手袋

無事家に辿り着くや、荷物を置き、上着や防寒着を脱いだ。
それらを分別しながら山にし直し、いろいろと確認して、気づいた。

「…手袋が、片方ない」


何度改めても片方しかなかった。
途中までその感触を覚えてるが、生活圏に入ったあたりから自信がない。通過地点の報告をするのに何度も外していたから。
遠くないとはいえは、降り続く雪に消されるか、誰かに幸か不幸か拾われて、わからなくなってしまうか。

せっかくやっと帰って来たのに、また雪の中に戻ることにした。
果てない道のりを思いながら玄関を飛び出した。
駐輪場にさしかかったら、なんてことない。雪の淵にポンと落ちていた。


黒いカワの手袋。榊の海外研修のお土産だった。蚤の市みたいなところで買ってくれたという。お揃いだった。中はファーで、あたたかい。そうして今日も僕を守ってくれた。


大げさではなく、抱きしめて、家に急いで戻った。