この絵が完成したら



 とくべつな風景画を描いていた。きみが好きな夕方のやつ。前にふたりで海に行ったとき、きみがあんまり喜ぶから僕も嬉しかったよ。ありがとうって言ってくれてありがとう。だから僕は夕方の海の絵を描いてた。
 描き上がったら一番にきみに見せて、一言でもきれいだと言ってくれたら絵はその時やっと完成する。この絵が完成したら、きみにプレゼントしてプロポーズをしよう。そういう予定だったのに、きみは昨日遠くへ逝ってしまったからもうこの絵は一生完成しない。

 未完成なものが嫌いだ。だから僕はいつかこの絵を燃やすんだ。ぜんぶ忘れてしまうために。それでも僕の中にはいつまでも未完成なきみへの気持ちやら何やらが、数え切れないほどたくさんたくさん渦巻いていて、気分が悪くてしかたがなくて、思い出すたび泣きそうになる自分に反吐が出る。そうして中身を何もかも吐き出してしまう前に、僕は僕を燃やすんだ。焼失。可哀相な僕の完成。



-エムブロ-