いろはにほへと



 殺風景な海岸を、波打ち際にそってまっすぐに歩きながら、双子は手をつないでいた。
「いろは、あそこに何か落ちているよ」
「ほへと、あれは骨片だよ」
 嬉しそうなほへとを横目に見ながら、いろはは肩をすくめた。ほへとは気にせず、その白い塊に向かって駆けだした。双子はとてもきつく手をつないでいたので、仕方なく いろはも付いて走った。塊のそばに着いたころには、いろははずいぶん息が苦しかった。けれどほへとは涼しい顔をしていて、それが何だか悔しくて、いろはは肩で息をしないように必死に抑えた。
 ふいに、ほへとの小さな指が塊をつまみ上げた。いろははまだ声を出す余裕がなかったので、「あーあ」と言うかわりに、ぺろりと赤い舌を出した。白い塊は硬く、二人の親指を全部合わせたほどの大きさをして、ほへとの手の中で鈍く発光していた。
「これ何かなあ」
「だから、骨片だよ」
 ほへとが首をかしげると、いろはがすかさず答える。
「何の?」
「人間か何かの」
 いろはの答えに、ほへとは「うへえ」と眉をひそめた。いろはも「うへえ」と続けると、双子はまったく同じ顔になった。まるで鏡のようだと、ふたりとも思った。
「ほら、捨てて」
「うーん。持ってかえるよ」
 ほへとは大切に塊を握りしめた。いろははそれを見て、いやそうに顔をしかめた。
「だめだよ、持ってかえったって意味ないよ。おまえは飽きっぽいんだから、そんなものすぐになくして、忘れて、それがなくなったことにすら気付かないで、人生をおえるんだぞ。きっとそうだぞ」
「うーん…」
 いろはの唇がめまぐるしく言葉を紡ぐのを見ながら、ほへとの思考はもう、骨片の持ち主だった誰かに移っていた。ほへとの脳内に誰かの顔は浮かばなかったが、きっと幸せな一生を送ったんじゃないかなあと思った。彼の小さな手の中で、骨片はいつまでも温かかった。



-エムブロ-