百五十点



 ちゃんと好きだよって彼が笑うから、ちゃんとって何ってきいたら、面倒くさそうな顔をした。すぐにはがれる薄っぺらな笑顔の仮面はもう付けなくてよろしい。
「きーんこーんかーん」
「何時のチャイムですかー?」
「放課後でーす」
 好きとか嫌いとかどうでもいいって彼は言ったけど、好きなおかずは食べるし嫌いなおかずは残す彼は、やはり好きとか嫌いにこだわっている。
「きんきんこんこーん」
「何の音ですかー?」
「当ててくださーい」
「分かりませーん」
「それもまた正解!」
 たったひとつの正解を探していたのだよね。でも答えがたくさん見つかったからどれが本当でどれが間違いなんだろうって迷って迷って結局全部どちらでもなかった。つまり彼にとってピーマンが苦くてもわたしにとっては甘いってことだ。
「好きって十回言ってくださーい」
「好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き」
「あはっ」
 彼はへらりと笑うだけ。なぜ言わせたのかと理由をきいたら「嬉しくなりたかったから」ってとびきりいい笑顔をわたしに見せた。嬉しくなれてよかったね。なんてばかで愛おしいきみ。
 感情をめいっぱい詰め込んだ言葉でも誰にも何も伝わらないときがあるように、感情のこもらない言葉でも人は感動するときがあるのだ。今日の彼はそれを教えてくれた。うーん、百五十点。
「きーんこーんかーん」
「こーん。放課後の放課後」
「帰る?」
「うん」
 並んで家に帰りながら、唐突に彼が「ほんとうに好き?」ってきいてきた。さきほどのわたしと同じことをきかれたら、わたしも同じことしか答えられないのだから彼ばかりを責められないなあと思いながら「ちゃんと好きだよ」って言って手をつないだ。わたしも持っていた薄っぺらな笑顔の仮面。あたたかな彼の手のひら。



090205



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