呼び、溺れているのだと、ニンジャは眼を閉じブロッケンJr.の内を感じ続ける。
「あっ、う、んんっ、ニ…ジャ…っ」
 激しく止まない律動に首を振る。
折った膝を背の幹に押し付ける程開かせ、いっそう激しく奥へと打ち突けながら限界の近いブロッケンJr.を同じ律動で扱き出す。
「…やっ、も…っ、いや、…っ」
 泣きじゃくるだけのブロッケンJr.の耳元で、低く名を呼ぶ。
「…っ!」
 支えていた手を放し、両手でブロッケンJr.の腰を固定して、二人解放の為に大きく体を揺らす。背を反らし両腕でニンジャにすがりつこうとするが首に紅の紐がきつく食い込み、ブロッケンJr.は声にならない叫びを上げ果て、瞬間埋めていたものを絞められる感覚にニンジャもブロッケンJr.の内に果てた。

 徐々に冷めていくブロッケンJr.の体温を楽しみながら、首に淡くついた跡を撫でる。残った酒を口に含み、ゆっくりと喉を焼く感覚に口元を弛める。
 ふと、ブロッケンJr.が顔を上げてニンジャを見ていた。
 あやすようにまだ薄く水の張る瞳を視線で撫で、頬を撫でてやる。
「…ニンジャ」
 迷いを匂わす声になんだと首を傾げてやる。
「…ニンジャ、は」
「なんだ?」
 眼を細め愛し児を抱く親のように笑みを浮かべ、ニンジャは待つ。住む世界が違うのだと心臓を刺すような、お前は酷い奴だとこの身を引き裂くような台詞を待つ。

「…あ、の…」
「ん…?」
「…ヘンタイ趣味なのか?」
「ゴホッ…っ!」
 予想もしなかったブロッケンJr.の台詞に含みかけた酒を全て吹き出し、ニンジャは激しく咳込む。
「うわっ、うわ、大丈夫か?」
 激しくむせるニンジャにブロッケンJr.は慌てて身体を起こした。
「はっ、…く…っ、くくっ」
 むせびは、笑いになり。ニンジャは、腹の底から沸き上がる笑いを止められず、咳込みながら笑い続ける。
「な、なんだよ。笑うなよ」
「くくっ…ぬ、主は」
「えっ?」
「主はそれなら、どうする」
 治まらない笑いに涙がにじむ。
「…え…」
 顔を青くして悩み始めるブロッケンJr.に、ニンジャの笑い声は高くなる。

 いらないのか。ニンジャは思う。己れの業など、こやつに必要ない。ただ彼を愛しいだけで充分らしいとニンジャは困惑げに見つめるブロッケンJr.に思った。










結局、ばかっぷるオチでした。
2005/04/26
改20191008

嘘(ロビブロ)

「ブロッケンは、来てるか?」
「来ている」
「居ないって言えよっ!」
 慌てて戸口のウォーズマンに駆け寄り、怒鳴りつけるブロッケンJr.をロビンマスクは軽々と肩に担ぎ歩き出した。
「ばっ!ばかやろっ、降ろせっロビンっ!」
 暴れるブロッケンJr.を無視し、ロビンマスクは無言のまま自宅へ向かう。ブロッケンJr.が少し気の毒だと思ったが他人のケンカに口出しする訳にはいかないなと、ウォーズマンは黙って戸を閉めた。

 事の始まりは、いわゆるヤキモチを妬いたロビンマスクだった。
「お前は、私を好きだと言わないな」
「は?」
 ブロッケンJr.は没頭していた読書を中断され眉を寄せると、ロビンマスクを見上げた。
「なんの事だよ」
 それから暫くブロッケンJr.はロビンマスクを「好き」か「嫌い」かの押し問答が続く。確かに共に夜を明かす様になってもブロッケンJr.は「嫌いじゃない」とだけで「好きだ」とロビンマスクに告げた事はない。皆の中で幾度か誰かを「お前の事好きだ」と言うブロッケンJr.の無邪気な声を耳にした。
 ふと自分は一度も告げてられていないと思い面白くなく、どうしてもブロッケンJr.に言わせたかったのだが。
「なんで、嫌いじゃないじゃダメなんだよっ!」と、一際大きく怒鳴り部屋を出ていったブロッケンJr.に腹を立た。
 それでも結局、放っておけずロビンマスクはブロッケンJr.の隠れ家となったウォーズマンの部屋まで訪れた。

「降ろせってば!」
 しゃにむに暴れるブロッケンJr.を仕方なく肩から降ろす。ばっと距離を取るとロビンマスクを睨みつけるブロッケンJr.を黙って見下ろした。
「……らいだっ」
「なに?」
 よほど頭にきたのか、ブロッケンJr.の声がかすれている。
「ロビンなんか、嫌いだっ!」
「ふん」
 駆け出してしまったJr.の背を見つめ、ロビンマスクは軽く唸る。泣かしただろうかと思ったが、追いかけても頭に血が昇ったブロッケンJr.をなだめるのは無駄だと考え、思っていたより堪えると、うつ向いたまま自宅へと歩き始めた。

「オトナ気ない」
 ぴくりと仮面の下の眉が寄った。
 傍らに立つウォーズマンに向く事なく、そのまま無視を決め込む。
「コドモ相手にオトナ気ない」
 また、ぴくり。
「何が言いたい」
「大した意味は、ない。ただ、思った事を口にした」
 ロビンマスクはゆっくりとウォーズマンに向き直る。
「いつも、元気にはしゃいでるコドモが居ないのは淋しいな」
「……ウォーズ」
 わざと普段より低い声を出すが、皆の練習風景を眺めているウォーズマンはロビンマスクをチラリともしない。
 ブロッケンJr.がロビンマスクに「嫌いだ」と言い捨て去ってから一週間経つ。その間、ブロッケンJr.は一度も顔を見せず、誰とも会ってもいないようだった。
「好きは、一つの意味しかない」
「は?」
 ロビンマスクはウォーズマンの唐突な言葉に、間の抜けた声を上げてしまった。
「この間、ブロッケンが言っていた」
「どういう意味だ」
 顔だけロビンマスクに向けると、「俺が解る訳ないだろう。解らないのか?」かすかに心配そうなウォーズマンに黙る。
「ロビン?」
「いや、多分、解る。と思う」
「ふうん」
 ロビンマスクの応えにウォーズマンは興味をなくした様で、皆の中へと行ってしまった。
 ロビンマスクは黙ったままその背中を眺めていたが、ふいにウォーズマン達とは反対の出口へと歩き出した。

 外国から、日本に滞在する超人達の為に超人委員会の管轄の元運営されている超人専用のアパートメントがある。短期でも長期でも普段の生活に不自由のないよう日用品も揃い家具も備え付けてあり、自国と日本を往復する者は大概ここを利用していた。ブロッケンJr.も一部屋借りており、国に戻ったという情報もなく誰も姿を見ないのならここに居るのだろう。
 ロビンマスクは、初めて訪れるJr.の部屋のドアのチャイムを鳴らした。
 三度鳴らし、暫く待つが出てくる気配はない。見当違いかと思ったが、ノブに手を掛けてみる。ノブは軽く、鍵が掛っていない事に驚くが半分程ドアを開け中の様子を伺う。
「ブロッケン、居るのか?」
 返事はない。しかし、気配を感じる。
多少の後ろめたさを感じつつ、部屋へと足を踏み入れる。簡素ながらも超人専用だけはあって広さは申し分なかった。
 そのせいではない寒さに、ロビンマスクは無遠慮に部屋を見回す。率直に感想を述べるなら、色がない。ブロッケンJr.の部屋は予想に反してとても殺風景だった。滞在が長い者は、国から愛用の家具や装飾類を取り寄せたり、他国での生活に寂しさを感じないよう銘々好みのインテリアに変えてしまったりしている。その部屋は備え付けの家具はそのままでカーテンの一枚も代えられておらず、小さな本棚にきっちりと並べられている様々な背表紙と入りきらなかった大量の本が床に積み上げてなければ、空き部屋と間違うようだった。
「ブロッケン……」
 彩りのない空間を泳ぎ、寝室らしい部屋でブロッケンJr.を見付ける。
「ブロッケン」
 床に足を投げ出してベッドを背にしているブロッケンJr.を脅かさないよう声をかける。ぴくりともしないブロッケンJr.に眠っているのかと思い、音を立てないよう傍らに膝を付く。
「ブロッケン」
 軍帽の鍔に隠れる瞳が開いているのを確かめ、そっと頬に手を添え名を呼ぶ。
「……」
「ブロッケン?」
ロビンマスクの手が触れて、やっとブロッケンJr.が顔を上げた。
「……ゴメン」
「え?」
 自分が告げるつもりだった言葉に戸惑う。大きく開いた瞳に捉えられていて、ロビンマスクは言葉が出てこない。
「嫌いって、言って、ゴメン」
「ブロッケン」
 何か大きな音を立てしまえば消えてしまうような不安にかられ、そっと腕を回しブロッケンJr.を抱き寄せる。
「ロビンのこと、嫌いじゃないんだ」
「ブロッケン、私が悪かったから」
「好きは、ひとつしかなくて、けど」
「ブロッケン」
 許しを請うこどもの様な物言いに腕に力を込めて言葉を遮る。泣いてはいないと解ってはいたが。
「私が、悪かった。お前の言葉の意味を知ろうとしなかった。悪かった」

 [好き]には[好き]と云う意味しかない。[嫌いじゃない]には[好き]かもしれないし、[好き]ではない方の意味がロビンマスクは不安だった。
 ただ、ブロッケンJr.の[嫌いじゃない]には、[好き]だけでは現せない意味が込められていて。[好き]のひとつだけで良いのだと知らない稚拙な彼の精一杯の表現で。

「ブロッケン」
 おずおずと、ロビンマスクに応えるためブロッケンJr.が首に腕を回す。ロビンマスクはあやすように背を撫で軍帽を床に転がし、目もとから頬も撫でてやる。ふと気付くと、穏やかな寝息を立てるブロッケンJr.に苦笑した。

 この一週間、ほとんど寝ずに自分の事を考えていたのだろうか。そう思うと、苦笑が満足気な笑みに変わってゆく。
 ブロッケンJr.に付き合うのは少々難しい。けれど、手放し難い。葛藤は不安になり、苛立ち傷付けてしまう。けれど、愛しい。子どもだと思っていた彼と変わらないレベルかと、ロビンマスクは喉の奥で自分を笑い、ブロッケンJr.をベッドに上げてやる。そして、くうすうと眠る恋人を眺め続けた。



「ロビンなんか、大っ嫌いだっっ!」
「お前みたいな、コドモに何が解る!」
「コドモ扱いすんなーっ!」
「ウォーズ、止めなくて良いのか?」
 呆れたウルフマンの声に、
「犬も食わない物に、関わる気はない」
 冷たく言い放ち自分のトレーニングを再開するウォーズマンに、そうだなーと呑気な声を上げウルフマンも煩く邪魔にしかなっていない二人に背を向けた。











初出2005/04/05
改 2019/09/26
お題ネタだったけど添えず。

しんぎんぐじぇねれいしょん、

忘れてしまうには 眩し過ぎる記憶
いくつもの憧れを置き去りにしたままさ





ふと、肩越しに重みを感じてうたた寝をしていたのだと気付く。
くー、すー、と寝息を立てる弟子は屈託がない。
随分とオトナになったと感じた彼は、まだ出会った頃の面影で傍らに居る。
沢山のモノを裏切り、捨て、置き去りにし、何もかも無くした自分に残った、たった一つの閃光。
この光を在るべき場所へと導けているかと問われれば、自信はない。
しかし、多分、きっと。
命に代えても彼をその高みに押し上げてやろうとJr.は誓う。
当初目指した場所とは違うかも知れない。
彼の望みとは違うかも知れない。
けれども、失われた息遣いを感じた。
時代を呪ったが、間違いだと知った。
「お前の師は、我が儘小僧だったんだ」
あの頃のままに。


Juliet 4

「ブロッケンは?」
「ハミガキでござる」
いきなり顔を覗かせたバッファローマンに番茶を啜っていたニンジャが振り向きもせず応える。
「あれ、泊まりと言ってなかったか?」
不思議そうに尋ねるアシュラマンに応える事無く、ぺとぺとと背後からやって来たJr.に向き直る。
「あれ、バッファ泊まりじゃっうわっオイっコラーっ!」
ひょいっと、Jr.を肩に担ぎ上げ「今夜は冷えるからな」
と言い捨てるバッファローマンに、ニンジャは冷たく一言。
「主だけのようだがな」
「コラーはなせーおろせー」
ギロッとニンジャを睨むとバッファローマンは、本気ではないJr.の抵抗を受けながら自室に向かって行った。

「なんだよーバッファの奴、態度悪いな」
完全無視状態のアシュラマンがぼやく。
「まったく、大人げないでござるな。てでぃべあが欲しいのなら、もう少し可愛くあれば良いものを、フンッ、素直でないでござる」
「───てでぃ…」
ニンジャから出た[てでぃべあ]と云う言葉に暫し考える。
「あ。そうか、なるほどな。」
思い当たりニヤニヤと笑い出す。
「そりゃ、寒いだろうな」
「でござるな。まぁ、あやつを振ったおかげてブロッケンに被害が少々生じたがな」
「ブロッケンなら良いだろ」

「バッファ、酒臭ぇ〜…」
押し込められたバッファローマンの寝床から顔を出し、Jr.がぶつぶつと漏らす。
「うるさい。黙って寝ろっ!」
ばふっと、布団をかけられるが再度顔を出しバッファローマンを見て、
「…寒いんなら、何か着りゃ良ーのに」
上半身に何も着ていないバッファローマンに当たり前の事を言ってみる。
「ソレとコレは別問題なんだよ」
「ふーん」
別に良いや、と云うようなJr.の隣に潜り込んで来たバッファローマンは、Jr.を抱き寄せる。抱き込まれたJr.は、腕をバッファローマンの肩に回しヨシヨシと云うようにその肩を撫でる。
「───お前、血の気の割に冷てーな」
「ん。平熱は低いんだ」
ニヤッとしてバッファローマンの胸に顔を埋める。
「バッファのが、あったかいよな」
くっくっくっと肩を震わせるJr.を強く抱き、失敗したと云うように短く舌打ちをしてバッファローマンは眼を閉じた。

最初の目的とは逆になってしまったが、このコドモを暖めながら寝るのは悪くないと思いながら。






Juliet
Song by.THE ALFEE
2005/01/31

続きを読む
前の記事へ 次の記事へ