落とせと嘆いた肺病の男は
雨中も問わず、
インキの切れた錆びれた万年筆を持ちて
古書の中に迷走しては
夢の森を抜けずに居る


ふさがれてしまった空は白く、灰の如く
に 純潔を守り
応との疎通は指をこえて、凡てを観越した
女の髪すら音無く眠らせ





と巫戯化合って居る



呪いしは世か人か己か眼かと
並べては瞬時に即答
確定を雲と捕え、再び流してしまう性は
男から一本一本と骨を奪ってゆくに等しい地獄


石畳に向かいて
「わかっているのならなんとかしろ」
と吠える男の背は頼り無く
盲への嫉妬と恐怖は常に帰順を果たして犯し倒す


あと一寸、貴方が馬鹿で在れば好しのに
或いは
あと一寸、貴方が善人で在れば良しのに


そう呟いた女が一人、
下呂の如くに息吐く男へ赤傘をおとし
「吠える顔は月に向けるものですよ」
と、微笑うでも無く陰を延ばす



「明日が晴れれば、」
呟く男が女の肩越しに、如何なる幻を視たとして
其れでも尚、両の眼は、空より女より
土中に埋まっている。







【月に吠ゆる】








話題:詩








二十歳くらいの文も出て來た。
(大掃除あるある)