【脳波をα波にする訓練】

  この訓練は器具を用いた訓練だった。
  通販で買った物だ。
  弁当箱くらいの箱からコードが伸びていて、その先に、血圧を測るような感じの小さいもので指を巻くようになっているだけの単純な装置だった。
  マジックテープで指に巻き付け、スイッチを入れると、箱に付いている赤いランプが点滅する。
  しばらくしているとランプの色が緑に変わる。
  緑色になると脳波がα波になったことを示すのだそうだ。
  その時に、「おっ、変わった!」などと余分なことを思うと、ランプが赤になってしまう。
  それを繰り返していくうちに、脳がどんな風な状態がα波の状態かを覚えていき、赤から緑に変わる時間が短縮されていく。
  このような訓練を通して、僕は脳波をα波にしていくテクニックを身につけていったのであった。

  しかし、おわかりのように、これは脳波の状態を直接計っている訳ではない。
  脳波がα波に変わることで自律神経が副交感神経優位に傾き、そのことによって指先の毛細血管が拡張し、血流量が変わったことを示していたのだった。
  だが、当時は、その生理的な反応(生理学的な理論)には頭が及ばず、僕は脳波をα波にする訓練のみに夢中になっていた。