第三者の傍観論(来神組)

 

目前で繰り広げられている、一対一の喧嘩という名の戦争を見つめて、門田京平は溜め息を吐いた。
同じ班の金髪と黒髪は、周囲の人々の視線も気にせず大暴れの真っ最中。
自由行動の時間なので、次はどこを回ろうかと話し合っていただけのはずが、どうしてこうなったのだったか。

事の始まりは、物凄く些細な事だった気がする。
だが、その些細な事も黒髪をとてつもなく毛嫌いしている金髪にとってはベンチを振り上げるほど怒る事らしい。
“ベンチを振り上げるほどの”というのは決して例えの表現ではなく、実際今眼前で見られる光景だ。

門田からしたら見慣れてしまっているこの喧嘩も、修学旅行で初めて訪れた地の人々にとっては完全に常識外だろう。
ベンチや道路標識が飛ぶ喧嘩など、暴走族の抗争等でも聞いた事がない。

門田は再び溜め息をついてから、今度はチラリと横を見やった。
前でこれだけの大騒ぎが起こっているというのに、同班残り最後の一人である眼鏡の少年は、我関せずといった様子で土産物屋を眺めている。
誰かに何かを買っていくつもりなのだろうか、熱心に選んでいた背中が急にくるりとこちらを向いた。


「ねぇねぇ門田くん!こっちとこっち、どっちがいいと思う?」


テンション高めに尋ねてくる彼の両手には、一つずつ置き物が握られている。
両方ともお世辞にもセンスが良いとは言えないデザインだったが、ざっくり答えるのも気が引けるのでこう返す。


「・・・・あー・・・右・・・・・・の方が良いんじゃねぇか?」
「やっぱりそう思う!?いやぁ僕も右だと思ってたんだよね!絶対セルティも気に入るよ何せ僕達はいつでもどこでも以心伝心だからね!」


口を挟む隙もなく早口で喋り自分の世界に浸ってしまった同級生に、三度目の溜め息が洩れる。
未だに喧嘩し続けている金髪と黒髪を止める手伝いをしてもらおうと思ったのだが、これではそう言っても聞こえないだろう。

改めて前方に目を向ければ、金髪の拳を黒髪がギリギリで避けているところだった。
この十数分で彼らに近寄ってはいけないと悟ったらしい周辺の人々は、かなり遠巻きになって二人の喧嘩を恐る恐る傍観している。
そろそろ止めないと、ただでさえ大きい騒ぎが余計に広がってしまう。
厄介な事になる前に―――――いや、もうなりかけているのかもしれないが―――――門田は声を上げた。


「おい、静雄!臨也!次行くトコ決まったから行くぞ!」


とたん、今まで金髪の攻撃から逃げ回っていた黒髪―――――折原臨也がパッとこちらを見た。


「さっすがドタチン!俺達がこうしてる間にルート決めてくれるなんて、やっぱり君がリーダーで正解だったよ。」


本来、門田はリーダーになる気など更々なかった。
けれど、班のメンバーがこの四人になった・・・というよりは、このメンバーにされた時点で、「話の収拾がつけられる者が君しかいない」と教師に泣きつかれたのである。
確かに誰をリーダーにしても不安要素があるのは否めなかったので、自分ならば多少どうにか出来るかと渋々引き受けたのだが。
修学旅行初日の午前中からこの状態では、なかなかに骨が折れそうだ。


「臨也、その呼び方はやめ」


その言葉が言い終わる前に、横から怒号が飛んできた。


「てめぇぇぇ臨也ぁぁぁぁ逃げてんじゃねぇ!!」


そこらの子供どころかチンピラですら泣いて逃げてしまいそうな形相でこちらへ向かってくるのは、金髪の方―――――平和島静雄である。
臨也が中途半端に戦線離脱した事に苛立っているようだ。
まるで魔神のようにゆっくりと、しかし物凄い怒りを空気に滲ませて迫ってくる静雄に、門田は冷や汗を垂らす。
先程のような喧嘩が再開される前に、どうにかして彼の怒りを鎮めねば。


「落ち着け静雄。臨也を殴るなら旅館に戻ってからだ。」
「えー?俺殴られるの決定事項?ドタチンひどーい。」


全く酷いと思っていないような軽い調子の声が耳に届いたが、敢えて聞き流す。
その話し方が余計に静雄を怒らせるのだが、臨也はそれを知っていてわざとやるから手に負えない。

だが、一度門田に制された手前、静雄も自ら感情を抑えようとしているようで。
最初は額に青筋を浮かべて臨也を睨んでいたが、やがて渋々怒りに震える右手を下ろした。

何とか落ち着いた事態に、門田がホッと胸を撫で下ろす。
今のところは、旅行先で警察沙汰にならずに済んだようである。

―――――と。


「・・・・あ、もう終わった?」


三人のもとへひょっこり戻ってきたのは、先程土産選びに没頭していた眼鏡の同級生。
その彼の両手に大きな紙袋が抱えられているのを見て、門田達は呆然としてしまう。


「新羅・・・・それ、全部お土産?」
「勿論だよ!本当はもっと買いたかったんだけど、あんまり買い過ぎてセルティに怒られても困るからね。いやそりゃ怒ったセルティも可愛いけど、やっぱり笑顔が見たいじゃない?だからお土産はこれくらいに留めておいて、後は楽しかった思い出とか写真に収めていっぱい話そうと思って・・・・」


臨也の問いに対し、顔を思い切りにやけさせながら長々と答える眼鏡の彼―――――もとい、岸谷新羅。
いつになったら区切りがつくのかというほどの長い惚気話に、せっかく治まっていた静雄の怒りが再度沸き上がってきたらしい。
引き攣った表情とくっきり寄せられた眉根が、その事を如実に語っている。


「・・・・なぁおい、門田。」
「何だ?」
「新羅の奴の首なら、へし折ってもいいか?」
「・・・・・出来ればやめてくれ。」


とてつもなく恐ろしい発言をかます金髪の同級生に、門田はもう本日何度目かわからない溜め息を零した。

 

 

 

 
(明日もこの調子か・・・・・。)
 

 



デュラでしっかり小話書いたのは初な気がします・・・というか初です。^^;
最初はシズちゃんオンリーで大好きだったんだけど、今はドタチンフィーバーなんだ!!ドタチン好き過ぎる。
お蔭で出来た小話が妄想たっぷりの来神時代とか・・・・。
ドタチンは高校時代は結構傍観派であまり関わってなかったみたいですけどね^^;
いいじゃないか!二次創作だもの!夢見たいんだ!!←
もっとラブい話とかも書いてみたいです・・・・はい。