俺俺詐欺には名を名乗れ!

無意味な前置き楽しくなってきた。


さて、今回は乙一さんの新作「箱庭図書館」の感想です。
ネタバレ(というかあらすじバレ?)ありです一応注意。



では。
乙一さんの新作が出た、と大々的に書店で売られておりまして、ほいほい釣られて買ってしまいました。ので、読み終えたら感想でも書こうと意気揚々としていたわけなんですが……。

ガッカリした。

全部で6つの短編が織りなす、ほんのりと群像劇も交えたような単行本だったのですが、とりあえず初めに思ったのは「乙一さんらしくないなあ」ということ。

それもそのはず、「素人のボツ作品を募集し、それを乙一が乙一流にアレンジするという企画」からできたのがこの「箱庭図書館」なのだそうで。なんじゃそりゃ! しかもそれをあとがきで書くもんだからぐったり感倍増です。

乙一さん独特の世界観(明るく切ないものなら「しあわせは子猫のかたち」、暗いものなら「夏と花火と私の死体」の雰囲気が好き)というものがあまり感じられなかったのは、元ネタ(?)が御本人じゃなかったからなんですね。道理でモヤモヤしたんだ。



別に「箱庭図書館」を作る際に集められたネット上の作品・発想を貶すつもりではないのです。



「青春絶縁体」はまずもう「絶縁体」という単語を選ぶセンスが素敵だと思いますし、ぐっと惹かれました。「王国の旗」は童話を読んだみたいな感じで、それでいて境界人という難しさ・揺らぎも兼ね備えてある、面白いお話だったと思います。


でも、それぞれが素敵だったからこそ、乙一さん一人を押し出すような売り方をして欲しくなかったと個人的に思いました。帯に企画名はちょろっと書いてあったけど、その企画を知らないこっちとしては書店で検索できるわけもないし、どでかく「乙一」って見たら買っちゃうって……思うのは、私が作家買い・衝動買いをしてしまうせいだと起こられてしまうかもしれませんが。こう、乙一(原案プロジェクト〜)とか、何かしらできたんじゃないのかな。


文体が乙一さんなら良いじゃない、と思われるかもしれませんが、企画のことを知らなかった時点ですでに文章がらしくないなあと感じてしまった辺りなんだかなあ。文体が量産型のラノベ作家のよう、いえ乙一さんがラノベ出身であることも知っておりますしラノベの文体にはラノベならではの良い点や楽しまされる点があるのも重々承知しておりますが、要はきらりと光るタイプではない軽い文章になってしまったなあと思ってしまいました。前半で特に感じたので、ひょっとするとテーマに合わせて文体の調節をされたのかもしれませんが、それだけではどうにもならない違和感を覚えました。


そもそも人のアイデアを焼き直すのと、自分の中から生み出していくのでは、あらすじと表現の間に感じられる齟齬がよりいっそう大きくなると思うんだよね。よくもまあそんな難しい企画やってのけたもんだ。


とまあ、一読者であることを良いことに酷いことばっかり言ってしまっていますが、中でも「ホワイト・ステップ」は良かったです。文章もしっくりくるし、おおまかな部分は酷似しているけど、ちょっとした小ネタにくすっときた。有意義な正月のくだりも好きだ。一番違和感が無かった。


各作品の登場人物をリンクさせる、というのも私事で悪いけれど最近よく出会った手法なので、またこういうのかーと思ってしまった。それを言ってしまえば使い古された手法をいかに自分のものにするかが創作の一部分でもあるわけだから、この点は本当に私自身の愚痴なんだけどね。


なんかなあ。
もう少し別の出会いをしていたら純粋に楽しめたであろう作品もあったので、複雑です。

乙一さん好き! という方にはあまりオススメしません。
話題の本らしい、面白そうな話を読んでみたい、などなどジャケ買いのノリで買うのでしたら(加えてラノベに近い軽い表現も平気なら)、良いのではないかと。


せっかくの別名義なら黙々とやって頂きたいと思わないでもない終わります!