猿は何もかもにうんざりしていた。
 主には同居人の犬と羊に苛立っていた。気取りやの犬とは顔を合わせれば喧嘩をしてばかりだし、のんびりやの羊はいつも三日前の話と犬の話ばかりする。猿は羊が好きなのに、羊はどうやら犬が気になってしかたないらしい。猿は目の前で鼻歌を歌うカバの鼻の穴の大きさにすら腹が立った。

 今朝もまた犬と言い争いをした。奮起する猿に向かって、犬は拳銃でも拾ったらおれに向かって引き金を引いてみろと言った。それを聞いて猿は、拳銃でも拾ったら犬に向かって引き金を引いてやろうと思った。そしてその夜、猿は拳銃を拾った。
 ソファでくつろぐ犬を目の前にして、猿は引き金に手をかけた。犬は青ざめて必死で猿を説得しようとしたが、犬が話し終える前に引き金を引いた。銃声。衝撃。続けて銃声。また衝撃。犬は話さなくなった。犬は動かなくなった。犬は冷たくなった。
 足下に落とした拳銃にも気付かず、猿はその場に突っ立っていた。この異常事態にも気付かず、羊はトイレで三日前の新聞を読んでいた。夢中で新聞を読む羊の耳に、銃声が届くのはおそらく三日後だろうと猿は思った。

 一歩も動かないまま、猿はひたすらに考える。これからどうするべきかを考える。けれど答えが出ることはない。ただ三日後、羊がひどく悲しむことのないようにと願う。犬にすがりついて泣く羊を見たくはない。猿は夜中のうちに家を出る。街をさまよい、いつか山へ行く。野を駆ける。木に登る。てっぺんで雄叫びを上げた。



090220



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