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ザッザッっと、草を踏み分けて走る三之助の足音が小さく響いた。
「作、もうすぐだから…」
額ににじむ汗を片手で拭いながら小さく呟く三之助に、作兵衛は三之助の背中に負ぶさったまま唇をかみ締めた。
簡単な任務のはずだった。孫兵と左門、そして自分達の4人で城に忍び込んで密書を手に入れるだけの単純な任務。
忍者のいない城だったから、潜入も脱出も造作なかった。
(元々3年生にあてがわれる任務は簡単なものばかりだ)
だけど学園に変える途中で、作兵衛たちは、密書を狙う忍者に襲われたのだ。
決して油断していたわけではなかった。だけど、相手はさすがプロの忍者で、作兵衛は自分に襲い掛かる忍者の気配に気付くのが僅かに遅れた。
『……ッ、あ』
懐に飛び掛ってきた忍者を避けようとするが、反応が遅れた分だけ避けきれず、作兵衛はふくらはぎから膝にかけて怪我を負ってしまったのだ。
痛みが酷くてまともに走れない。
だから、足手まといになると分かっていたのに。置いていってくれても構わなかったのに。
「…ッ、三之助…!」
「何?」
「俺を置いていけ」
「何言って…」
「追っ手がすぐ近くまで来てる…このままじゃ追いつかれるから…」
自分のせいで三之助まで危険に巻き込みたくなかった。
だけど、三之助は作兵衛の言葉を聞いても決して足を止めようとはせず、無言で否定の意を表すと、作兵衛の言葉に構わず走り続けた。
「三之助…ッ!!」
「……」
「おいッ!」
「…俺、嫌だから」
「…え?」
「作は絶対に置いていかない。絶対に2人で帰るんだ」
「でも…」
追っ手の気配はすぐそこまで来ている。
足を怪我している自分がいては、近いうちに追いつかれて2人共やられてしまうだろう。
危険が迫っているというのに前だけを向いている三之助に、作兵衛が動揺すると。
三之助は作兵衛を背負う腕に力をこめた。
「大丈夫。…孫兵や左門が忍術学園に先に行って助けを呼びに行ってるから」
「それは分かってる」
自分に怪我をさせた斥候を倒して、新たな追っ手が来る前に孫兵と左門が学園に向けて走ったのを作兵衛も見ていた。
だけど、どう早く見積もっても今はやっと忍術学園に辿り着いたところだろう。
それから助けが自分達のところに来るまで、追いつかれずに逃げ切れるかどうかが問題なんだ。
(三之助だって、俺が言いたいことくらい分かってるはずなのに…)
尚も走り続ける三之助に涙が出そうになって、作兵衛が目を閉じると。
三之助が急に立ち止まった。
「…助けが来るまでの間くらい、耐えてみせるよ」
そして、過剰なくらい優しく作兵衛を背中から下ろして木の幹に寄りかからせると。
作兵衛に背を向けて、クナイを構えた。
「俺だって忍者目指してるんだ。…作兵衛には指一本触れさせない」
三之助が見据える先にはいくつかの気配があって。
作兵衛も、クナイをとりだして構えた。
足は動かない。
だけど、ただ三之助に守られてるだけなんて絶対に嫌だった。
置いてはいかない
『泪雨』のなこ様より、キリ番4000を踏んだ際に頂いた小説でございました!
こちらのサイト様は、初めて転生パロの長編を拝見した際に一目惚れ(一読み惚れ)して日参しておりました。
転生パロの設定が、委員会ごとに兄弟に生まれ変わっているという素晴らしいもので、大好きなのです。
長編も然る事ながら、短編の三ろも面白くて!特に次富がニヤニヤものです。
最近三ろブームがきていたので、キリ番を踏ませて頂いた時はナイスタイミング!と恐れ多くも思ってしまいました。
リクさせて頂いたのは「何かで足を怪我してしまう作兵衛と、それを背負う次屋」で、こんな素晴らしいお話を頂きました!
最後の三之助の、「俺だって〜触れさせない」が超超超カッコ良くてですね!作じゃなくて私が惚れてまうやろぉぉみたいな!←
でも、守られているだけじゃない作も素敵!守られてるだけなんて「絶対に」ってトコが可愛いです。^q^
なこ様・・・・・カッコイイ次富小説を本当にありがとうございました!!
最近更新停滞気味で申し訳ないです・・・!
自由自在の半縮図(体育+文次郎+伊作)
「ウナギ捕まえに行くぞ!」
「・・・・・・・は?」
授業が終わった後の委員会活動の時間。
学園の広場に集められた体育委員会の面々は、突拍子もない委員長の発言に揃って素っ頓狂な声を上げた。
彼が常識を逸脱した言動をするのは今に始まった事ではないが、今回は特に唐突である。
ニカッと太陽のような明るい笑顔で目前に立つ委員長―――――小平太に、後輩達の中では最も上級生である滝夜叉丸が尋ねる。
「あ・・・・あの、七松先輩?何故、いきなりウナギなのですか・・・・?」
彼がそう質問してしまうのも、仕方がないと言えた。
他の後輩達など、質問どころか目を瞬かせたままきょとんとしている。
しかし、後輩の間のそんな空気など気にも留めず、小平太は問いに答える。
「ウナギを捕まえて食堂に持っていったら、今日の夕飯はウナギ定食にしてくれるそうだ。おばちゃんが言ってた!」
・・・・いや、答えとは少々ずれた発言だったが。
もっと詳しく説明をすると。
ここに来る寸前、小平太が食堂のおばちゃんの呟きをたまたま聞いてしまったのだ。
その呟きの内容というのが、本日の夕飯の献立を考えているものだったらしく、
『・・・・・たまにはウナギ定食とかもいいわねぇ。でもねぇ・・・・。』
これを耳にして、小平太はウナギ獲りなどと言い出したのだった。
「という訳で、本日の体育委員会の活動は川でウナギ獲りだ!行くぞー!!」
「いけいけどんどーん!」と、普段の口癖を響かせ走り出そうとする小平太に、慌てた滝夜叉丸の制止がかかる。
「ちょ・・・・ちょっと待って下さい先輩!」
滝夜叉丸の声に、すでに一歩踏み出しかけていた小平太の動きがピタリと止まる。
そのまま後輩達の方へ向き直り、不思議そうに首を傾げ、
「?どうした、滝夜叉丸?」
先輩の問いに、滝夜叉丸は何と切り出すべきか迷った風に視線を上へ向ける。
それから、目をそろりと小平太の方へ戻し、遠慮気味に口を開いた。
「・・・・・・・今・・・・冬、なんですが・・・・・。」
「ああ、それが?」
「・・・・・・・川に、行くんですよね?」
「そうだ!いっぱい捕まえるぞ!」
笑顔を絶やさず間髪入れず問いに返してくる小平太に、がっくり項垂れる滝夜叉丸。
その様子を見兼ねたのか、滝夜叉丸の隣の三之助が話に参加する。
「あの・・・・七松先輩。」
「ん?」
「滝夜叉丸先輩が言いたいのは、多分・・・・・冬に、川にウナギを獲りに行くのはちょっと寒いんじゃ・・・?って事なんじゃないかと・・・・。」
言いたい事を代弁してくれた三之助に、滝夜叉丸が目を輝かせる。
だが、しかし。
その輝きも、長くは続かなかった。
「何言ってる!だからこそ行くんじゃないか!ほら、よく言うだろう。心頭滅却すれば川もまた温かし。」
「火もまた涼し、です!!」
ツッコミを入れたところで、もうどうにもならない事はわかっている。
忍ならば、いくら寒くとも川に潜まねばならない場合もあるだろう。
その時の為に考えてくれているのだと信じて、滝夜叉丸は渋々反論を飲み込んだ。
彼が反論を諦めたとなると、他の後輩が小平太に文句を言える訳がない。
一同、結局委員長には逆らえないのか・・・と内心で嘆息する。
これから、山を越えて川に行き、冷たい水に我慢しながらウナギを探すのだ。
本日の委員会活動メニューの多さを考えただけで、どっと疲れが出てくる気がした。
逃げられないのならばせめて早く終わってくれと後輩達が思っていると、その彼らの前の委員長が前方を見て「あ!」と声を上げた。
となれば、滝夜叉丸達も小平太の声に反応して彼の目線の先を見やる。
するとそこには、算盤を肩に担いで左手に帳簿を持った―――――
「文次郎!」
そう、六年い組の会計委員長・潮江文次郎が廊下を歩いていたのだ。
持ち物から見るに、どうやらこれから会計室で委員会らしい。
小平太に名前を呼ばれた事に気付いたらしく、文次郎がこちらを向く。
と同時に、小平太が再び声を上げた。
「文次郎、一緒にウナギ獲りに行かないか!?」
「・・・・は?ウナギ獲りっ?」
唐突な同級生の誘いに、隈が張った眼の上の眉根を思い切り寄せる文次郎。
「食堂のおばちゃんが、ウナギ獲ってきたら今日の夕飯はウナギ定食にするって言ってた!」
それは小平太の勝手な解釈であって、おばちゃんはそんな事は一言も言っていないのだが、今それに対して突っ込める者はいない。
何せ、食堂でおばちゃんの呟きを聞いたのは彼だけなのだ。
その彼の発言を聞いた文次郎、最初は目を瞬かせていたが、徐々に腕を組んで悩むような素振りを見せ始める。
「ウナギ定食、か・・・・。」
口の中で呟くように言うと、ニヤリと口元を吊り上げた。
会計委員長の眼に熱意が篭ったような気がして、思わず滝夜叉丸達はギクリとしてしまう。
何となく嫌な予感を覚えている後輩達になど気付かず、文次郎はこう返してきた。
「いい考えだ小平太!丁度、最近たるんどる会計委員の後輩達に何か良い鍛錬はないかと悩んでたトコだったんだ。」
やる気満々の強気な笑顔を見せる文次郎に、青ざめる滝夜叉丸達。
まさか、ウナギ獲りが会計委員会にまで伝染してしまうとは・・・・と、後悔してももう遅い。
会計委員会に同級生がいる者―――――滝夜叉丸・三之助・金吾は、流石にこの時ばかりは内心で謝罪したという。
「早速後輩達を連れて行くか!」
「じゃあ、今日の委員会活動は体育と会計で合同だな!」
すっかり二人だけで盛り上がってしまっている最上級生達を止める術は、最早ない。
―――――そう、思われた・・・・が。
「ダメだよ、小平太に文次郎!」
「うわ!」「善法寺先輩!?」
不意に真後ろから聞こえてきた大声に、四郎兵衛と金吾が肩を跳ねさせる。
その場にいる全員がとっさに声のした方を見ると、そこには金吾の言った通り保健委員長の姿。
妙に真面目な表情で立っているのだが、その両腕には大量のトイレットペーパーが抱えられているのでどことなく滑稽である。
思いがけない話への乱入者に驚きつつ、滝夜叉丸が尤もな事を問う。
「ぜっ・・・・善法寺先輩?一体、いつからそこに・・・・。」
「え?小平太が、『ウナギ捕まえに行くぞ!』って言った辺りからかな。」
「最初っからじゃないですか!!」
だったら、もう少し早く止めてくれても・・・・とは、体育委員後輩一同の心境である。
だが、伊作の制止のお蔭ですぐウナギ獲りに向かわずに済むのも事実。
なので、内心で・・・・というよりオーラ全体で安堵する体育委員達だったが、対照的に委員長二人は不満のようで。
「いさっくん、何がダメなんだ?」
「川でウナギ獲りなんて、最高の鍛錬じゃねぇか。」
眉根を寄せて不服を洩らす小平太と文次郎を半眼で見つめ、伊作は大きく溜め息を吐く。
それから、どこか呆れたように、しかし諭すように言う。
「・・・・・・あのねぇ。君達二人はどんな猛吹雪が吹き荒れる雪原に二十四時間棒立ちしてても死ななそうだけど、君達の後輩は違うんだよ!特に下級生!一年生から三年生なんてまだ身体の基礎もちゃんと出来てないんだから、冬の川なんかもっての外だよ!てゆーか、ウナギって冬より夏の方が美味しいよね!」
冒頭部分は、同級生に対してなかなかに酷い事を言っている。
その上、最初と最後では言っている内容があまり関係していない。
しかし、彼の言葉を聞いていたその場の一同はそんな事はどうでも良かった。
何せ、一番気になったのは最後の「ウナギは冬より夏」の部分だけだったのだ。
「ウナギって、夏の方が美味しいのか・・・・!」
初めて知った、と言わんばかりに目を見開いて唸る小平太。
思ったより深刻な表情になってしまった彼に、伊作もギクリとして恐る恐る確認を取る。
「え・・・・アレ?確かそうじゃなかったっけ?スタミナをつける為に、ウナギってよく夏に食べるよね・・・・?」
同意を求めるべく体育委員の後輩達の方に視線を送れば、彼らは揃って必死に首を縦に振る。
ウナギは夏が美味いという事が事実かどうかより、ウナギ獲りというある意味地獄の鍛錬コースから逃れられればいいのだ。
とりあえず、現在滝夜叉丸達は心の中で完全に伊作を応援していた。
一方、伊作に言われてそういう話を聞いた事があると思い出した文次郎は、
「そういや、夏によくウナギって耳にするよな・・・・。」
「ホラね、やっぱり夏でしょ!?って事で、今日はウナギ獲りは止めて夏にしなさい。」
「―――――え。」
伊作の最後の一言に、今まで彼を応援していた滝夜叉丸達の動きが止まる。
四人揃って固まっている後輩達など全く気にせず、六年生達の話は進む。
「そうだな!夏の方が川の水が気持ち良いし!よし、そうしよう!」
「じゃ、会計委員も夏にするか。帳簿の計算の合間に行うのも悪くない。」
あっという間に時期変更のみで解決してしまったウナギ獲りの話。
てっきりその話自体中断してくれると思っていたのに、まさか夏まで延期とは。
伊作の提案に文句はないようで、小平太も文次郎もすっかりその気である。
確かに川に入るのなら冬よりは夏の方が良いが、それが委員会の活動内容というところに問題があるのだ。
この体力底無しの委員長達に、川で一体どんな無理難題を告げられるのかと考えると物凄く不安だ。
恐らく・・・・いや、ほぼ確実に、ウナギ獲りのみで終わるはずがない。
夏の地獄絵図を想像してしまい思わず身震いした滝夜叉丸が、とっさに先輩を呼ぶ。
「せ・・・・先輩方!」
「ん?」
「本当に・・・・・夏に、川へ行くのですか・・・・?」
ごくり、と息を呑んで慎重に尋ねれば。
目前の体育委員長は、ニカッと実に清々しい笑顔でこうのたまった。
「勿論だ!楽しみだな!」
「・・・・・・・・・・。」
あまりの明るい笑みに、無言になって立ち尽くす滝夜叉丸。
呆然としている彼の前で、六年生達はすでに別の話を始めている。
とてつもなく自由奔放な最上級生達を見て、体育委員の後輩達は滝夜叉丸を慰めるしか出来なかった。
(・・・・・先輩、一緒に頑張りましょう・・・・。)
『廻りゃんせ』序・留三郎編(食満+仙蔵)
人生十五年間、自分は目立たないタイプとして生きてきた。
大人しく消極的で、行事等でも表立つ事はない、気弱な生徒。
中等部まではそれで通っていたし、実際そういう性格だったのだが、それは高等部進学と同時に一変する。
*****
それは、高等部に進学して二日目の朝。
目が覚めると、物凄い違和感に襲われた。
起きて目にするつもりだったものと、実際目に映ったものがあまりにも異なり過ぎていた。
天井に設置されているライトを見つめて、ベッドの上で呆然とする。
この時代に、ライトなんてあっただろうか―――――と。
いや、違う。あっているのだ。
今は文明も発達した二十一世紀。
“あの頃”のように、板目だけの天井ではない。
そう考えて、初めて気付いた。
自分は、たった今“あの頃”―――――前世の記憶を思い出したのだと。
その事を理解したとたん、ガバッと飛び起きて下段のベッドを覗く。
そこに、すでにルームメイトの姿はなかった。
どこへ行ったのかと周囲を見回せば、ルームメイトの机の上に一枚の紙が置かれていた。
慌ててベッドから下りて、紙に書かれている文章を読んで、彼が部屋にいない理由を把握する。
『保健委員の用事で、先に校舎に行ってます。』
新学期の始まりは、健康診断や身体検査がある為、保健委員にとっては忙しい時期だ。
また不運な目に遭っていなければいいが・・・・などと考えながら、急いで着替えを始める。
早く、彼に記憶が戻ったと伝えたかった。
思えば、彼が話しかけてくれるようになったのは、中等部二年の冬から。
それまでは殆んど話した事もなかったのに、何故急に優しくなったのかと不思議に思っていたのだが、今ならわかる。
恐らく、彼は丁度その頃に前世の記憶を思い出したのだろう。
せっかく彼が積極的に話しかけたりしてくれていたのに、自分は約一年間も記憶を思い出すのが遅れてしまった。
「・・・・・・後で謝んねぇとな。」
ポツリと呟いて、着替えが終わったのでカバンを抱え部屋から出る。
委員会の用事という事は、保健室へ向かえば彼と会えるだろう。
ドアを閉めて鍵をかけ駆け出そうとすると、丁度向かいから誰かが歩いてきた。
「・・・・食満。ネクタイが曲がっているぞ?」
緩やかな微笑を浮かべてそう言ってきたのは、“あの頃”からの同級生。
彼は、人差し指でこちらのネクタイを示す。
見下ろしてみれば、確かに紫色のネクタイが少々右に曲がっていた。
慌てて着替えたので、ネクタイの事まで気にしている余裕がなかったのだ。
軽く眉根を寄せながら、渋々ネクタイを直しつつちょっとした嫌味のつもりでこう言ってやる。
「・・・・・お前、風紀委員になってから作法の時より口うるさくなったんじゃねぇか?」
瞬間。
こちらの言葉を聞いた相手の切れ長の双眸が、大きく見開かれた。
かすかに震えた口元から零れる、驚愕の声。
「おま、え・・・・・“留三郎”か・・・・!?」
先程と、自分に対する呼び方が異なっている。
どうやら、こちらに記憶が戻ったと気付いたらしい。
“あの頃”から考えても滅多に見れなかったあまりの驚きの表情に、思わず笑みが零れる。
「なーに言ってんだよ、仙蔵。」
不敵に笑って、続ける。
「俺は、今も昔も“食満留三郎”だぜ?」
その一言に、相手は最初きょとんと目を瞬いていたが。
すぐに普段のような艶のある微笑を浮かべて、「そうだな。」と返してきた。
(―――――ほら、こんなにも。)
(この世界は、“あの頃”以上に輝いている。)
『廻りゃんせ』序・伊作編(伊作+食満)
中等部二年生の途中まで、自分は不良と呼ばれる部類だった。
授業の遅刻サボリは当たり前、勉強だってロクにせず気の合う仲間と遊んでばかりの日々。
その生活に別れを告げたのが、中等部二年の冬。
冬休み入る直前の、終業式の日だ。
その時の自分はまだ、終業式なんて教師達が長話するだけだろうくらいにしか思っていなくて、勿論友達とサボろうとしていた。
けれど、たまたま逃げようとしたところを担任に見つかって、強制的に出席させられた。
学園長の話は突飛な事で有名で、終業式でも何を言っているのか理解し難かった。
暇な式に、思わず欠伸が洩れる。
早く終われ、そしたら遊びに行けるのに・・・・と、そんな事ばかり考えていて、後半の話など全く聞いていなかった。
実際より物凄く長く感じた終業式が終わり、寮へ帰る道。
外は寒い空気に覆われていて、鼻を啜りながらふと前方を見やった。
その時目に入ったのが、ルームメイトの後ろ姿。
自分とは正反対の性質の人間だったので、一年の頃からルームメイトでクラスメイトだったというのに、今まで殆んど話した事がなかった。
―――――ない、はずなのに。
何故か、その背中を見ていて涙が出そうになった。
理由もわからず胸が締め付けられるように痛くて、苦しくて、悲しかった。
前を歩く背中と、別の誰かの背中が重なる。
萌葱色の、装束。
知らないはずなのに、知っていた。
・・・・・いや、知らないのではなく、覚えていなかったのだ。
ドクン、と心臓が大きく脈打った。
視界が、涙で一気に滲む。
頬を伝った雫が、ポタリとアスファルトの地上に落ちて消えた。
そして、全てを思い出した。
自分は・・・・遥か遠い昔―――――数百年も過去に、闇に生きる忍びだったのだと。
かけがえのない大切な仲間達と学び合い、助け合い、彩りある日々を駆けたのだと、思い出した。
流れ込んでくる記憶の量に、心が懐かしさで満たされていく。
こんなに大事な思い出を、どうして忘れていたのだろう。
“あの頃”も同じ組で同室だった彼と、とっくに再会していたというのに。
学園にだって、“あの頃”の友の姿があるというのに。
幾度となく、廊下ですれ違っていたのに。
彼は―――――今目前を歩いている彼は、“あの頃”の事を覚えているのだろうか。
性格も“あの頃”と異なっているし、話しかけてもこない事からして、恐らく覚えていないだろう。
というより、今までの自分を恐れて避けているかもしれない。
何せ、つい数分前までの自分は、結構な問題児だったのだ。
その印象だけは、何としても改めなくては。
そう思い、零れた涙を右腕で拭って、彼に追いつく為に足早に歩く。
彼と同じ位置まで辿り着き、横に並ぶ。
自分の事に気付いていないらしい彼に、優しく声をかけた。
「・・・・・・やぁ、留三郎。」
瞬間、ビクリと彼の肩が強張る。
「・・・・・え・・・・・。」
おどおどとした様子に、やはり恐がられているのか・・・と多少落ち込んだが、こんなところでめげている訳にはいかない。
また、彼と―――――そして、学園にいる彼らと“あの頃”のように楽しく過ごす為に。
訝しげに・・・・というより、不安気にこちらの顔を見つめてくる彼に向かい、ニコリと微笑む。
それから、口を開いた。
「また、これからもよろしくね。」
(―――――もう、大丈夫。)
(“あの頃”のように、君とまた笑い合えるよ。)
性 別 | 女性 |
誕生日 | 2月16日 |
地 域 | 神奈川県 |
職 業 | 大学生 |
血液型 | O型 |