ダイアモンドダストとプロミネンスの頃の二人。
バーンがやや襲い受け。
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ダイアモンドダストとプロミネンスの頃の二人。
バーンがやや襲い受け。
跪いて、膝にキスをする。
犬か猫にするみたいに、髪をくしゃくしゃと撫でると、その手を取り、手の甲に、指先に、指の節にキスをしてくる。
こんな恭しくキスをする姿を他の奴等に、特にプロミネンスのメンバーやグランに知られたら、バーンはきっと、研究所の最上階から飛び降りるだろう。
「理解に苦しむよ」
ガゼルが忌々しげに呟く。
「私と君は志こそ同じだが、敵同士だ。それ以前に、私も君も男じゃないか」
バーンを見下ろす目線は冷ややかだった。しかし、その温度は軽蔑というより怯えを含んでいた。
「別にどーでもいいだろ、あんたは嫌か?」
そう尋ねるのはあくまでポーズだ。ガゼルが答えを言うかどうかも気にせずバーンは言葉を重ねる。
「俺は正直、あんたは俺の邪魔さえしなけりゃ好きだぜ」
ガゼルは別に邪魔をしているつもりはない。
ただ、ガゼルにとってバーンが邪魔なだけだ。
邪魔な存在。
そう留めておきたかったのに、ガゼルの中でバーンの存在は膨らみ続け、余裕を失わせるほどに圧迫する。
チームのメンバーにだけ見せる屈託のない表情を、自分にも向けてほしいと胸を痛める。
「君が好きなのは私じゃなくて、スリルじゃないのか」
試すような言葉だ。
バーンの表情を伺いながらも、ガゼルは続けた。
「いけないことをしている、バレてはいけない、そのスリルを楽しんでるだけじゃないのか」
そうであってほしいし、そうであってほしくない。この関係が冗談であってほしい反面、真実であってほしい。
一見矛盾しているようで、ガゼルの中ではこの二律は背反することなく存在している。
中途半端な愛情に期待して裏切られるのはたくさんだった。
同じように捨てられてここへきたバーンはそんな訳がないと信じたかった。
そうでないなら、全てが最初からなかった方がマシだ。
全てか無しか必要ないのだ。
「へえ、そう見えるか」
「……見えるとも」
バーンは背徳感に酔ってるだけじゃないのか。そう疑わせるような物言いばかりだ。
「じゃあもっといけないこと、してやろうか」
「断る」
即座に切り捨てたが、既に遅かった。
サッカーの実力は拮抗していても、純粋な腕力だけではバーンの方が上だ。あっという間に押さえ込まれ、組み敷かれてしまった。
「そう言うなよ」
バーンが鼻先が触れそうな距離まで顔を寄せる。
ガゼルはいつものようにキスをしたい、なんて考えを持ってしまった自身を恥じた。
垂れ下がる赤い前髪が目に入りそうで、思わず目を細める。
「やめろ、離してくれ」
捕まれた腕を振りほどこうと抵抗をすると、バーンの指先が腕に食い込む。
「なんだよ、やめていいのか」
バーンは余裕を装うが言葉尻が震えている。
腕の力だけでは引き剥がせない。
ガゼルはやむ無く、バーンの腹を蹴りつけた。
バーンは小さく咳き込み、片手で腹を押さえた。
もう片方の手は相変わらず腕を掴んでいたが、力はほとんど込められておらず、振りほどくのは簡単だろう。
「何すんだよ……」
「調子に乗るな」
呻くような声を、鼻で笑った。
「私はいらない、こんなもの……知られてはいけない関係なんて馬鹿馬鹿しい」
ガゼルは自覚していた。
家族も友情も形をなしたかと思うと崩れてしまう。だから自分は形ばかりを求めてしまうのだと。
「私はこんな知られてはいけない関係より、友人としてで構わない、人目を気にしないで話したり、出掛けたり……そういうことの方がずっといい」
誰が見ても一目でわかる、わかりやすい形が欲しいのだ。
小さくても歪でも構わない。崩れて指の隙間から溢れてしまわず、あり続けてくれるのならそれでいい。
「それは間違ってることなのか」
まっすぐに見つめるガゼルからバーンは目をそらせなかった。
握りしめていた手を放し、指先をシーツに広がった銀髮に差し入れる。
「俺達がジェネシスに選ばれたら、いくらでも話してやるし、どこでも連れてってやるよ」
バーンは、覆い被さるように額に口付けて髪を撫でた。
バーンはずるい。本人には聞こえないくらいの小さな声でガゼルは呟いた。
結局は、争うしかないのだ。
形が欲しいのなら、勝てばいい。
そうすれば、あの方がいくらでも叶えてくれる。
バーン相手に不確かなものを探らなくていいのだ。
「……選ばれるのは私達だ」
本当に欲しいのは形ではなく、その中身であることは、それが目の前にあることは気づかないふりをした。
END