※守理とさわお君というか守→さわ……
 反省はしている。後悔はしていない!!!!!!!



 ずっと見ていて気付いたことがある。割と人間観察って物が好きだから、そういうことに気付くのは簡単だ。例えば俺の従兄弟の双子。姉のほうは割りと人見知り。行動したあとに後悔するパターンが多い。例えば弟のほう。明るく見せて抱え込むタイプ。人とじゃれあうのが好き。一人が怖い。
 人は千差万別色々だ。俺も自分自身は変わった人間だと思う。昔恋人に博愛主義を批判されたことは未だに覚えているが、俺自身其れが美点だと思っているから未だにそれは変わらない。人なんて千差万別、色々だ。
 だから、彼のそれに気付いたときは、けれど特に何かを感じたわけじゃなかった。


 【 ひと時の距離 】



 高校に足しげく通っているのは暇つぶしとか、楽しいからとか、言葉にしづらいあれこれだ。従兄弟たちとこんな風に話したり遊んだりするのも思えば久しぶりのことだと思う。そんな風に思いながら持参してきていた漫画本を鞄から取り出して、勝手に美術室に入り込んでだらだらしていた。飲み物買って来れば良かったかな。いいや、あとで紫良か恵紫にたかろう。そんな風に思いながら漫画本を読みふけり、どうやら俺は授業終了のチャイムなど聞こえていなかったらしい。
 がらり、と美術室の扉が開かれる音に我に返り、扉を見やって俺は笑った。
「おーっす」
「……相変わらず暇人さんですね」
「おうよ。暇人さんですよ」
 呆れたような顔をするさわお君に笑いながらそう返し、俺はひらひらと手を振ってみせる。さわお君ははぁ、と溜息を吐き出しながら鞄を改めて抱えなおし、美術室に入ってきた。俺が陣取る長机とは違う机に鞄を置く彼を見やり、俺は読みかけの漫画本に指を挟みこみながら頬杖をついて彼を見やる。
 彼は、割とパーソナルスペースが広い。人との距離感が遠い、感じがする。恵紫も割りと広い、紫良は狭い。人それぞれの距離感は、感じ取るのは難しい。
「ねー、今日何か無いの? 俺腹減ってんだよね」
「何時もですよね」
「うん、まぁ割とそーね」
 さわお君の言葉に笑いながらそう返してみる。男子高校生の手作りのお菓子は、最近俺の腹を満たしてくれる必須アイテムだ。
「今日はなんもないです」
「えー……仕方ない、やっぱ紫良が来たらコンビニだな……」
「ちゃんと食ってるんですか?」
「まぁ一応? でも今月は月末集中で新刊がなぁ……バイト代の半分が消える……」
「……ご飯優先にしてくださいよ」
「萌えがあればなんとかなる」
「なりませんて」
 はぁ、と呆れたように呟く年下の男の子。俺は笑いながら答えてあげる。
「大丈夫だって。お兄さんにもちゃんとご飯恵んでくれるお友達居るから」
「……恵んでもらってるって形容詞の時点でおかしいとか思わないんですかね」
「おもいませーん」
 さわお君の呆れた顔はよく見る気がする。彼は恐らく俺を駄目な大人だと思うだろう。まぁ、自分自身できた大人だとは思っていないので別に良いのだけれど、これでもちゃんと自活出来てるんですよ。一応は。自分の生活を賄えて、住む所着るもの食べ物にそこまで困ってない。そうしてちゃんと知識と萌えを摂取できている。これ以上望むことなんてあるだろうか。人並みの生活が出来ているんだから、よしとするものじゃないだろうか。
 そんな風に考えているとさわお君が小さく「あ、」と声を漏らした。
「食べかけのポッキーありましたよ。袋空いてますけど」
「え、まじで? ちょーだい」
 そう言って頬杖を止めて手を伸ばせば、さわお君はその小さな袋の中身を確かめながらこちらに歩み寄ってきた。
「折れてますね」
「仕方ないわなー」
 開いた口の方を差し出してくれるさわお君。俺はそれを覗き込み、一本を手に取った。半分に折れたポッキーを笑いながら口にする。
「……あれ?」
「んー?」
 ぽりぽりとポッキーをかじり、指を挟んでいた漫画本を開いたところでさわお君の少し不思議そうな声が俺に届いた。
「少し痩せました?」
 そう言いながらさわお君の手は俺の首にぺたりと触れてくる。
 思っていたよりも大きく、少し肉厚的な手。
「……」
「ちゃんと食べてくださいよ。明日は来ますか? 何か作ってくるんで」
「…………」
「……? 守理さん?」
「……あー、じゃあ腹に溜まる奴で……パウンドケーキとか? バナナの奴が良いな」
「はいはい」
 呆れたようにそう漏らしてさわお君は手を降ろし、けれどそのまま俺の隣に腰掛けた。
「今日何読んでるんです?」
 そういいながら手にしていたポッキーの袋から一本を取り出し、彼はそれにかじりつく。俺の手元の本を覗き込んでくるさわお君。俺は小さく肩を落として口を開いた。
「新しく買った漫画家漫画」
「まんがかまんが?」
「漫画家さんが主役の漫画。結構面白いよ。絵とか安定してないときあるけど」
「守理さんが毒吐く奴は大抵面白いですよね」
 その言葉に俺は笑う。そうして手を伸ばしてさわお君が持つその袋から、折れたポッキーをもう一本頂戴した。
(――パーソナルスペースが、狭いとか広い、とかじゃなくて)
 ぽき、と噛み砕いて、租借する。
(自由、なんだろーな。この年頃って)
 思いながら、ポッキーを噛み砕く。こっちの想定した距離感などお構い無しに、時に遠く、時にこんなにも近い。触れられることを嫌うのだと思っていたのに、触れるのはお構い無しだ。
(子供ってのは自由で、少しばかり残酷だねぇ)
 思いながら、言葉はポッキーと共に飲み込んだ。


 了