こわれない



 嘘にも温度はあるだろうか。
 暖かな布団の中でそんなことを考えた。少しだけ泣きたくなる。いつもはこんなことないのに。眠気がとんで、冷静になってセンチメンタルな自分を客観視してみると少しだけ吐き気がした。
 人と関わるのは苦手だけど、時々は発作的に恋をする。誰かを好きでいるのは心地よくて苦しい。数ヶ月前に出会った彼女は名前を晶子といった。本名かは知らない。年齢よりいくらか若く見える彼女の喋り方には抑揚がない。それでもお気に入りのプリンを食べれば怒るし、頭を撫でるとよろこぶ。普通のひとだ。
 誰にも心を開かない彼女のそんなところが僕は好きだけど、もしも彼女が僕だけに心を許した時、僕は今以上に彼女が愛おしくなくなるだろう。けれど彼女は相変わらずの人嫌い。僕を見る目も虫の死骸を見る目も同じ。壊れることのない頑丈な盾。それが悔しくて僕は、会うたび彼女を抱きしめる。知ってほしくて必死。造りの違うやわらかな四肢はあたたかい。だけど安心はしない。僕の頼りない腕の中で、彼女の指先はいつも変わらない温度で、僕はまた泣きたくなる。吐き気が近づく。



090211



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