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小話(小政)

小政な小話をちょっと浮かんだので書いてみました。
アニバサ対秀吉戦の後です。



穏やかな陽気に包まれたある日の午後。
伊達軍が軍師、片倉小十郎は伊達領に構える城の自室にて自身の愛刀、黒龍の手入れを施していた。

過日の豊臣軍との戦闘の折、この黒龍は主の元を離れ小十郎の主である伊達政宗の元に渡っていた。
政宗と共に戦った黒龍は、その証と言わんばかりに刀身がボロボロだった。
既に自身の手に余ると判断した小十郎は、元の主に戻った刀をそのまま伊達軍お墨付きの鍛治師へと依頼した。

傷だらけの刀身を眺めた初老の鍛治師は、暫くした後ぽつりと二言三言言葉を溢した。
“とても大きな戦だったのですなぁ。でも、とても誇らしい傷だ。主を守り共に戦い抜いたのでしょうな。”

それを聞いた時、刀の主である小十郎の方がとても誇らしくそしてとても嬉しかった。
自身の半身、相棒とも呼べる黒龍が傷だらけで戻った時、ここまでにさせてしまった政宗への不満や愚痴等微塵もなくただただ感謝した。

自分が政宗の傍に居ない間、この黒龍が政宗と共に戦い、守り、支え、導き、自分達を繋いでいたのだと、ボロボロの刀身が雄弁に語っていた。
そんな黒龍にただただ感謝し、誇りに思った。
証であるこの傷を消し去りたくない程、小十郎は思った。

そんな黒龍が先日やっと戻って来たのだ。綺麗に仕上げてあったが、やはり自身で愛でたいもの。
戦後処理も一段落つき束の間時間が空いたので、愛刀の手入れをする事にした。

とても良く晴れた気持ちのいい午後で、開け放たれた障子窓から丁度いい日の光や緩やかな風が、穏やかな刻を運んでくれた。
こんな日は久方ぶりで、とても気分のいい手入れの時間を過ごせた。

暫くすると、聞き慣れた感じ慣れた足音と気配が近づいて来た。
それに気づくと同時に小十郎の表情が崩れ、ますます穏やかに優しいものになっていく。
最早これは無意識の条件反射だ。
五感と顔の筋肉が連動しているのではないかと言う程に、それは何処でも何時でも常だった。

その足音と気配の主が部屋の前で止まると、挨拶も無しに部屋の襖を開けた。
こんな事が許されるのは、この城では一人しか居ない。
小十郎の主、伊達政宗だった。

「おう、小十郎。こんな所に居やがったのか。」
「政宗様。」
小十郎は作業の手を休め、政宗へと顔を向けた。
政宗は小十郎へ歩み寄りながら手元へと視線をやった。
「何処にも居ねぇから何処で何してるかと思ったら。…戻ったのか。」
「はい。先日戻って参りました。仕上がりはとても良かったのですが、やはり自分の手を加えたいと思いまして。」
「なるほど。」
小十郎の目の前に腰を下ろした政宗は、本来の主の元に戻り元来の研ぎ澄まされた刀身に戻った刀を眺めながら言葉を発した。
「悪かったな。黒龍をあんなにしちまって。」
「いいえ、滅相もない。寧ろ黒龍には感謝している位ですよ。私が不在の間に政宗様と共に戦い、守り、支え、私達を繋いでいてくれました。黒龍の主として誇りに思います。ですから政宗様も、余り気に病まないで下さい。」
黒龍を眺めながら、そして政宗へ視線をやりながらはっきりと言った。
小十郎の言葉を聞き、僅かにバツの悪い顔をしながら政宗も言葉を返した。
「いや、まぁな。それに関しては俺も同じだから安心しろ。」
そう言いながら、政宗は黒龍の刀身に指先を触れ、柄を目指して撫でた。ゆっくりと撫でる彼の瞳はとても凪いでいた。
痛さや後悔や悔いが無く、あるのは労りと言う名の優しさか。
撫でていた指先が刀身に彫ってある文字に辿り着いた時、もう一度口を開いた。
「俺もお前と同じだ、小十郎。黒龍には本当に感謝している。こいつがいなけりゃあの時立っていたのは俺じゃなかった。」

それは紛れもない政宗の本心だった。その証が今この場にいる自分だと言っても過言では無い程に。
黒龍がいたから自分は立って居られた。戦えた。部下達を守れた。大局を見据える自分を保って居られた。
そして彼を、小十郎を取り戻す事が出来た。
「こいつがいたからやって来れたんだ。情けなくも思うが、実際こいつには何度も世話になった。だから感謝してるのも本当だ。只な。」
そこで一度言葉を切って刀身に触れた指先を離しながら、フッと微笑んだ。
「只な、一言、詫びを言いたかっただけだ。」
それを聞いた小十郎は、目を細めながら染々思った。

ああ、本当にこの方はお優しい御方だ。

後悔でもなく、悔いがある訳でもなく、それは純粋な申し訳無さと労りから来る言葉だろう。
政宗は本来人に対して優しい人なのだ。
でなければ、信頼しそこに込められた想いを分かっていたとしても人の上に立つ身からこんな言葉は出ないだろう。
カリスマ性だけではないそれらの魅力があるからこそ、彼らは政宗の元に居るのだ。

政宗の言葉を聞いた小十郎は、素直に嬉しかった。主から純粋な労りや詫びを聞いて嬉しくならない部下はいないだろう。
まったく、本当に部下冥利に尽きる御方だ。
「有り難う御座います、政宗様。そのお言葉だけで充分です。黒龍も政宗様のお気持ちを理解しているので、これも報われましょう。」
「だと、いいんだけどな。」
苦笑しながら言った政宗は、一呼吸置いた後、奥州筆頭の顔に戻っていた。
「今回の件も一段落付いたが、まだまだ問題はごまんとある。だが、俺達は止まらねぇ。前に進むだけだ。」
そこで一旦言葉を切り、政宗の代名詞とも言える凛とした先を見据える視線を小十郎へやった。
「これからも、俺の背中をお前に預ける。ついて来い。」
その有無を言わせない言葉に、小十郎に否やはなかった。
「無論です。この小十郎の命は政宗様を守り支える為に在るもの。生きて、最後迄、貴方様と共に参りましょう。」

そんな、いつもの彼の口上に、しかし今は重く心強く聞こえた。
「Ha!相変わらずいい返事だな。」
そう言いながら、彼はいつもの不敵な笑みを覗かせた。


変わった事もあれば、変わらないものもある。
その中で彼らを繋いだのは、やはり長い時を刻み、積み重ねて来た、無上の信頼。



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