恋愛未満な感じのリウとジェイル。
タイトル考える気力がなかったです。
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恋愛未満な感じのリウとジェイル。
「リウは俺の後ろにいろ」
振り返ったジェイルの纏められた金髪が、彼の逞しい背を滑る。
以前は頼もしいと感じていたこの言葉が、鬱陶しいと感じたのはいつからだろう。
シトロ村にいた頃は感じたことのない気持ちだった。
星の印を得たからか、それとも秘枢たる線刻の書を得たからか。
どちらにしろ力を得たから、もう守られる側の俺じゃないから、そう感じるのだろう。
無意識に握りしめていた拳を解いて、顔の前でやや大袈裟に振る。
「やだなー、そんなに心配しなくても大丈夫だって」
軽口のように言うと、ジェイルは黙ってこっちを見つめるだけだった。その目は睨んでいるようにも見えた。
その日も結局、俺の隊列はジェイルの後ろだった。
星の印で強い魔法も使えるし、後列だからあまり攻撃もされない。誰かが怪我をしたら回復だってしたぐらいだ。
それでも、またジェイルは明日も同じ台詞を言うのだろう。
「あのさー、そんなに守ってもらわなくても、もう大丈夫だよ?」
翌日、ジェイルが口を開くのと同時に、昨日より少しだけ真剣に言ってみたつもりだった。ジェイルの反応が少し怖くて、酒場の天井あたりに目線を泳がせる。
特に反応がないので視線を戻すと、ジェイルは言葉を探すように一度口を開け閉めすると、躊躇いがちに、
「その方が、安心する」
と呟いた。さすがにストレートに、俺が弱いと言うのは気が退けたのだろう。
「安心って……みんな自分のこともあるのに俺の心配までしてたら大変じゃん」
ジェイルに比べたら口は達者な自覚はあるので、説き伏せることは出来なくはないと思った。
「それに俺もうそんな弱くないし」
「そうか……」
それきりジェイルは黙る。ジェイルは言葉よりも無言の方が妙に圧力がある気がする。出会って3年経った今でも、ときどき何を考えているか分からないから、そう思うのかもしれない。
「それにこう見えて俺、年上なんだよ。オニーサンだよオニーサン」
その圧力に押し負けないよう茶化すと、ジェイルは何故か口元を緩めた。
確かに昨日より真剣に、でも険悪にならないよう茶化したのは俺だけど、そこは笑うところじゃない。
なんとか、その微妙な感情を伝えようと言葉を探しているとジェイルが先に口を開いた。
「俺は別にお前が弱いと思ったから、後ろにいろって言った訳じゃないぞ」
「え?」
驚いて妙に高い声が出てしまった俺を見て、ジェイルはわずかに目を細め、そのまま目を伏せた。
「確かに前は心配だった。でもお前は今は充分強くなった」
目を開くと確認するように俺の顔を見つめ、
「そうだろう?」
と言葉を重ねた。
言いたいことをほとんど言われてしまい、なんだか気恥ずかしい気持ちがじわじわと沸きだしていた。
「だけどまだ近距離の攻撃への対応が遅れることがあるからな」
「……ごもっともです」
さらに正論を突きつけられると、いくら言葉を武装しても勝てるわけがない。
ジェイルは俺の目から視線を外し、エントランスに向かって歩きだした。
呼び止めるにも呼び止める言葉もなく、後を追いかけると、突然ジェイルは足を止めて、口を開いた。
「後ろで援護してもらえると助かるのもあるから、やっぱりリウは俺の後ろにいてほしい」
後ろ姿だから表情は読めないが、言葉は至極柔らかいものだった。
以前は頼もしいと感じていたこの言葉が、鬱陶しいといつからか感じていた。
その理由は、自分ばかり守られている気がしていたからかもしれない。
でも実際は、こういうことだった。
「仕方ねーなあ。後ろから守ってやるよ」
駆け寄って帽子の上から頭を掻き混ぜるように撫でつける。ジェイルは黙って俯いたままだ。らしくないとは言わないが、少し意外な反応だった。
「なんだよ、反応薄いなー。どうかしたのか?」
顔を覗き込むと、ジェイルは耳まで真っ赤にして、目が合った瞬間に俺から顔を背けた。
「……いや、なんでもない」
「あ、ああ、そう」
そう絞り出された言葉に、こっちまで妙な心地になってしまう。
妙な心地は、エントランスに出たところで、俺たちを急かすマリカの声が紛らわせてくれた気がした。
END