ボルゾイ



 ボルゾイのような人に恋をした。綺麗で繊細で力強い。
 彼は甘いものが苦手なくせに、時たま無性にチョコレイトが食べたくなるらしく、月に一度くらいはコンビニで買ってきた板チョコをバリバリと頬張る。綺麗に割って食べる派のわたしには少し抵抗があったけど、そのうちどうでもよくなった。チョコレイトを頬張る時の彼の顔はとても幸せそうだ。
 命令されるのが嫌いで、いつも自分の意思で動きたがる。そのくせ困るとすぐにわたしを見つめる。まるで助けを求めるような、すがるようなその目が何よりも好きだ。突き放したくなる。
 乗り遅れそうになった電車に向かって必死で走っていく姿なんか、まさにボルゾイそのものだった。手足の長いロシアの狩犬。細くて、引き締まった身体。時々まぬけな顔をして甘える。極端な静と動。最後に必死で振り向いた彼に向かって手を振りながら、つかみ所のない大きなボルゾイに、もっと愛されてみたいと思った。



090214



-エムブロ-