紅茶一杯。



霊幻さん拾った(律霊)
2017年5月29日 16:16


話題:二次創作文

※モブサイコ100
※律霊注意
※サラッとキスあり注意
※長い注意


茂夫から焦った声で『師匠が行方不明になった』と電話で聞いたとき、律は言えなかった。

「霊幻さんなら今隣で寝てるよ。」と。



大学生になり、実家から出て部屋を借りた。一人暮らしもあまり苦にはならなかった。元から家の手伝いをしていたから、家事はある程度仕込まれている。
一人の時間も楽で落ち着く。律は一人暮らしに向いていた。対して茂夫はどちらも反対だった為、実家に留まった。
調味市から距離があり、帰省には1時間半ほど電車に揺られる距離。律としては落ち着く距離だった。今は特にそう思う。


「おかえり、律。」
リビングのソファーで寛ぐ霊幻が、帰宅した律に笑顔で言った。
「ただいま。」
霊幻の側までくると、テーブルに視線がいく。白い紙には、書き散らかした沢山の文字。
「……なにか思い出せましたか。」
「いや、なにも。」
霊幻は苦笑する。律も苦笑した。
ある雨の日、律はびしょ濡れで道端に転がる霊幻を拾った。
部屋で目覚めた霊幻は、茂夫に会った時からの記憶を失っていた。
「早くお前の事ちゃんと思い出すからな。」
申し訳なさそうに笑って、頭を撫でてくる。律はその手を素直に受け入れ、目を閉じる。
思い出して欲しくなかった。
思い出したら、帰ってしまうから。
目を閉じた律に口付ける霊幻。別に催促したわけじゃないんだけどな、とほんのり頬を赤らめる律に、霊幻はくすぐったそうに照れて笑った。
律は霊幻のこんな顔を知らなかった。


思い出せない霊幻に、本当の事と、嘘を何割か混ぜて話した。なぜそんな事をしてしまったのか、その夜後悔したが、隣で眠る霊幻を見たら心がチリチリ痛んで、でもとても甘美で、本当の事を言う気になれなかった。


『付き合ってました。』律はそう嘘をついた。霊幻は性別を確認し、仰天しつつも最終的に受け入れた。罪悪感から暗い顔で告げた律の姿が、霊幻には言いにくい二人の関係を怯えながらも伝えてくれた様に見えた。なので、言いにくい事を言わせて悪かったな、恋人に負担を強いたな、と労った。律は思わず涙をこぼし、霊幻はお前を忘れて悪かった。ごめんな。と優しく抱きしめた。恋人を忘れるなんて、最低だった。と謝罪され、律は更に涙が溢れたが訂正はついに出来ず、震える手を霊幻の背中に回してすがり付いた。


いつから好きだったんだろう。律は隣で眠る霊幻を見つめた。苦手な相手だったのに、いつの間に。
兄の『師』を、自分が思うよりも務めていたからだろうか。
兄を一番に考えて動いてくれていたと知った時だろうか。
それとも…
(兄さんが、好きだった人だからだろうか。)
大好きで敬愛している兄がとても大事にしていた人。それだけで、価値は確かにあった。
でもそれならば、兄の想い人に行くのではないか。律は考えた。
(高嶺さんは、苦手だった。)
美人だったけど、あの目で見られるのが怖くて苦手だったな。と思い出して、隣の霊幻を抱き寄せる。
霊幻の香りがして、寝息と体温があって、律は安堵した。普段ならば他人の気配や温もりは落ち着かないのに。律は再び考える。
(霊幻さんだって苦手なのにな。どうしてだろう。)
違いはなんだろうか、と目を閉じると、霊幻が背中に腕を回してきた。包み込む優しい抱擁に、ひどく落ち着いた。守って貰っているような気持ちになる。
(守って貰ってる……?)
それでなんとなく、腑に落ちる。
霊幻は記憶のない今でも『大人』で、『保護者』なのだ。そしてそれは以前まで兄に注がれていた。それが今は、律に向けられている。
(そうか、僕はこれが。)
味わいたかったのか。これが欲しかったんだ。と気付き、霊幻にしがみついた。霊幻は意識がないまま、律の背中を撫であやした。
(兄さんが受けていたものを、僕も体験したかったんだ。)
律は小さく笑い、霊幻の胸に顔を埋めた。
(確かに、こんなもの貰ったら……)
好きになるに決まってる。兄は正しい。間違っていない。そう確認出来て嬉しかった。
昔、霊幻を疑り深く見ていた自分を鼻で笑う。

やっぱり僕は間違っているんだ。兄さんは正しいんだ。

その答えに律は安心し、霊幻の温もりに促されるように眠りに落ちた。



『律。一度帰って来れる?』
電話越しの茂夫の声は暗い。
「どうかな……ちょっと色々と予定を詰めすぎちゃったから。」
近況報告を続ける律に、茂夫がポツリとこぼす。
『ねぇ、律。もしかして、霊幻師匠の居場所を知ってる?』
体が硬直する。冷や汗が浮かび、必死に平静を装う。
「なんでそう思ったの?」
『だって、何にも聞いてこないから。律なら、必ず師匠が見つかったか聞くでしょ。律は優しいから。心配してないって事は、知ってるからでしょ?』
「そ……」
そんなこと。と言葉は続かなかった。
『律、知ってるならいいんだ。師匠は無事なの?怪我とかしてない?大丈夫なら、いいんだ。だから……』
知ってるなら教えてよ。茂夫の言葉に息を飲む。
「し………ら、ない。でも、そうだね……霊幻さんは大人だし、案外しっかりしてるから、僕も気にしないようにしてた。まだ見つかってないなら、心配だね。僕も……調べてみるよ。あては、ないけど。」
律、本当に?本当に知らないの?
茂夫の言葉を遮るようにもう寝なきゃ、と話を切り上げた。
ソファーにいた律は携帯を隣に置き、頭を抱える。風呂から戻った霊幻はタオルを首にかけていた。
「どうしたんだ律。また兄貴か?」
携帯をテーブルに移し、律の隣に座る。丸まった背中に手を置き、慰めるように笑いかける。
「兄さんに、また嘘をついてしまった……」
「人間生きてりゃ何度も嘘をつくさ。ついたことない奴なんかいない。」
「でも僕のは悪質な嘘です。」
「……まぁ、真摯に謝れば許してくれんだろ。お前の兄貴なら。」
律は納得してない顔ながらも、霊幻を抱きしめた。
「お前顔に似合わず甘えただよな。」
もっとクールで一匹狼みたいな奴かと思った。と霊幻に言われ、律は笑う。
「多分あなたのせいでしょうね。」
「えぇ……俺のせいかよ……なんでだよ……」
困惑する霊幻に
「甘やかすからですよ。」
と律は目を閉じた。
「………そりゃあ、突き放せる訳ないだろ。」
大事な弟子の弟だし。
霊幻の言葉に預けていた身体を起こす。
「霊幻さん!?」
驚愕する律に、霊幻は苦笑する。
「実は昨日、記憶戻ったんだ。」
ショックのあまり茫然としている律に、霊幻は頭を掻く。
「いや〜〜律くんって、こんな一面あんだなぁ。」
それから腕を広げ、ニコニコ笑顔の霊幻。
「最後にもう一度抱っこしてやるよ。」
「遠慮します!」
顔を赤くして、無防備な腹に一撃入れる律。


「ちょっと新天地で再出発しようかと思ってな。」
茂夫も順調、芹沢も順調、それぞれが新しい道を歩くなか、自分だけが変わらずに居ることに疑問を持ち、考えた末に調味市を出る決断をした。
そしてあの雨の日、偶然にも律の近くに物件の下見に来て、通りすがりの悪霊に生気を抜かれて行き倒れた。
その際に後遺症で一時的な記憶喪失になってしまった。これらは霊幻からの当時の報告を聞いた律が予想した仮定だ。
「そんな物騒な悪霊いるのかよ。やべぇじゃねーかこの街。」
「まず出会さないですよ。良かったですね、モテモテですよ霊幻さん。」
にっこり笑ってやると、霊幻は口元を引きつらせる。
「お前すっかり元に戻りやがったな……」
律君あんなに甘ったれで可愛かったのに……とわざとらしい演技で悲しむ霊幻に、怒りと羞恥に震える律。
「あ、こら。超能力を人に向けるなって…」
見えない手で胸ぐらを掴まれた霊幻が慌てる。
「僕はあなたの弟子じゃない。」
「関係ないだろう。誰だって超能力を人に、敵意を持って向けるのは良くない。相手を怪我させたら、最終的に苦しむのは自分だぞ。」
まっすぐ見つめて言われると、つい目を逸らしてしまう。
「お前すでにいっぱい抱えてんだから、それ以上増やすなよ。」
笑って、律の頬に手を添える。
「霊幻さん……………なんですかこの手。」
親指で唇を撫でたら噛みつかれた霊幻。
「イッテェ!!」
調子乗ってますね、と冷ややかな目で言われるなか、痛みを和らげる為に手を振る。
「仕方ないだろ、俺だって今のは無意識だったんだよ!お前が甘えん坊だったのが悪いんだろーが!人のことすっかり調教しやがって。」
あー痛い。と、噛まれた親指を擦る霊幻に、真っ赤になってフリーズする律。
「とりあえず明日帰るな。モブに会って来ないと。」
「えっ。」
「記憶は戻ったし、普通に帰るよ。物件探してたら悪霊に遭遇して、危機一髪だったが無事除霊したって言えば、まぁなんとかなるだろ。」
なんとかなるわけ無いだろ、と思いつつ、何も言えない律。霊幻の意図が解ってしまったからだ。
律の嘘を無かった事に、しようとしている。律を守ろうとしてくれている。
「最後に一緒に寝るか?」
冗談で言った霊幻に、律は理解しつつ、頷いた。



ベッドで抱きしめあって眠る最後の夜。最初は気まずかったが、霊幻に抱き寄せられ霊幻の匂いを嗅ぐとすぐに気分が落ち着いた。霊幻にしがみつき、顔を埋める。
霊幻が優しく頭を撫でる。今までで一番心地好く感じた。律にとっても、霊幻にとっても。
お互いに内心で名残惜しんでいたが、ひた隠しにしたまま眠った。
相手に知られたら迷惑になるだけなので、自分の中だけに留めておこうと。


翌日、霊幻を送り出した律はソファーでぼんやりと座っていた。部屋のあちこちにまだ霊幻の名残がある。正直寂しかった。
(知らないままの方が、良かったのかもしれない。)
茂夫には想い人がいた。律にはいない。この差は大きい。
霊幻が恋しくて、律はソファーで体育座りになる。顔を伏せて目を閉じると、微かに霊幻の香りがしてるような気がして、少しだけ泣いた。

調味市に向かう電車のなか、霊幻は律の住所近辺で物件をあといくつかピックアップする事を決めていた。





※記憶喪失と、師匠を律が拾う、しか考えてなくて、肉付けしたらこんな事に。こんなことに………
ついでにいうと、やってないです。この二人やってないです。ひたすら添い寝です。
モブが物件探しを知らないのは師匠に会う機会がめっきり減ったから。なので師匠が報告してなかった。事務所はお休みのまま(閉めて下見に行ったから)
そんな感じです。



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モブサイコ100




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