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4月26日 ろまんちっく、ばぶりしゃすべいべー 続き(ハルアベ)

「誰?」
「んー?」
ボヤけた返事のまま隆也が携帯ごと戻ってくる。

「そういえば、昨日、榛名さん送ってきたよ」
「あ? おう、サンキュ…」

イスに座ったところに声をかけると、案の定隆也の顔色は複雑なものになった。

無表情を努めて保とうとしている表情だ。
「誰?」
「んー?」

ボヤけた返事のまま隆也が携帯ごと戻ってくる。

「そういえば、昨日、榛名さん送ってきたよ」
「あ? おう、サンキュ…」

イスに座ったところに声をかけると、案の定隆也の顔色は複雑なものになった。

無表情を努めて保とうとしている表情だ。

「榛名さんって優しい人だね」
「はあ!?」

グリッと音がしそうな勢いで隆也がシュンの方を向く。

シュンが欲しかった反応だ。

「まあ、丸くなったことは認めるけどよ…」

隆也は口をモゴモゴさせている。

「そりゃ、まあ、いまみたいな気遣いを、現役の頃にもっとできてりゃ、まだましなバッテリーになれたとは思う」
「いまみたいって、どんな?」

そう言いながら、シュンは隆也の持つ携帯に視線を注いだ。

隆也の顔が赤くなる。

「…電話、とれなかったらメール送ってきたんだよ。体調よくなったかって。…無理してるヤツみてても楽しくねーんだよって、腹立つことまで送ってきてる」
「ムカツク。メール返す気、失せるんだよな」
「じゃあ、電話にしたら?」
「はああ?!」

兄の隆也は面白いほど顔色を変えた。

4月16日 ろまんちっく、ばぶりしゃすべいべー 続き(ハルアベ)

>
「普通、ねえ」
「んだよ」

シュンの含みのある言い方に、ピクリと隆也の眉が動く。

それを見てとったシュンは言葉を続けず、テレビのニュースの方に意識を向けた。

テレビの向こうでは、どこかの町の防災の取り組みが紹介されている。

突然、携帯が鳴る音がした。
人というものは無意識に呼び出し音に敏感になってしまうものである。
シュンも、それが自分の携帯のものではないとすぐに分かったが、それでも音のした方に目を向けた。

リビングの壁に沿って置いてあるラックの上に、兄が使っている携帯が充電器コードにつながれている。

着信音は鳴り止まない。

隆也は立ち上がると携帯のところまで行った。

しかし、画面に映った相手の名前を確認すると、黙っまで携帯を眺めている。

「出ないの?」

シュンが聞いた。

「んー? ああ…」


隆也は困った顔をしたが、鳴り止む気配がない電話をとうとう持ち上げた。

「はい」

だが、そのまま隆也は黙る。

「切れた」
「え?」
「でる前に、ちょうど切れた」
「そうなんだ、誰?」

隆也は黙ったまま、携帯を握ってテーブルに戻ってきた。

「べつに…」

そう言った時、また隆也の携帯が鳴った。

今度はメール着信音だ。

眉をしかめながらも、隆也の指はスッと携帯を操作する。

そして一層、眉をしかめる。
けれど、その瞳が真剣で、頬のあたりに薄っすらと赤みがさしたことをシュンは感じた。

4月5日 ろまんちっく、ばぶりしゃすべいべー 続き(ハルアベ)

>
「休めてよかった。焦り過ぎてたのかもな」

隆也のつぶやきを聞いて、シュンはまじまじと相手を見た。

「なに?」

隆也が視線に反応する。

「あ、いや。そういうこと言うんだね」
「そういうこと?」
「焦ってた、とか。なんかそういうこと、あんまり言わなかったじゃない」
「そうか?」

兄の隆也は心底、意外そうな顔をしてシュンを見返す。

けれど、その反応こそ、シュンにとっては意外で、つい苦笑いした。

「言わなかったよ、そういうこと、ずっと」

シュンがよく見てきたシニアの頃の兄は、唇を固く結んで、なにかを睨みつけるような目で、いつも前ばかり見ていた。

そしてその兄の視線の先に誰がいたのか、昨日、わくわかった。

「ヤバイとか、無理だとか、結構、オレ、言ってるぞ? この間だって、うちのピッチャーの三橋に、試合中なのに弱音吐きそうになって…」

隆也はさっきの話を続けている。

「言わなかったよ。少なくとも中学の頃は」
「中学? あー…」

隆也がシュンの顔を見た。

「そりゃ、シニアんときは言える相手もいなかったからな。うん、あれはキツかった。…そう考えたら、いまのチームではオレ、だいぶ安心できるようになったのかもな。無理してるって、感知できるだけ、心に余裕があるのかも」
「中学の時は、心に余裕がなかったの?」
「だってよ、榛名みたいな暴君相手にしてたら、ゆとりなんてありえねえよ」
「暴君…? あんまりそうは見えなかったけど」

隆也が黙った。
そうして少し考えるような顔。

「あの人も変わった」

ゆっくり、隆也が言葉にする。

「オレもあの人も、変わった。高校に入って。オレがいまのチーム、いまのピッチャーに出会って、少しづつ自分以外のことが見えるようになったと思う。…あの人も、高校でいい出会いをしたんだろうな。オレとあの人じゃ、お互いの首を絞めあってるだけだったって、いまは思う」
「……でも、昨日、仲良かったじゃない」
「あ?」
「昨日、榛名さんと。スゲー仲良さそうで驚いた」
「そう?」

コクンとシュンがうなづく。

隆也の顔が渋いものになった。

「良くねえし。そりゃ、久しぶりに会ったし、助けてももらったけど。まあ、普通? 普通に話せただけ良かったっていうか」

3月30日 ろまんちっく、ばぶりしゃすべいべー 続き(ハルアベ)

>
翌朝。

シュンがリビングに行くと、もうそこには兄の姿があった。

昨日と同じ席に座り、ぼんやりしている。
テレビからは朝のニュースが流れているが、それも見ているというほどではないだろう。

「おはよう。早いね」

シュンは隆也に声をかけた。

隆也が振り向く。

「昨日からあんだけ寝たからな」

そうか、と適当な返事をしながら、シュンは冷蔵庫に近づい、牛乳を取り出した。

流しの食器洗いカゴの中から、乾いたグラスを取り出すと牛乳を注ぐ。

注ぎながらテーブルの方に声をかけた。

「飲む?」

隆也がこっちを見てうなづく。

2人分のグラスを持ってシュンはテーブルに戻った。

グラスの中身を一気に飲み干すと、お代わりが欲しくなって、また冷蔵庫から今度は大きなパックごと持ってくる。

その間、隆也の方はチビチビと飲み進めていた。

「体調、どう?」
「あー…平気」

隆也がこたえる。


****
よくリビングって書いてたけど、イメージ的に、ダイニングキッチンだったかな…と思った今日この頃です…。

3月25日 ろまんちっく、ばぶりしゃすべいべー 続き(ハルアベ)

シュンは帰宅すると、まだリビングにいる両親に、榛名を無事に見送ったことを伝えた。


兄の隆也はあの後、また眠ってしまったそうだ。

シュンな はそのまましばらくリビングにいて、デザートとして冷凍庫から取り出したアイスを食べた後、歯を磨くために洗面所に向かった。

帰宅してから両親とも、皆、元希と兄の話しを話題にはあげなかった。
けれど、母は元希が使った食器を洗っていたし、父親は元希と言葉を交わした席にどっしりと座ったまま、どこかボンヤリとテレビを見続けていた。

シュンは自分の部屋に向かう途中、隆也の部屋を覗いてみた。

薄暗い部屋の奥、ベッドの上に眠る兄の後頭部が見えた。

静かな寝息が聞こえる。

一番知っているようで、その実、一番わからない存在なのかもしれない。

そしてその兄が、なやみながら求めていたもののひとつを知ったと思った。
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