くじらちゃん



 久しぶりに家の外に出て、くじらちゃんは何回も瞬きをした。太陽がとても眩しかった。
「あ、くじらちゃんだ!」
 しばらく歩いていると、近所の小さな男の子がくじらちゃんを見つけて駆け寄ってきた。
「くじらちゃん、こんばんは、お久しぶりだね」
「まったくね」
 くじらちゃんはわざとらしく肩をすくめた。その拍子に、左の肩からボキリと鈍い音がした。男の子は、にこにこと楽しそうにくじらちゃんを見上げている。
「ねえ、ずっと家の中にいるのって、どんなかんじなの?」
 男の子が尋ねて、くじらちゃんは首をひねった。今度は嫌な音はしなかった。
「新しい傘を買ったのに、それから一ヶ月も晴れ続けているかんじ。魚の骨がのどにささっているかんじ。重ぉいハンマーでごつごつんと殴られているかんじ」
 考えてもよく分からなかったので、くじらちゃんは適当に答えた。それでも男の子は納得したように、深く息を吐きながら何度もうなづいた。
「さすが、くじらちゃんだなあ」
 感心したように言われて、くじらちゃんも嬉しくなったので、男の子の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。その間も、男の子はずっと同じ顔で笑っていた。



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