一は見付からなかった。
ただのイチャイチャなのでご注意よ。
「わ。本当だ」
駆け出したブロッケンJr.にニンジャは眼を細めて後に続く。
街の桜は思っていたよりも早く終わり、花見が出来なかったとボヤくブロッケンJr.に、少し登ればまだ咲いているだろうと教えてやった。
祭り好きの牛は珍しく面倒臭いとどこかに呑みに行き、魔界の後継者は所用で行けぬから日をずらせと食い下がったが却下した。結果、二人だけの花見となった。
「土産に少し持って帰ったら駄目かな」
「止めておけ。折ってしまうと、来年には見られぬやもしれん」
なんでだ。と首を傾げるブロッケンJr.に、折った所から、ばい菌が入りその樹自体を腐らせる。とニンジャは説明してやる。
「…そう、なのか」
深く眉を寄せるブロッケンJr.に前科有りかと溜め息をつく。
「スゴいなあ」
Jr.は空を仰ぎ、うっとりと眺める。
春の訪れを精一杯に告げ、あとは散るだけになった山桜はただ静かに立ち、その花の命のみを見せつけブロッケンJr.を魅せ続ける。
「間に合って、良かったでござる」
ニンジャは、自分好みの辛口の日本酒を傾け花ではなくブロッケンJr.を見ている。彼の清しさは桜に映えると柄にもないことを思いながら。
「冷えるか?」
肩を寄せたブロッケンJr.を気遣う。そうでもないと応えるが、腕を回し引き寄せた。
幾度か肌を重ねた。他者との関係に幼い彼にこれは愛情だと説き、心の成熟を待たないで。ブロッケンJr.に説く愛情を嘘ではないと信じていたが、ニンジャ自身がそれを信じていなかった。
「ブロッケン」
静かに名を呼び、応えを待たずに唇を塞ぐ。合わされる事に慣れたのか、ブロッケンJr.は大人しく受け入れ硝子の様な瞳を隠す。薄く熱を持たない唇に自分の熱を与え放し、閉じた瞼へと這わす。ぴくりと瞳が反応し、ニンジャの唇の端が上がる。ブロッケンJr.を護る軍帽を落とし、額を撫で頬を撫で熱の移った唇を撫でる。
「…ん…」
吐息と共に漏れる音は、命溢れる空気に溶けていく。
「…ニンジャ」
襟元をはだけ始めた馴れた指先に声が上がる。
「うん?」
意地悪く聞き返すが、応えはなく。その頬に朱が差すのに気を良くする。ニンジャは、あらわになる色薄い肌に、紅を這わせたいなと考える。
「えっ」
上着を剥ぎ取られたかと思えば、両腕を万歳の様に挙げられ、ブロッケンJr.は困惑気に眼を開く。両の手首は細く紅い縄に結われ、もたれていた樹に掛けられていた。
「な、何を、ニンジャっ?」
「黙って」
怯え始めるブロッケンJr.に眼を細め唇を持ち上げ囁く。挙げられた手首から手首に、ブロッケンJr.の首を一周して同じ縄が通される。
「暴れたりすれば、絞まってしまうでござるな」
「なんでっ、外せよ!」
ブロッケンJr.には応えずにニンジャは首に掛けた縄に指を這わす。
「やはり、紅が良い。漆黒も捨てがたい所でござるがな」
「…や、めっ」
叫びは唇を合わせ飲み込む。舌を絡め、口内を堪能し奥から溢れる響きが小さくなった所で放し、舌先を首筋へと這わしてゆく。きつく寄せる眉もニンジャを煽るだけで体を這い回る指先も淀む事がない。
辿り着いた胸の突起を舌先、指先で突つかれ捻れ吸い上げられ、ブロッケンJr.の体が反る。
「…っ、くっ」
「ほら、気を抜くと絞まると言ったでござろう」
腕に力が入り下げ掛け、自分で自分の首を絞め呷いたブロッケンJr.にニンジャが顔を上げて諭す。その間にも、指先は色付き珠の様に成した突起をいじるのは止まない。
「ニンジャ…、これ、いやだ…っ」
薄く水が張り始めた眼に羞恥や恐怖ではないと、ニンジャはブロッケンJr.の頼みを聞き入れない。下肢を這い出した指先にブロッケンJr.は身を振るわせる。その意味を固い衣服の上から撫で確かめた。
「や…、ニンジャ、もう止め…っ」
覚えたものに逆らえる訳もなく、ブロッケンJr.は形だけの抵抗を見せニンジャの与える快感に酔い始める。
「んん…っ、ん…」
片方の手でJr.の頬を撫でて唇を重ねる。ブロッケンJr.は、接吻けを好むから、出来るだけ柔らかく。端から漏れる切なげな吐息に唇を放す。
「…ぁ」
「ブロッケン」
目の前に現れたものに息を飲み、それでもゆっくりと、勃ち上がりかけたニンジャへと唇を寄せる。眼を細めて、己れへ舌を這わすブロッケンJr.を眺める。色薄い肌は淡く染まり、その瞳にも紅が混じり、ニンジャは唇を歪める。
「…ニ、ンジャ、…っ」
涙声に喉奥で笑うと、きゅっと眉を寄せる。
「主は、面白い」
「…ばかに、してっ、ぅ、んんっ」
軽く歯を立てられ、むっとしたようにブロッケンJr.の口から自身を引抜き、ニンジャは目線を一度合わせる。ぎゅうっと睨みつけたブロッケンJr.にニヤリとしてやる。そろりと手を伸ばし、ぎりぎりのブロッケンJr.を根本できつく握り、空いた手で懐から小さな容器を取り出す。中身を指にすくい、まだ固く閉じられている奥へと塗り込む。
「んっぅんんっ、く…っ」
体を仰け反らし、絞まった首元に更に呷く。
「気を抜くなと言ったでござろうが」
笑いを含み耳元で囁く。
「ほ、ほどけよ…っ」
「良く、似合う」
「…っか、あっ」
埋められた指にまた背を反らせる。
ゆっくりと探り、更に指を増やして奥を探る。噛み締めている唇からふぅふぅと熱っぽい息が漏れ、ブロッケンJr.の体の許しを感じる。
「んっ、んんっ…っ」
膝下に絡むズボンを煩わし気に脚を突っ張り内を侵すニンジャを誘う仕草に探る指を抜く。乾く唇を舐め、ブロッケンJr.の脚を抱え上げて窮屈な体制に歪む顔にニンジャは湿らせた唇に笑みを浮かべた。
「…っ…」
加減もなく、ブロッケンJr.へと体を進めた。
「…ぃ…っ、あ…っ」
絞まり過ぎると、片手でブロッケンJr.の吊られている両手を束ね支える。
「は…ぁ…、ん…ん」
薄く開いた瞳には苦痛はなく、そっと唇を寄せると自ら重ねてくる。突き上げてやれば高い声で泣き、腰を円を描くよう揺らしてやればかすれた声で名を呼び、溺れているのだと、ニンジャは眼を閉じブロッケンJr.の内を感じ続ける。
「あっ、う、んんっ、ニ…ジャ…っ」
激しく止まない律動に首を振る。
折った膝を背の幹に押し付ける程開かせ、いっそう激しく奥へと打ち突けながら限界の近いブロッケンJr.を同じ律動で扱き出す。
「…やっ、も…っ、いや、…っ」
泣きじゃくるだけのブロッケンJr.の耳元で、低く名を呼ぶ。
「…っ!」
支えていた手を放し、両手でブロッケンJr.の腰を固定して、二人解放の為に大きく体を揺らす。背を反らし両腕でニンジャにすがりつこうとするが首に紅の紐がきつく食い込み、ブロッケンJr.は声にならない叫びを上げ果て、瞬間埋めていたものを絞められる感覚にニンジャもブロッケンJr.の内に果てた。
徐々に冷めていくブロッケンJr.の体温を楽しみながら、首に淡くついた跡を撫でる。残った酒を口に含み、ゆっくりと喉を焼く感覚に口元を弛める。
ふと、ブロッケンJr.が顔を上げてニンジャを見ていた。
あやすようにまだ薄く水の張る瞳を視線で撫で、頬を撫でてやる。
「…ニンジャ」
迷いを匂わす声になんだと首を傾げてやる。
「…ニンジャ、は」
「なんだ?」
眼を細め愛し児を抱く親のように笑みを浮かべ、ニンジャは待つ。住む世界が違うのだと心臓を刺すような、お前は酷い奴だとこの身を引き裂くような台詞を待つ。
「…あ、の…」
「ん…?」
「…ヘンタイ趣味なのか?」
「ゴホッ…っ!」
予想もしなかったブロッケンJr.の台詞に含みかけた酒を全て吹き出し、ニンジャは激しく咳込む。
「うわっ、うわ、大丈夫か?」
激しくむせるニンジャにブロッケンJr.は慌てて身体を起こした。
「はっ、…く…っ、くくっ」
むせびは、笑いになり。ニンジャは、腹の底から沸き上がる笑いを止められず、咳込みながら笑い続ける。
「な、なんだよ。笑うなよ」
「くくっ…ぬ、主は」
「えっ?」
「主はそれなら、どうする」
治まらない笑いに涙がにじむ。
「…え…」
顔を青くして悩み始めるブロッケンJr.に、ニンジャの笑い声は高くなる。
いらないのか。ニンジャは思う。己れの業など、こやつに必要ない。ただ彼を愛しいだけで充分らしいとニンジャは困惑げに見つめるブロッケンJr.に思った。
結局、ばかっぷるオチでした。
2005/04/26
改20191008