そっくりだね



 ふたりでいると、誰に会ってもまずは「本当にそっくりだね」って言われて、そのたび湯太は嬉しそうに笑うから、おれもとなりで笑ってた。そうだよ、そっくりでしょ、おれと湯太は。同じ日に同じ母親から生まれたってだけで、こんなにも似るものなんだねって、誰もが感心した。血の繋がった家族でさえ、おれたちを見分けるのは難しかった。
 だけどひとりだけ例外がいる。よく兄に電話をしてくるあいつだ。一度からかってやろうと兄の真似をして返答したら、すぐにばれた。何で分かったのって訊いたら「全然違うじゃん」って事も無げに言われた。
 そのとき初めて誰かに、おれがおれとして見られた気がした。あいつはおれたちを、よく似た双子としてじゃなくて、それぞれひとりでちゃんと見た。全然違うじゃんって、それだけが痛いほど嬉しかった。おれは湯太じゃないよって、ずっと誰かに言ってほしかったんだって、そのとき初めて気が付いた。
 涙があふれそうになって、必死でこらえた。全部ばかみたいだと思った。兄を呼ぶために受話器を置いて、おれは少しだけ笑った。



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