A〜Dの悲劇



Aは車に轢かれて死んだ。
信号を無視したトラックがAを押しつぶして、後はあっという間だった。Aの存在は一瞬のうちに思い出になった。

Bは寒さに凍えて死んだ。
いつも笑っているやつだった。働きもせず公園に住み着き、段ボールにくるまりながら、それでも誰よりも不幸を知らない笑顔が素敵なやつだった。笑顔のまま死んでいたBの存在は、公園の鳩たちだけが知っていた。

Cはいつのまにか残像になっていた。
初めから夢の存在だったのかもしれない。

Dは思い出に耐えきれず自殺した。
AはDの母親でBはDの父親でCはDの弟だった。Dの頭の中が辛い思い出ばかりで埋め尽くされたとき、Dはすべてを捨てる決心をした。その瞬間に、Dの存在も誰かの思い出になった。



-エムブロ-